第5話 父は服の趣味が悪いんです
中学生になってすぐの参観日。
保護者が教室に入って来るたびに、生徒はチラチラと見て「誰の保護者?」と話す声が聞こえます。
そして、もうすぐ授業が始まるという時。急に教室の中がざわつきました。不思議に思って教室の入り口に目をやると——見慣れた顔が。
そうです。注目を浴びているのは、僕の父。
なぜかというと、彼が派手な紫色のサテンのスーツを着て来たから。室内だけど、光り輝いていましたね……。そして、おしゃれポイントなのか、中のシャツも派手な黄色の柄シャツ。
見た瞬間、目眩がしました。だから来なくていいと言ったのに……。
父は信じられないほど服の趣味が悪いんです。紫のサテンのスーツは、やんちゃをしていた時代の頃の服。
「え? 誰の親? ヤバイじゃん」
「絶対にヤ◯ザだよ」
「いや、チンピラってやつでしょ」
みんながヒソヒソと話している声が聞こえてきます。僕は父を睨みました。なんで来たんだ! と心の中で叫びながら。
すると父は僕に気付いたようで「おぅ」と手をあげました。
——手をあげるんじゃねぇ! 僕の親ってバレるだろ!
父は僕が睨んでいることには気付いていない様子。なぜか、みんなに見られていることに優越感を抱いているように見えて、よけいに腹が立ちました。
——違う、ヤバイって言われてるんだよ!
ふと、母は何をやっているんだろう、と思いました。いつもなら止めるはずなのに、父の隣に母の姿はありません。
すると——母は廊下にいました。
どこを見ているか分からないような表情で、黒板の方を向いています。
——くそっ! 放棄しやがったな!
たぶん、説得はしたけど無理だったのでしょう。だから他人のふりをすることにしたようです。もう少し頑張ってほしかった。
しばらくして先生も教室に入って来ましたが、先生も父を見て目を大きくしていました。そりゃあそうでしょう。昔のドラマで見るような人を、教室の中で発見したのですから。
僕は後ろの席だったので、父は僕の後ろに立って、たまにノートを覗き込んだりします。当然、紫色のサテンのスーツが僕の父だということがバレますよね。また、みんながヒソヒソと話す声が聞こえました。
もう、耐えられない……。だから僕は言ってやりましたよ。
「頼むから、帰ってくれ!」
父は驚いた様子で「なんでだよ!」と言っていましたが、それが分からない方が「なんでだよ!」じゃないでしょうか?
一生忘れられない、最悪な参観日になりました。
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