第6話 復讐者

 装備を整えた次の日の朝、冒険者養成所の門を叩いた。

 ここは指導料を払えば誰でも利用できる施設だ。


「ゴブリンにすら劣る愚か者どもよ!! 地獄へようこそ!! ここではインセプションランクからホープランク、そしてゴブリンランクへ上がるまでの知識と技術が身につくぞ!!」


 料金に応じてIランク、Hランク、Gランク帯の知識を懇切丁寧に指導してくれる。

 アネットは辛口ゴブリンコースを選択した。ギャリー教官の甲高い声が癖になる。


 本日の受講者はアネットを含めて四人いる。

 片手剣使いの少女と双剣使いの少年、さらには大量に武器を背負ったグラディスがいた。


「まずはパーティーを組んだ際の役割について説明しよう。アタッカー、タンク、ヒーラー、バッファー、デバッファーなどがある。バランスのいい編成であれば幅広い依頼に対応できる。偏った編成であれば強力な魔物にも強引に勝つことができる。時と場合に応じて役割を切り替える柔軟性が求められるだろう」


 アタッカーは敵に大ダメージを与える存在。

 タンクは敵の攻撃を防ぐ存在。

 ヒーラーは味方の怪我を治す存在。

 バッファーは味方に強化魔法を掛けて支援する存在。

 デバッファーは敵に弱体化魔法を掛けて妨害する存在。


「続いてジョブについて説明しよう。双剣使いはごりごりのアタッカー。弓使いはアタッカーとデバッファーを両方こなすジョブで、片手剣使いは全てを担うジョブだ」


 教官が一人ひとり指導していく。


「弓使いが最初に覚えるべきことは魔法の矢と木製の矢の違いだ。魔法の矢は風や重力による影響を受けにくく狙いがつけやすい。しかし、空中で徐々に魔力が消費されていくため、飛距離に反比例して威力は落ちていく」


 彼は魔法の矢を的に放った。


「木製の矢は風や重力による影響をもろに受け、ゆっくりと下降していく。的が遠ければ遠いほど当てるのは困難になる。偏差撃ちは数をこなして体で覚えていくしかない。風向きを読むために大気中の魔力を視認する訓練も必要だ。武器の説明は以上だ。今からゴーレムと戦ってもらうので四人で話し合って二チームに分かれろ」


 片手剣と双剣の男女がペアになり、アネットとグラディスがペアになった。


「ここには武器を宣伝しに来ただけなんじゃが……。なにゆえにわしまで」


 遠巻きに見守っていたモモに救難信号を送るも彼女は腕を組んだまま頷くだけだった。


「グラディスちゃん、どうするの?」


「しゃーないのう。素人が扱っても戦えるところを見せつけてやるのじゃ」


 グラディスは戦う覚悟を決めて片手剣と円盾を構えた。


「ゆくぞ、アネット」


「ん」


 ゴブリンの姿を模した岩人形ゴーレムが1体襲い掛かってくる。アネットは植物魔法を仕込んだ矢をゴーレムの足元に打ち込み、ツル植物を成長させて足止めした。その間にグラディスが接近して真っ向から斬り伏せた。


