再誕の非勇者、彼は刃を執る

プルム破壊神

プロローグ

骨の砕ける鈍い音が、今も頭蓋の中で低くうねっている。毛皮は、夜陰に紛れる影のような深灰色だったはずが、今は暗紅の血痂、黄緑の膿、そしてダンジョン最深部の湿った黴菌の汚れでべっとりと固まっている。息をするたび、肋骨の間を引き裂く痛みが走り、肺はまるで紙やすりで擦られるようだ。

疲労困憊。意識は激痛と無感覚の境界で漂う。風食岩に囲まれた、かろうじて「巣穴」と呼べる窪みに戻り、傷を舐め、飢えと寒さの中で次なる「生存」の時を待ちたいだけだ。

その時、それを嗅ぎつけた。

腐敗臭でも、血の匂いでもない。これは…穢れなき破滅。鋭く、万物を焼き尽くす純粛な何か。焦げ臭? いや、浅はか過ぎる。これは灰だ。存在そのものが完膚なきまでに抹消された後に残る、冷たく虚無の余韻だ。

頭を持ち上げる。濁った琥珀色の獣瞳が、見開かれる。

遠方の地平線が、呻き叫んでいる。

風。風が吠えている。枯死の荒原(Blighted Waste)に残された、針金のように干からびた荒草を巻き上げる。砂礫と灰の生臭さを帯びて、顔を打ちつける。空は鉛の鍋蓋。重苦しい暗雲が渦巻き、背骨が軋むほどに押し潰さんとしている。雲の奥深くで、青白い稲妻が時折闇を引き裂く。無音の咆哮。その閃光が、下方に蔓延る、万物を貪り尽くす白を照らし出す。

白。

純白。

光ではない。生きている炎だ。冷たく、狂信的で、審判の意志を宿した火の壁。それらは地より湧き上がり、渦巻く暗雲へとまっすぐに突き刺さり、無数の「凝結した悲鳴」で構成された柵のようだ。幾重にも連なり、視界の及ぶ地平線を封鎖している。その方向は…峡谷の縁にある窪地だ! 最後の息継ぎの地が!

空気が焼け焦げる。息を吸うたび、肺に灼熱の針が突き刺さる。風が運ぶのはもはや腐臭ではない。存在が完全に消し去られた後の虚無の気配だ。灰。冷たい灰の匂い。

「がぁ…」 喉の奥から絞り出されたのは声ではなく、風穴の空いた袋の漏れる音だ。地面を引きずるほどの後脚——砕けた骨の鈍痛がまだ頭蓋内で反響している——を引き摺りながら、その滅びの純白へ、獣(けだもの)は突進した。

鉤爪が乾き切ってひび割れた泥地に深く食い込む。一歩ごとに、折れた骨がずれ、軋む。その歯の浮くようなきしりは己だけが聞く音だ。粘稠な血と膿が毛皮の裂け目から滲み出し、枯れ草へ滴り落ちる。瞬時に高温で焼け焦げ、黒い斑点になる。視界の端が黒く滲み始めた。


闇。部屋? 濃厚な鉄錆の臭い。鎖の冷たい触感…これは自分の記憶ではない。顔。ぼやけているが、その目! 何かが…詰まっている? 焦燥? 恐怖? それが己に向けられている。唇が無音で開く:「…逃げろ…」。そして視界が、温かく飛沫する赤で覆われる。バン! 音ではなく、魂が砕ける衝撃。


「なぜだ?」

問い詰める声はない。しかし疾走する胸の中で炸裂する。脚の傷よりも痛い。

距離が縮まる。白い高壁はもはや遠景ではない。目前に迫る焼却炉だ。空気は歪むほどに加熱され、空間そのものが燃えているかのようにシューシューと呻き叫ぶ。皮膚の毛が瞬時に縮れ焦げ、無数の焼けた針が表皮から骨髄へ刺さるような激痛。汗? いや、脂が炙られるじゅうじゅうという音だ。

