第4話 家庭教師と秘密の温もり
自室のベッドの上で、吾郎は天井を見つめていた。頭の中では、昔のアルバムで見た家族の笑顔と、鏡に映る自分自身の顔が交互に浮かぶ。どうして、自分だけがこの家族に似ていないのだろう。その答えの出ない問いが、彼の心を深く、深く沈めていく。
その孤独を紛らわせるため、吾郎は夜遅くまで勉強に没頭した。野球部を引退した後は、本格的に受験勉強に励むつもりだった。だが、進路のことになると、どうしても思考がまとまらなかった。志望校である国立大学の情報工学部は、姉の結月が通っていた大学であり、彼女の影響もあってのことだった。
その翌日、吾郎は意を決して結月に声をかけた。
「結月姉さん、もしよかったら、俺に勉強教えてくれないかな。特に情報工学の分野、姉さんが得意だったって聞いたから…」
結月は、少し驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの優しい笑顔を浮かべた。
「ええ、いいわよ。吾郎の力になれるなら、喜んで」
その日から、吾郎の部屋は小さな勉強部屋になった。結月が実家に帰省する週末の夜、二人きりの家庭教師の時間。結月の放つ知的な雰囲気に触れるたび、吾郎の心は安らぎと同時に、今まで感じたことのない高揚感を覚えていた。
ある日の夜、勉強が一段落したところで、吾郎は結月にポツリと本音を漏らした。
「姉さん…俺、どうしてか分からないけど、自分だけこの家族に似てない気がして…」
結月の表情が、一瞬だけ硬直したのを吾郎は見逃さなかった。だが、結月はすぐに柔らかい笑顔に戻り、吾郎の頭にそっと手を置いた。
「吾郎は、吾郎よ。誰に似ているとか、そんなことは関係ないわ」
その言葉は、吾郎の心を深く温めた。孤独に苛まれていた吾郎にとって、結月の優しさは、唯一の救いのように感じられた。吾郎は結月の手にそっと自分の手を重ねた。結月は驚いたように息をのんだが、その手を振り払うことはなかった。
二人の間に、甘く、危険な空気が流れ始めた。
「吾郎…」
結月の声が、震えている。その声に誘われるように、吾郎は結月の顔を覗き込んだ。吾郎の視線に、結月の瞳が揺れる。その瞳は、何かを求めているようにも、何かを恐れているようにも見えた。
吾郎は、衝動に駆られるように結月の唇に自分の唇を重ねた。初めての口づけ。結月は最初は戸惑っていたが、やがて目を閉じ、吾郎のキスに応じた。
互いの息遣い、唇の柔らかさ、熱。吾郎の頭の中は真っ白になり、ただただ結月の存在だけが、彼の五感を支配していた。吾郎は結月の肩を抱き寄せ、さらに深くキスを続けた。結月もまた、吾郎の背中に手を回し、しがみつくようにしてキスを返してきた。
唇が離れると、結月は吾郎の顔を覗き込み、その瞳から大粒の涙を流していた。
「吾郎…ごめんなさい…」
その言葉は、吾郎の心に深く突き刺さった。しかし、吾郎の身体は、結月の言葉とは裏腹に、熱い衝動に突き動かされていた。吾郎は結月を抱きしめ、彼女の耳元で囁いた。
「姉さん…姉さんが好きだ」
結月は、吾郎の言葉に震えながら、何も言えずに吾郎の胸に顔を埋めた。その震えは、羞恥心か、罪悪感か、それとも歓喜か。
吾郎は結月の震える身体を抱きしめ、ゆっくりと彼女をベッドに押し倒した。結月は抵抗することなく、吾郎の行為を受け入れた。
吾郎は、結月の服に手をかけた。ボタンを一つずつ外していく吾郎の手つきは、震えていた。服がはだけ、露わになった結月の白い肌。吾郎は結月の肌に顔を埋め、その匂いを深く吸い込んだ。結月の身体は、甘く、そしてどこか懐かしい香りがした。
結月は、吾郎の愛撫に小さく喘いだ。その喘ぎ声は、吾郎の理性を完全に吹き飛ばした。
吾郎は、結月の下着に手をかけた。結月は、抵抗することなく、ただ身を委ねていた。下着を脱がされ、完全に裸になった結月の身体は、吾郎の目に眩しく映った。吾郎は、結月の身体を舐めるように見つめ、その肌に触れた。
