完全空気清浄化男の異世界クリーンライフ

餡乃雲

第1話

 ――俺は汚い空気が苦手だ。


 タバコ、排気ガス。それら全部がダメだ。吸うと吐き気がする。体質的にアレルギーなのだ。


 散歩をしていてパチ屋の前を通りかかると、小汚いババアがタバコを吸っていた。俺は煙を吸い込まないよう息を止め足早に通り過ぎ、JR高架橋の下を潜り抜けた。その先は何と異世界につながっていた。



 別世界に転移した俺の目の前に【スキル、完全空気清浄化(パーフェクト・クリーン)得ました】という表示が出た。


 とすぐに俺の嗅覚が異常を察した。タバコの煙など比ではない毒を吸っている感覚。う、イカン、急に眩暈がしてきた。何だか体も痺れてきたぞ……。俺は片膝をついて脂汗を浮かべる。


 周りはデカい昆虫だらけ。毒の霧に化物がわんさか、どうやらここは地獄らしい。


 俺はこいつらに食われて死ぬのか……。


 とりあえず、俺は「完全空気清浄化!」と念じてみた。すると、俺の周りにいるバカデカい昆虫モンスターが体から血を噴き出して倒れていった。そして、なんと空気がキレイになっていた!


 すーはーすーはー。息ができるって素晴らしい。俺はしばらくそうして体力を回復した。



 ようやく体の痺れがとれて色々周りを観察する余裕が出てきた。ふとステータスウィンドウという文字が目の端にとまり、そこを適当に押してみるとスキルの説明が書いてあった。



【完全空気清浄化(パーフェクト・クリーン):自分中心に半径30メートルが清き清浄なる大地となり、自分以外の生物は血を噴き出して死ぬ】



 なるほど。だからちゃんと息ができるのか……。しかし物騒なスキルだな……。



 それから俺は毒ガスを吸い込まないよう20メートルおきにスキルを使いながら、猛毒と化物昆虫の森を進んだ。


 しばらく進み森の切れ目に出ると、紫色のスモッグが漂う丘の向こうに人の町が見えた。結界にドーム状の結界に覆われた、今にも毒と虫で滅んでしまいそうな、そんな雰囲気に見える。



 なるほど。ここは大型の昆虫モンスターが跋扈しており、さらには毒生植物が大地を覆っており人類は滅びの時を迎えようとしている。そんな世界に俺は放り込まれたというわけか。


 地獄とは言わないまでも、似たようなものだ。



 変なスキルのおかげで即死はしなかったものの、このスキルを使えば人も殺してしまうに違いない。


 こんな世界で俺はどう生きればいいのだろう。

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