第7話 父のことがわからなくなりました

 僕が中学校に入ったばかりの頃だったと思います。学校で体調が悪くなり、夜勤明けで家にいた父に迎えに来てもらいました。


 その帰り道。なぜか父が急ブレーキを踏みました。


 ——えっ、何? 道路で動物でも死んでた?


 驚いていると、父は車の外へ飛び出して行きました。


 ——もしかして、父さんが何かを轢いた!?


 僕は焦りました。父が相当焦っているように見えたので、ただごとではないと思ったんです。


 そしてつぎの瞬間——。大きなキジが飛び跳ねました……。


「えっ……???」


 キジがバタバタと何度も飛び跳ねて、父が「待て!」と叫ぶ声が聞こえます。


 僕は体調が悪くて、車の中でぐったりとしていて、フロントガラスの向こうでは、キジと父の仁義なき戦いが繰り広げられていました。


 ——何を見せられているんだろう……。


 僕は早く帰って寝るなり、病院へ行くなり、どうにかしたい状態なのに、なぜか、ヤ◯ザ顔の父は険しい顔で、ずっとキジと戦っていたんです。


 ——これは夢だ。そういうことにしておこう。僕は体調が悪いからね。


 そんなことを考えながら、戦いが終わるのを待ちました。


 そして10分後。キジが無事に飛び立って、父は呆然と空を見上げていました……。そりゃあ、そうでしょうね。とは思いましたが。


 しばらくして、父は車に戻ってきて、呟きました。


「せっかく、キジ鍋が食えると思ったのに……」


 動物好きな父なのでキジを飼いたいのかと思いましたが、あのキジは食べようとしていたようです……。


 ——僕は日本に住んでいると思っていたけど、ここって、ジャングルの中だったのかな。サバイバル?


 もう言葉が出てこなくて、家に帰った後は、全てを忘れて寝ました。




 父がヤ◯ザ顔なのと、おじさんにしては背が高いので「怖そうだね」とかいう友達もいますが、こういう間抜けなエピソードばかりで、全く怖くはない。


 ただの変なおじさんです……。

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