狂風はさらに激しさを増し、舞い上がる灰と枯れ草の断片を巻き上げる。汚らしい吹雪のようだ。重い雲の隙間から、かろうじて漏れる病んだような薄黄色の光が、荒原の縁を無力に撫でる。それは、全てを飲み込む純白との、刺すような絶望的な対比を描く。獣は砂塵と熱波を一身に受け、頭を低くして突っ走る。喉は煙が出るほどに乾き切っている。息をするたびに血の泡が混じる。


眩光(げんこう)。喧騒の波。粗い木目が、生皮肉に深く食い込む。冷たさ。骨の髄まで刺す冷気。無数の視線が、実体化した蛆虫のように体を這い回る。高みに立つ金髪の影。その口元が…笑っている? ぬるりと冷たい何かが、むき出しの胸や顔にぶつかる。腐った野菜の悪臭。罵倒の声が、全てを飲み込む。


「お前たちの何が偉い?」


憎悪が溶岩のように、ボロボロの肉体の中を奔り、理性の残骸を焼き尽くす。

もっと近い! 火炎壁の甲高い唸りは、もはや背景音ではない。脳髄に食い込む鋼針だ。それは火精霊の意志だ。純粛で冷たく、「穢れ」への極致の憎悪。揺らめく視界の奥、幾重にも重なり流転する純白の柵の向こうに、何かを持ち上げている、小さくかすかな人型の輪郭が浮かぶ。周囲の空気は熱波で歪んでいる——元凶め!

激痛! 限界を超えた疾走で、左後脚の腱が引き裂かれる悲鳴をあげた。よろめき、前脚で地面を掻きながら、どうにか踏みとどまる。焦げ臭がさらに強くなる。己の毛皮が燃えている! 高温と激痛で視界がかすみ、揺らぐ。しかし前方の白、同胞の息遣いと呻きを呑み込んだ白は、ますます鮮明に、巨大に、視界の焦点を埋め尽くす。天辺のわずかな薄黄色は、果てしない白と鉛灰色の圧迫の下で、幻のようにかすみ、今まさに消え去ろうとしている。


悪臭! 息が詰まる体臭。食欲と残忍に満ちた濁った黄色。巨大な影が覆い被さる。避けられない! 鈍い衝撃! 脚の骨が…折れた? いや、粉砕だ! 激痛が炸裂する前に、第二撃! 胸が…陥没した? 窒息! 生温い鉄の味が喉を逆上る。重い踏みつけ。肋骨が呻く。死の闇が、実体のように濃密になる。


絶対的な…白? いや、空。光で構成された…存在? 顔はない。ただ…塵芥を見下ろすような無関心。無形の視線が押しつぶす。全生命への嘲弄と抹消を帯びて。冷たい思念が突き刺さる:「残滓…無価値…」。死よりも冷たい虚無。


「力が…」

もはや乞いではない。呪詛だ! あの滑稽な過去の幻影への唾棄だ! この廃躯を燃やす唯一の薪だ!

「全てを引き裂く力を、俺によこせ!」

「がおおおおおおおお——!!!」

砕かれた魂の全て、踏みにじられた尊厳の全て、焼かれた眷恋の全て、嘲笑された死の全てを凝縮した究極の咆哮が、狂風の唸りを引き裂き、炎の悲鳴を圧倒する! それはもはや獣の吠え声ではない。深淵そのものの怒号だ!

獣は燃え上がる決意の、断末魔(だんまつま)の脚と血の炎を引き摺る灰色の彗星と化した。高温で皮肉がじゅうじゅうと呻くのも、骨が軋んで耐えかねるのも無視して。魂の奥底で決して消えぬ問い詰めと天を焦がす憎悪を携え、その「浄化」と偽善の「正義」の象徴たる——

純白の炎の壁へ!

躊躇なく——

突っ込んだ!

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