世界線の違う個性豊かな僕が集まれば、大好きな幼馴染を振り向かせることが出来るだろうか?――僕と僕たちの世界線恋愛会議(タイム・パラドックス)

生江舞(新)

僕たちの世界線会議

第1話 僕と彼女の世界線 【無個性な僕】

 あの時、別の選択肢を選んでいたら、今とは違う未来があったかもしれないと考えることはないだろうか?


 もしあの子と違う出会い方をしていたら。

 あの時話しかける勇気があったら。

 自分の想いを伝えることが出来ていたら。

 どこかの選択肢を正しく選ぶことが出来ていたら、結ばれることが出来たのではないか、なんてことを考えることはないだろうか?


 僕はそんな考えたって仕方のないようなことを、よく考えてしまう。


 もしかすると、どこか別の世界線では、今の僕とは違う選択肢を選んだ僕がいて。その世界線では僕とあの子が結ばれていたりして。

 今とは違った人生を、幸せそうに歩んでいるのかもしれない、なんてそんな妄想に耽ったりする。



「おはよう、賢木くん!」


 登校中に、校門の手前で後ろから肩を叩かれた。振り返ってみてみると、同じクラスのアイドルの椎本初音さんだ。

 いや、ここでいうクラスのアイドルとは、クラスで一番可愛い同級生とかいう意味ではない。文字通り、椎本さんはアイドルをしているのだ。


 昼間は僕たちと一緒に学校生活を送り、放課後になるとアイドル活動をしている。同じ教室に通っていても別次元にいるような、そんな美少女だ。


「……あ、椎本さん、……おはよう」


「あんまり、元気がないみたいだね? 寝不足は良くないよ!」


「……うん」


 椎本さんは学校中の誰もが認める美少女である。腰まで伸ばされた髪は黒くてサラサラとしており、陶器のようにツルツルとした白い肌は透き通るようだ。


 そんな彼女に話しかけられても、僕はどもって不自然に挨拶を返すことしかできない。僕は何のとりえも個性もない、同級生Aでしかない。無個性な僕にできることは、遠巻きにアイドルの愛らしい姿を眺めることだけなのだ。


「椎本さんは、今日も美しいな」


「私たちとは住んでいる世界が違うよ。顔の作りからして芸能人って感じだもん」


「顔小さい!」


 登校するだけで話題の中心になる。そんなアイドルのことを、僕は誰にも知られないように推していたりもする。彼女の美しさ、彼女の努力、彼女の天真爛漫な笑顔、すべてが尊いと感じる。決して僕なんかが近づいていい存在じゃない。


 にもかかわらず、僕は椎本さんと恋仲になる世界線を想像してしまう。なぜなら、僕と椎本さんは幼馴染だったからだ。近所で生まれ、幼稚園・小学校・中学校そして高校と、彼女のことをずっと近くで見てきた。


 なにかボタンのかけ違いみたいなことで、椎本さんが僕と付き合うなんて世界線があったかもしれない。そんなバカなこと、と思われるかもしれない。僕だって馬鹿な妄想だと分かっている。だけど、そんな馬鹿げたことをつい想像してしまうんだ。




 高校に入学したころから、僕には不思議なことが起きるようになった。

 不思議な夢を毎晩のように見るのだ。妙にリアリティーのある夢で、その夢の中には僕を含めて七人の僕がいる。みんな性格は違うし、趣味嗜好も異なっているが、正真正銘、同一人物の「賢木若菜」という人間なのだ。


 七人の僕は、「僕」なのだけれど、色々な個性を持っている。勉強ができる僕がいれば、運動のできる僕もいる。個人主義の僕もいれば、統率力のある僕もいる。文系の僕もいれば、理系の僕もいるのだ。


 僕たちはみんな、異なる世界線を生きる僕だ。


 言い換えるなら、彼らは「こうであったかもしれない僕」である。


 僕は思う。異なる世界線の僕たちと相談することが出来たら、僕だけでは到達できないような、幸せな未来を迎えることが出来るんじゃないかと。


 だから僕たちは、夢の中で情報を共有し、話し合う。夢の中では今日も、七つの世界線をそれぞれ生きる、七人の僕たちが会議をする。


「さあ、僕たち、今日も世界線会議タイム・パラドックスをはじめよう」


 統率力のある、委員長な僕の言葉で、今夜も世界線会議タイム・パラドックスが始まった。

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