第15話 四人だけの女子会、ライバルと同志
吾郎と結ばれた夜、美咲はこれまでの人生で感じたことのない幸福と、そして吾郎が抱える深い悩みを共有できたことへの安堵を覚えていた。しかし、その幸福の裏で、美咲の心には小さな不安が芽生えていた。吾郎をめぐる、三つ子の姉たちとの複雑な関係。彼女たちは、吾郎を愛する気持ちを隠そうとしない。その事実を、美咲は肌で感じ取っていた。
そんな中、美咲は三つ子の姉たちから遊びに誘われ、女子会を開くことになった。三人は、美咲の部屋に集まり、最初は他愛のない話で盛り上がっていた。
「美咲ちゃん、バスケの練習、どうだった?次の大会、楽しみだね!」
芽依が、吾郎との関係が始まったばかりの吾郎の話をするように、美咲に尋ねた。
「うん、もうヘトヘトだよ。でも、吾郎くんが応援してくれたから、頑張れたよ」
美咲がそう言うと、皐月は面白くなさそうに口を挟んだ。
「別に、吾郎は私のためにも応援してくれるんだから、美咲のためだけじゃないし」
皐月は、バスケの練習で吾郎と一緒に汗を流したこと、そしてその後に二人にしか分からない秘密を共有したことを、暗に美咲に自慢していた。美咲は、皐月の言葉の裏に隠された意味を察し、内心で少しだけ動揺した。
「そうよ、皐月。それに、吾郎くんは私のお菓子をすごく美味しいって言ってくれたんだから。吾郎くんの心を癒せるのは、私しかいないんだから」
芽依が、吾郎との温かい時間を思い出しながら、微笑んだ。その笑顔は、穏やかでありながら、どこか勝利を確信しているかのように見えた。
「何を言っているの、芽依。吾郎は、私の知性に惹かれているのよ。この前も、私が読んでいる哲学書について、真剣に話してくれたわ。吾郎の真の理解者は、私よ」
五月は、いつもは冷静な口調だが、その声には、吾郎をめぐってのライバル心が隠されていた。
三人の姉たちの言葉は、美咲の心に突き刺さった。彼女たちは、それぞれが吾郎との間に特別な関係を持っていることを、美咲にアピールしているのだ。美咲は、このままでは吾郎を奪われてしまうかもしれないという危機感を覚えた。
美咲は、この複雑な心理戦に参戦することを決意した。
「ふふ、みんな吾郎くんのこと、好きだね。でも、吾郎くんは、皆に愛されているね」
美咲はそう言うと、三人の姉たちに、吾郎の友人である大輔、そして彼女たちそれぞれの男子同級生(健太、慎吾)との関係を揶揄いながら、牽制を始めた。
「皐月ちゃんは、大輔くんとよく話してるし、芽依ちゃんと五月ちゃんは、健太くんや慎吾くんと仲が良いみたいだね。でも、吾郎くんは、やっぱり私が一番の相談相手かな」
その言葉は、美咲が吾郎の真の理解者であることをアピールし、三つ子の姉たちのプライドを傷つけた。皐月は、「何よ!」と声を荒げ、芽依は「吾郎くんは私のことが一番好きなんだから!」と反論した。五月は、静かに美咲の言葉を分析していた。
「何を言っているの、美咲。吾郎は、私を頼っているだけよ。私たちは、吾郎の姉なのだから」
五月は、そう言いながらも、美咲の言葉に動揺しているようだった。美咲は、五月の動揺を見逃さなかった。
四人の口論は、次第にエスカレートしていった。しかし、その口論の中に、彼女たちが吾郎を大切に思っている気持ちは、皆同じであることに気づく。互いの言葉に隠されたライバル心を感じ取りながらも、吾郎を「幸せにしたい」と願う同志としての側面も持つことを、彼女たちは再確認した。
女子会は、美咲の「吾郎くん、早く帰ってこないかな…」という、切ない言葉で終わりを告げた。四人の女性は、それぞれの想いを胸に、吾郎の帰りを待つ。
この日、彼女たちは、吾郎をめぐってのライバルでありながら、同時に、吾郎を大切に思う同志であることを確認し合った。この複雑な関係が、やがて彼女たちを、運命の渦へと巻き込んでいくことを、まだ誰も知らなかった。
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