第85話 入京・その後Ⅱ

※ 現在執筆の時間を余り取れない為、投稿を優先して話が短くなっております。また、誤字脱字の確認も不十分です。以上、ご了承ください。


◎美濃国・稲葉山城 織田信長

 1563年 4月中旬


 三月みつき前の睦月むつき(一月)に始まった美濃の攻略戦は正顕の言う通り、一色が朝敵指定された事により離反が相次ぎ、我らへと寝返る者たちが後を絶たず、二月もせぬ間に美濃の大半を手中に収め、弥生の終わりには稲葉山を囲んでおった。


 これには一色の朝敵指定と言う出来事が最も影響が大きかった訳だが、三河を手中に収めた事により、背後を気にする事なく美濃攻略へ全兵力を向ける事が可能になった事も大きかったと言える。


 そしてこの美濃攻略、特に稲葉山城攻城戦で大きな役割を果たしたのが、先頃、侍大将に抜擢ばってきしておった禿ネズミ(木下藤吉郎)であった。弟と共に稲葉山の城内に通じる間道を発見し、それを使って城内に潜入、城内を混乱させ城門を見事に開けて見せた。


 正にこれが決定打となり、稲葉山城は落城し、一色は滅亡した。ただし、鼠一匹這い出ぬようにと囲んでいた囲みから、どのようにしたのか分からぬが、龍興の身柄は忽然と消え去っており、その行方は知れていない。東に向かう姿を見た等の未確定な情報が上がって来たが、事実確認は出来なかった。


 とまぁ龍興の身柄を押さえられなかった事は残念ではあるが、これにて念願の美濃を我が物とする事が出来た。これにより我らは次に何処へ向かうべきであるかだが、今川か、武田か、それとも朝倉か、はたまた姉小路か、難しい所ではある。大義名分を考えれば、三年前に戦を仕掛けられた今川を降し、続けて今川の同盟先である武田、あるいは北条の順に進めて行くのが望ましいと言える。


「であれば、居城は清須のままが良いか…では稲葉山は誰に任せるか…」


 今後の織田家の向かう道筋について苦心しておると、呼んでおった禿ネズミ(木下藤吉郎)が姿を現した。


「殿様、禿ネズミに御座います。お召しにより参上しました。」


「おぉ、丁度良かった。今から問う事、忌憚なく答えよ。この稲葉山と大垣、金山を誰に任せればよいと思うか?」


「…そうですな、順当にいけば楠木様とも面識があり、友好的でもある丹羽様を大垣に、稲葉山は美濃丸様が美濃をお継になられるまでの繋ぎとして、どなたか城代を置かれれば宜しいかと。それから金山は信濃に近く、また遠山へ睨みを利かせる上でも柴田様か佐久間様が適任かと。」


「成程な、良く考えられておるわ。よし、であれば稲葉山の城代は禿ネズミ、其方に任せる。美濃丸の為に良く治めよ。」


「そっ、某にですか?!」


「そうだ、此度の稲葉山城攻めの恩賞の意味合いもある。今後の為にも城主としての経験を積め。」


「分かりました。謹んでお受け致します。また、これを機に名を改めたく思います。姓を羽柴、名を秀吉と致したく。」


「羽柴か…はっはっは…五郎左(丹羽長秀)と権六(柴田勝家)の姓から一字づつか?よく考えつくものよ…、まぁ良い許す。」


「ははあ、有難き幸せ!」


 それから、美濃の差配として禿ネズミの意見を採用し、大垣を五郎左、金山には半羽介はばのすけ(佐久間信盛)を配する事とした。



 ◎越後国・春日山城 上杉輝虎

 1563年 4月中旬


 今年の初旬、我が元に信じられぬ報せが齎された。


 上様が美濃の一色家をそそのかし、春齢かすよ女王様の降嫁の儀の最中である楠木へ攻め入らせたとがにて、征夷大将軍の位を剥奪された上、全ての足利家が朝敵とされたとの由。


 我も八方手を尽くし調べさせたが、この報せは朝廷から全国の大名や寺社、関係各所へ同様に発布された物で、それが事実である事が確認された。


 さらに聞く所によれば、先の今川の上洛騒ぎも上様が裏で糸を引いておられたとの情報もある。


 そして最新の報告では、上様への報復の為に京へ侵攻した楠木は、上様の身柄の確保には失敗したようだが、京を含む畿内の殆どを制した。そして先の制覇者であった三好家は和泉国と播磨国の一部の所領を残し、全てを失陥した上、服属に近い形で和睦を結んだと聞く。


 また、くだんの上様については楠木の包囲が完成する前に京を脱出されたらしく、この報せによって我は胸を撫で下ろした。


 その様な折に心配しておった上様であるが先頃、我が春日山城をお尋ねになり、非常におおいたわしいお姿で力を貸して欲しい旨のお言葉を頂いた。


 通常であれば朝敵指定を受けた者を匿う事など、決してするべきでは無いのだが、上様曰く「これは楠木のはかりごとであり、帝も欺かれているのだ!」とのお話であった。我にはどうする事が正しい事なのか判断出来ないが、このような状態の上様を放り出す事など、我の正義が許さない事だけは確かな事だった。


 故に上様を匿い、朝廷への働きかけを行って行く事をその場にて上様にお誓いした。当然臣下の者らからは反対の意を表明する者が数多く居たが、何とか抑え込む事に成功した。


「しかし、本当に宜しかったのですか?下手をすれば我らも朝敵と成りかねませんぞ…」


「宇駿(宇佐美定満)、其方も反対か?」


「そうですな、正直に申せば反対ですな。管領(上杉憲政)様の場合は匿う為の大義が御座いましたが、此度はそうでは御座いません。ハッキリ言ってしまえば、大きな荷物…いや、毒物でしかありませぬ。」


「はぁぁ…、そうであろうな、確かに宇駿の言は尤もであり、正論であるが故に我も反論する事が出来ぬ。しかしそれが正論であり、正しい事であったとしても、我の正義が上様を見捨てる事を良しとせぬ。」


「荒れますぞ?」


「構わぬ…打ち破るのみだ。」


「…御実城様がそこまでの御覚悟であれば、儂はこれ以上は申しませぬ。」


 宇駿は静かに一礼するとこの場を辞して行った。


 それからどれ程の時をその場にて考え込んでいたのだろうか。小姓の一人の「上様がお呼びです。」との声で現実へと引き戻された我は、その小姓を引き連れて上様の元へと向かって行った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る