第6話 妖精を保護

「どうしたどうした? オレは、ここだぜ?」


 オレは四方八方に逃げながら、【ボルケーノベア】を煽る。


 だが、ベアだってバカじゃない。すぐに、オレのカラクリに気づいた。足元を、執拗に狙う。低空タックルで、オレを捕らえようとした。


「へへ。遅いっての」


 オレはローキックで、クマの頭を蹴り飛ばす。


 しかし、クマの頭部は硬い。こっちのすね当てが、砕けそうである。

 

「おっ?」


 とうとう、オレのすね当てが壊れた。いくらシードでパワーアップさせていたと言っても、これだけダメージを受けたら壊れてしまう。蹴るための装備品でも、ないからな。


 これでもう、オレは素早く移動することはできない。


 勝機を得たとばかりに、クマが低空タックルしてきた。

 

「だが、それは悪手なんだよね。クマさんよぉ」


 クマのうなじめがけて、オレは【アイスシード】をはめた大剣を突き刺す。


【フュージョンワールド】のモンスターは、必ず『弱点』が存在する。

 それは、現実世界でも同じだったらしい。


 弱点である氷属性の武器によって、ボルケーノベアは絶命した。


「すごい。自分を弱らせたと思わせて、圧倒的なレベル差の敵を倒すなんて」


 ロニが感心している。


 称賛は、次の機会で。今は、逃げるのが先だ。


「な!?」


 まさかのおかわり【ボルケーノベア】が、オレの行く手を阻む。


 もう一体、いやがったのか!?

 

「二体目!?」


 ベアは、炎のブレスを吐いた。


「【フリーズ・プロテクト】!」


 眼の前に、氷の障壁が展開される。


 オレを守ってくれたのは、ロニだった。

 魔力が、回復したようである。


 それにしても、オレより強いんじゃん!


「【アイシクル・スピア】!」


 氷の槍が、クマの胴体を貫く。


 大量のドロップ品をバラまいて、ボルケーノベアは絶命した。

 

「はあ、はあ」


 ロニが、ガクンとヒザをつく。また魔力を大幅に消費したようだ。


 コイツ、魔法の威力は申し分ない。が、リソースの配分がヘタだな。強い魔法に、リソースを割き過ぎだ。威力を求めると、消費もデカくなる。


「助かった」


「ううん。知らない関係同士なのに、信頼してくれてありがと」


「おう。それにしても」

 

 こんな大物が、序盤のダンジョンにいた。

 てことは、コイツを野に放ったクソヤロウがいるってことだ。

 そいつをぶっ飛ばさなければ、また同じことが起きるだろう。


 ギルドに報告しないと。


 なのに、こんなときにドロップがよお。熱いんだよなあ。

 

【炎のクマの牙】でしょ、【ビースト・レザーアーマー】でしょ。【クレイモア】まで手に入った。


 ロニがぶっ飛ばした分を含めると、だいぶ潤沢になったぞ。


 とにかく、集めるだけ集める。

 

「ギルドまで走るぞ。ついてこい」


「わかった。ミツル」


 おっさん呼びはなくなったらが、呼び捨てですか。

 まあ、いい。とにかく逃げよう。 


「ホントに強いんだね? 強い冒険者なんて、ヒガンだけだと思ってた」


「プレイヤースキルってやつだ」

 

 オレが勝てたのも、予備知識があったからにすぎない。


 なにも知らないまま挑んでいたら、ベアのエサになっていただろう。


 なんか、やたら敵の数が少なくて、スライムが大量にいると思っていたんだよな。


 あのスライムども、ベアが食った魔物や冒険者の残飯処理だったのだろう。


 だから、めったに落とさないドロップ品があったわけだ。


 加工されたポーションを、なんでスライムなんかが持っていたのか、疑問に思っていたんだよね。

 

「事情は、ギルドで聞かせてもらうぞ。で、お前さんの保護はギルドに任せる。いいな?」


「それでいいよ。妖精を保護してもらえるなら」


「おう」



 ギルドまで、戻ってきた。


「この子の保護を、お願い!」


 受付について早々、ロニが手に持っていた妖精を差し出す。


「承知しました。分析させていただきますね」


 受付のお姉さんが、妖精を預かった。


「この妖精は、樹海の住人ですね。ダンジョンの住人なのに、拘束魔法の痕跡があります」


 お姉さんは妖精の首元を見て、魔法を解く。


「悪いヤツらに、捕まっていたんだ! ダンジョン根城にしてる、盗賊団に!」


 興奮しながら語るロニとは対照的に、受付さんは冷静に返した。


「なるほど。近年の違法ダンジョン建築に、関連していそうです」

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