「せいっ、……どうじゃ、見たかこの斬れ味!! 欲しくなってきたであろう!!」


 同じタイミングでもう一チームもゴーレムを倒した。


「……なんじゃ、あちらさんも手一杯で、剣の性能を見ておらんのか」


「グラディスちゃん。次来る」


 教官がゴブリンゴーレムを大量に作り出した。


「ゴブリンは群れで行動する魔物だ。一匹倒した程度で気を緩めるな。本番はここからだ」


「ぴええっ」


 お昼過ぎまで戦闘訓練は続いた。


「――武器が売れたのは良かったのじゃが、うぅ、体のあちこちが悲鳴を上げておる」


「おなかすいた」


「あんたたち初めてにしては良い連携だったわ。Gランクにはすぐ到達できそうね」


「……冒険者か。……夢を叶えるためには幅広い知識が必要なのかもしれぬな」


「グラディスちゃんの、ゆめ?」


「聖剣を超える武器を作ること。それがわしの夢じゃ」


「えらく物騒な夢ね。聖剣って一振りで国が消し飛ぶ究極兵器でしょ。あんた、世界に恨みでもあるの?」


「人を殺める武器が作りたいわけではない。ただ、我慢ならんのじゃ。じっさまが心血注いで打った最高傑作を、どうせそれも聖剣には及ばないだろう、と鼻で笑った奴らがな」


 グラディスは空を仰いだ。


「反論できんかった。わしらの技術は古代文明に遠く及ばない。わしらはただ、歴史をなぞっているだけにすぎぬ。人類が堂々と前を向いて歩くには、聖剣を超えねばならぬのじゃよ」


「おー」


「最高の武器を作るには最高の素材が必要じゃ。冒険者になれば素材を集められるであろう?」


「あんたも冒険者になるってこと?」


「お前さんらのパーティーに加えてくれんか? 武器の手入れならしてやれるぞ」


「……と、言われてもね。決定権はあたしにないから」


「シュウくん。わたし、グラディスちゃんともっと一緒にいたい」


 グラディスは志が高くて好感が持てる。


「まあ、賑やかになっていいんじゃないか」


「……っ!?」


「俺はトワイライトのリーダーをしているシュウだ。以後よろしく」


「う、うむ……。よろしくお願いするのじゃ」


 軽く自己紹介をしてステータス(隠蔽済み)を見せた。

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▽勇上柊羽

 年齢:16歳

 性別:男性

 身長:174センチ

 体重:66キロ(人間の姿)

     1キロ(動物の姿)

 種族:膨人ぼうじん


▽タレント:デトックス

 効果——あらゆる有害物質を排出する体質


▽スキル:風魔法

 効果―—風を生み出す能力


▽実績解除報酬:糞害

 効果——前向きな姿勢でいれば、いずれ運気も向上するでしょう

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 町の中央広場に出ると、人だかりが出来ていた。

 邪神教の生き残りであるリザードマンが何やら演説をしている。


「キミたちはプロビデンスという言葉を知っていますか? 全ては神の配慮によって起こっている、という意味の、自由と平等を愛する我らが神——、クリプティック様のお言葉です」


 クリプティックは秘密結社の名前だ。


 高校生になったばかりの俺に改造手術を施した諸悪の根源。脳に洗脳チップを埋め込んで無理やり宇宙船に乗せ、生命居住可能帯ハビタブルゾーンにある惑星の探索を俺に命じた。洗脳チップは不時着時に消滅し、不老不死の能力を持っていた俺は自由の身となった。


 まさか秘密結社の名前が信仰の対象にまでなっているなんてな。

 というか、彼はその名前をどこで知ったんだ。この地に眠る宇宙船の残骸だろうか?


「邪神様の庇護下にある我らはありとあらゆる行いが許されています。隣人に暴力を振るうことも、見ず知らずの家を焼き払うことも、人を殺めることすらも。全て許されているのです。半年前にこの町を襲ったスタンピード。あれを引き起こしたのは我ら邪神教団です」


 すぐには理解が追い付かず町の人たちは怪訝な顔で足を止めた。

 地面が激しく揺れ、リザードマンの立っている演説台が徐々に上昇して電波塔になった。先端部分から真っ赤な光線が宇宙空間へと放たれた。


「自由と平等の名の下に、貧困、差別、あらゆる壁を取り払いましょう!! 恐怖が世界を覆い尽くすとき、反逆の神が目を覚まし、罪なき民草に安寧をもたらすであろう!!」


 彼は邪神教の旗を高く掲げて神に祈りを捧げた。


「アァ……、見ていてください邪神様。浅ましき人々の絶叫をあなたに捧げます」


 どす黒い雲が古代都市を覆い、雷鳴が轟く。

 上空にワイバーンの群れが出現し、森の奥深くから魔物の大群が押し寄せてきた。

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