結月の身体は、温かく、そして柔らかかった。吾郎は、結月の身体に自分の身体を重ねた。吾郎の熱い身体が、結月の身体に触れるたび、結月は小さく震えた。
「吾郎…」
結月の声が、吾郎の耳元で響く。その声は、もはや罪悪感や羞恥心の色を帯びていなかった。ただひたすらに、吾郎を求めている、切なく、そして甘い声だった。
吾郎は、結月の身体に自分の身体を深く埋めた。初めての経験。吾郎の頭の中は、快感と罪悪感が混ざり合い、混乱していた。だが、結月の身体は、吾郎の身体を優しく受け入れてくれた。二人の身体が一つになり、部屋の中には、熱い吐息と、甘い喘ぎ声が響き渡った。それは、家族という温かい壁を突き破り、禁忌の愛へと踏み出した、二人の最初の夜だった。
しばらくして、二人は静かに身体を離した。熱を帯びた肌が、ゆっくりと冷えていく。部屋の中には、二人だけの吐息と、かすかな汗の匂いが満ちていた。吾郎は、結月の隣に横たわり、天井を見つめていた。胸には、言いようのない罪悪感と、同時に、深い安堵感が広がっていた。
結月は、吾郎の胸に頭を乗せ、静かに身を寄せてきた。彼女の髪からは、シャンプーの甘い香りがした。吾郎は、結月の髪をそっと撫でた。
「吾郎…」
結月の声が、耳元で聞こえる。その声は、震えていた。吾郎は、結月の顔を覗き込んだ。結月の瞳は、再び涙で濡れていた。
「ごめんなさい…」
結月はそう呟き、吾郎の胸に顔を埋めた。吾郎は、何も言えずに結月を抱きしめた。結月の涙が、吾郎の胸に落ち、熱い雫となって広がっていく。
「どうして、泣いてるの…?」
吾郎がそう尋ねると、結月は震える声で答えた。
「だって、私は…吾郎のお姉さんなのに…」
その言葉に、吾郎の胸は締め付けられた。そうだ、結月は吾郎の姉なのだ。そして、自分は、姉を愛し、身体を求めた弟なのだ。この行為が、どれほど禁忌で、どれほど恐ろしいことなのかを、吾郎は改めて突きつけられた。
「…それでも、俺は、姉さんが好きだ」
吾郎は、震える声でそう言った。結月は、吾郎の言葉に、さらに激しく涙を流した。
「ずるい…」
結月は、吾郎の胸に顔を埋めたまま、そう言った。
「ずるいよ、吾郎。だって、あなたは、陽平に…陽平にそっくりなんだから…」
その言葉に、吾郎の心臓は、大きく跳ねた。陽平。その名前は、吾郎の記憶の中に、ぼんやりと残っている。写真でしか見たことがない、結月の婚約者だった人。吾郎の兄のような存在だった人。
「陽平って…俺に、似てるの…?」
吾郎がそう尋ねると、結月は、吾郎の胸に顔を埋めたまま、小さく頷いた。
「そっくりよ…」
吾郎は、結月の言葉に、複雑な感情を覚えた。結月は、自分を愛しているのではない。亡き婚約者の面影を、自分に重ねているだけなのだろうか。
「吾郎、お願い…」
結月の声が、再び震え始めた。
「お願いだから…私を、陽平の代わりに愛して…」
その言葉に、吾郎の心は、絶望と、同時に抗えない快楽に満たされた。そうだ、結月は自分を愛しているのではない。自分は、ただの代用品なのだ。
吾郎は、結月の身体を抱きしめながら、静かに目を閉じた。結月との関係は、禁忌の愛であると同時に、亡き婚約者の面影を追い求める、結月の孤独な愛の形でもあった。そして吾郎は、その孤独な愛を受け入れ、自分自身の孤独を埋めようとしていた。
二人の心は、複雑な感情で満たされていた。だが、二人の身体は、互いの体温を求め合い、さらに深く、強く結びついていく。その夜、吾郎と結月は、何度も何度も、互いの身体を求め合った。それは、罪悪感からか、孤独からか、それとも純粋な愛からか。二人の間で交わされる愛は、甘く、そして苦かった。
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