第12章:私たちの甘くて新しい日常

 健人さんと恋人同士になってから、私の日常は、甘くてキラキラしたものに変わった。


 会社では、今まで通りのクールな先輩と、ちょっとドジな後輩。私たちの関係は、もちろん二人だけの秘密だ。

 でも、その秘密が、たまらなくドキドキする。


 他の社員がいるデスクの下で、彼が私の足に自分の足をこっそり触れさせてきたり。

 給湯室で二人きりになった一瞬に、さっと手を繋いで、すぐに離したり。

 彼が書類を渡すフリをして、付箋に「今夜、何食べたい?」なんて書いて渡してきたり。

 そのたびに、私の顔は真っ赤になって、心臓はうるさいくらいに鳴り響く。でも、それが幸せだった。氷の貴公子が見せる、私にだけ向けられた甘い仕草。そのギャップがたまらない。


 そして夜は、恋人としての甘い時間が待っている。

 ほとんど毎日、健人さんは仕事帰りに私の部屋にやってくる。そして、当たり前のようにキッチンに立って、美味しい夕食を作ってくれるのだ。

「健人さんのご飯、美味しすぎます。もう、私の胃袋、完全に掴まれちゃいました」

「それは光栄です」

 そう言って笑う彼の顔は、会社では絶対に見られない、穏やかで優しい恋人の顔だ。


 二人で一緒に夕食を食べた後は、ルナ・セレスの配信企画を考える。彼は最高の恋人であり、同時に、最高のプロデューサーでもあった。

「この企画、面白いと思う。葵の優しさが伝わるはずだ」

「本当? よかった!」

 彼の肯定的な言葉が、私に自信を与えてくれる。


 先日の配信で、私は思い切ってファンのみんなに報告した。

「あのね、実は最近、私をすごく支えてくれる、大切な人ができました」

 その途端、コメント欄は、お祝いの嵐になった。


 《ええええええええ!》

 《おめでとうルナ様!》

 《もしかして、あのナイト様!?》

 《絶対Kさんだろ!お幸せに!》


 みんな、分かってるんだなぁ。リスナーからの温かい祝福に、胸がいっぱいになる。

 画面の向こうとこちら側、二つの世界で、私の恋は祝福されていた。

 隣で配信を見守っていた健人さんが、私の言葉を聞いて、とても優しく微笑んでいる。


 配信が終わり、機材の電源を落とす。部屋に、穏やかな静寂が戻ってきた。

 私はくるりと振り返り、彼の首に腕を回した。


「いつもありがとう、健人さん」

「こちらこそ、葵」


 彼はそう答えると、私の腰を抱き寄せ、優しくキスをした。

 地味で、自信がなくて、退屈だった私の日常。

 でも、一つの秘密がバレたあの日から、私の世界は、信じられないくらいカラフルに色づき始めた。


 無口でクールな会社の先輩は、私の配信に夢中なガチ恋ファンで、そして今では、世界で一番私を愛してくれる、最高の恋人。

 この幸せな日々が、これからもずっと続いていく。

 私たちは、きっと大丈夫だ。

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