ムーンサルトに 恋をして

蓮条

摩天楼の夜

第1話 失恋

「えっ、……どういうこと?」

「だから、まだ多少なりとも払い戻しが利くだろっていう話」

「いや、そうじゃなくて……。別れたいってどういうこと?」

「どうって、言葉のまんまだよ。他に好きな人が出来たから、お前とは付き合えないってことだけど?」

「……は?」


 駅前のファストフード店で彼氏と待ち合わせした私、岸野きしの 七海ななみ 二十二歳は、数日前に大学を卒業したばかり。

 今目の前でアイス珈琲を飲みながら、しれっとした顔で別れを告げたのは、宮野みやの ゆずる 二十二歳。

 同じ年で大学一年の時から付き合い始めた彼氏で、同じく数日前に同じ大学を卒業した。

 そして、その彼氏と卒業旅行を半年以上前から計画していて、出発が三日後に控えているというのに……。


 このタイミングで別れを告げるとか、ありえない状況に私は金属バットで殴られたような感覚に陥っていた。


 **


 一昨日から新入社員研修のオリエンテーションが前倒しであったらしく、そこで知り合った会社の先輩に一目惚れし、その日のうちに口説き落として、更にはその彼女と昨日寝たと言う。

 単に味見がしたかったのでは? と思いながらも、既に私に何の感情もないという彼の言葉に、それ以上言い返す気力も消え失せた。


 約十日後には、新生活がスタートする。

 卒業と同時に彼のこともリセットして、新しい人生をスタートさせた方がいいと自分自身に言い聞かせる。


 大学四年間の楽しい思い出が、彼の一言で黒歴史に塗り替えられてしまったけれど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る