第一章 遭遇①
1.
「おお、起きてきましたね。おはようございます。みなさんに早速、いい知らせがあるんですよ」
翌朝。
二階の客室に泊まっていた三人が、朝食をとるために階下の酒場に下りていくと、ロッソが待ちかねたように笑顔を向けてきた。
「実は早くも、みなさんにお願いしたい仕事が見つかったんです」
三人が席に着くやいなや、ロッソは手にした依頼書を広げはじめる。
「もうですか! ありがたいです」
トレイシーは朝食の催促も忘れて身を乗り出す。
「どんな依頼なんだ?」
ダグも好奇心を隠せず、ロッソに尋ねた。
「最近、このハーヴェス付近で小さな地震が立て続けに起こっていることは、みなさんもよくご存じだと思います。いつ大きな地震がくるか不安ですが……悪いことばかりでもありません。地震によって、今まで見つかっていなかった新しい遺跡が見つかることがあるんです」
「遺跡……? それは興味深い」
ブルーアイが思慮深げにうなずいてみせる。
「今回もそうです。この付近の遺跡のことを熟知している『探し屋』のドーソンさんが、これまではなかったところに新しく魔導機文明時代の遺跡を発見したんです。どうやら、遺跡の天井にあたる部分が地震によって崩れたようで、地面に大きな穴が開いて、地下にあった遺跡の一部が露出していたそうです」
『探し屋』と言うのは、遺跡や迷宮など、冒険のネタになりそうなものを見つける専門家のことだ。冒険者のように荒事の専門家ではないので、自分で危険な遺跡を調査することはしない。その代わりに、発見した遺跡や迷宮の場所や情報を冒険者ギルドに売ることで、生計を立てているのだ。
「魔導機文明というと、わたしたちルーンフォークがつくられた時代ですね……とはいえ、それ以上のことは詳しくないのですが」
トレイシーが言う。しかし、つくられたのが300年以上前の魔導機文明時代といっても、彼女が「起動」したのは今から約30年前だ。それまでの間はジェネレーターとよばれる機械の中で長い眠りについていた。だから、当時のことは何も知らないのだ。
「それについてはボクが説明しよう!」
ブルーアイが、もふもふの胸をバンッと叩いてうけおってみせる。せっかく学んできた知識を披露する機会は逃したくないのだ。
「遺跡には、大きく分けて三種類ある。ひとつは1万年以上前の神紀文明時代の遺跡。もうひとつは、3000年前に滅んだ魔法文明時代の遺跡。どちらも今では想像もできない高度な文明があったとされるが、今では深い歴史に埋もれて、目にすることはほとんどない。見つかっている遺跡も数少なく、もし見つけたら大変な大発見だ」
「ええ、その通りですね。ただそれらの遺跡は危険も非常に多く、相当実力を積んだ冒険者でないと、太刀打ちできません。もちろん、調査に成功すれば非常に大きな見返りがあることもありますが……駆け出しの冒険者では、奥までたどりつくことすらできずに命を落とすのが関の山です」
ロッソが、ブルーアイの説明を引き継ぐ。彼の説明は、冒険者ギルドの支部長ならではの現実的なものだ。
「それらに比べれば、300年前の魔導機文明など『最近』と言える。言ってみれば、レア度の低い、よくある遺跡だな!」
そう言い切ったブルーアイに対し、ロッソが苦笑を浮かべる。それから真剣な顔をつくり、説明を補足する。
「まぁ、間違いではありませんね……とはいえ、遺跡によっては十分危険ですし、見返りだって少なくありません。魔導機文明の技術は、マギテック協会が一部を保存・再建して利用しているとは言え、大部分はまだ失われたままです」
にわかに緊張した顔を浮かべた三人に対し、ロッソが表情をやわらげた。
「でも、今回発見された遺跡は、そんなに危険なものではなさそうです。もちろん、詳細は調査してみないとわからないのですが……ドーソンさんの見立てによれば、おそらくは倉庫のようなものではないかと……」
ロッソが話した依頼の内容は、次のようなものだった。
遺跡はハーヴェスの街から東に徒歩で半日ほどのところにある。ドーソンがつくった目的地までの地図があり、迷うことはなさそうだ。
依頼の内容は、遺跡の内部を調査すること。遺跡全体の地図がつくれることが理想だが、対処不能な危険があれば、調査を中断して報告してくれればよい。
遺跡の内部で見つけたものは、報告さえしてくれれば自分のものにしてよい。不要ならギルドで買取もする。
調査に必要な経費として、食料1週間分を提供する。
「報酬は、一人500ガメル。途中で調査を中断して帰ってきたとしても、『危険があった』ということを報告してくれれば成功報酬をお支払いしますよ」
「500ガメル! 50日分の生活費になりますね……! しかも調査の間の食料まで!」
ロッソの提示した条件に、トレイシーが目を輝かせた。
「オレは依頼を受けたいと思う」
ダグがそう言うと、ブルーアイも大きくうなずく。
「遺跡の調査は楽しみだな。是非行こう」
「では決まりですね。いつ出発しますか?」
ロッソが尋ねると、三人は顔を見合わせて、同時にうなずいた。
『今すぐだ!』
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