第2話 友人たちとの他愛ない会話
放課後の岳南高校、吾郎は野球部の練習を終え、汗だくになりながらグラウンドを後にした。水道で顔を洗い、冷たい水を喉に流し込むと、疲労が一気に和らぐのを感じる。
「お疲れ、吾郎」
親友の鈴木大輔が、吾郎の肩を叩いた。大輔もまた野球部のメンバーで、吾郎とは小学校からの幼馴染だ。
「大輔もお疲れ。今日もきつかったな」
吾郎がそう言うと、大輔は苦笑しながら「吾郎には負けるよ。今日の監督の鬼ノック、全部取ってたろ」と吾郎の健闘を称えた。
二人で他愛もない会話をしながら校門へ向かっていると、女子バスケットボール部から出てきた美咲が駆け寄ってきた。美咲もまた、吾郎たちとは小学校からの付き合いで、三つ子の長女である皐月とは親友だ。ショートヘアを揺らし、健康的な笑顔を吾郎に向ける。
「吾郎くん、大輔くん、お疲れさま!」
「お、美咲もお疲れ。バスケの練習はどうだった?」
吾郎が尋ねると、美咲は少し疲れた表情を見せながらも「もうヘトヘトだよ。でも、試合も近いから頑張らないとね」と答えた。
3人は連れ立って帰り道を歩く。吾郎は、美咲と大輔という大切な友人たちと過ごすこの時間が、何よりも心地よいと感じていた。家族とはまた違う、気兼ねなく話せる仲間との交流は、吾郎の心を癒してくれる。
しばらく歩くと、大輔と美咲が吾郎の横顔をじっと見つめていることに気づいた。吾郎がどうしたのかと尋ねると、美咲は少し躊躇しながら口を開いた。
「吾郎くん、なんか元気ない?」
「え、そうかな?」
吾郎がごまかすように笑うと、大輔が「最近、あんまり野球の話もしなくなったし、なんか悩みごとでもあるのか?」と心配そうに問いかける。
吾郎は、家族に抱いているコンプレックスや、結月との間に芽生え始めた特別な感情について話すことはできない。彼は「いや、なんでもないよ」と笑顔で返したが、その笑顔はどこかぎこちなかった。美咲は、そんな吾郎の様子に何かを感じ取ったように、じっと吾郎を見つめていた。
友人たちとの時間は、吾郎にとっての平穏な日常そのものだった。しかし、その裏では、家族との関係が少しずつ、吾郎の心を蝕み始めていた。吾郎は、この穏やかな日々がいつまで続くのか、漠然とした不安を感じ始めていた。
次の日、吾郎が教室の扉を開けると、そこには皐月と芽依、五月の三つ子の姿があった。彼女たちは吾郎の姿を見つけると、一斉に吾郎の元へと駆け寄ってきた。
「吾郎、ちょっと相談があるんだけど、放課後、時間ある?」
活発な皐月が、代表するように吾郎に話しかける。その目は、何かを決意したかのように真剣だった。吾郎は、彼女たちの様子から、ただ事ではないことを察した。
吾郎は、これから始まるであろう、家族との新たな関係の予感に、胸がざわつくのを感じていた。
それは、友人と過ごす平穏な時間とは違う、熱く、そして危険な香りのする予感だった。
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