第30話

翌朝、ラッパの音で目が覚めた。なんか、軍隊っぽい?

衛兵だから、こうなのか?


こっち向きで寝ているミロは、まだ眠っている?

聴覚に敏感なミロが、あの音で目を覚さない?

変だなと思って、ミロに手を伸ばすと、触れる前にパッと目を開けて、微笑む。

「シンヤ、おはよう」

揶揄われたのかな。

「おはよう」「よく眠れた?」


「グッスリや」アカネがニヤニヤして見ていた。


トイレを済ませ、昨晩の戦場を見ていると、衛兵の人達がオークの死体を調べながら記録を取っているようだ。


「おはよう。よく眠れたかい?」

Cランク冒険者パーティのリーダーらしき人が声をかけて来た。

「おはようございます」


「カシスオレンジのバレンだ。よろしく」

右手を差し出してきた。握り返し、

「シンヤと言います。よろしくお願いします」


「君んとこのパーティは凄いね」

「僕だけは凡人ですが、みんな凄いです」


「今日は予定変更で昨日来たルートでそのまま帰るらしいよ。探索の成果はもう充分とかで、報告優先らしい」

「そうなんですか、ラッキーかな」


テントに戻ってみんなに報告する。

「山歩きしなくて済んで助かったわ」

とリディアらしい反応。

「なんやー」

と不満そうなアカネ。

ミロは無反応。


じゃそろそろテントを片付けましょうか。

リディアはそう言って荷物を空間倉庫に収め始める。

僕は表でロープを緩め、アカネはペグを抜く。

最後にテントを畳んで完了。


広場中央に集合して、全員で一斉に帰路に着いた。

僕たちは、隊列の先頭付近にいる。ミロの索敵能力を買われて、衛兵リーダーにお願いされた。本当はリディアが見つけているのだが、それは言えない。


ジャハトの西門に昼頃到着して、簡単な説明を聞いたあとに解散となった。

冒険者ポイントは翌日以降に冒険者ギルドに確認すること。

報奨金については手続きの関係上、数日待って欲しいとのこと。

西門は寝泊まりしているキャンプ場に近いので、ここでの解散は地味に助かる。



キャンプ場に戻り、今朝から様子のおかしいミロにどうかしたのか訊ねてみた。

黙るミロに、「ウチから言ってもいいか?」とアカネが言う。頷くミロ。いつもピンと立ってる耳が倒れ気味だ。


「ウチらも今朝聞いたんやけどな、夜中の戦闘が終わったあと、ぎょーさん人が集まってきたやろ?」「あん時な『あの子が人間だったらプロポーズしたい』って聞こえたらしいんや」


「ひどい!」思わず声に出た。

「ザコはどーでもいいねん。ミロはシンヤもそう考えてるのかが気になっとんねん」

「僕?」「ザコとはいえ、ミロにプロポーズされたら困る」

ミロの耳がピンと立ち上がる。


これはもう回りくどい言い方では、余計な誤解を生むだけかもしれない。

「僕はミロが好きだ」「僕が一番プロポーズしたい」

「だけど、ミロも知ってるよね、僕の両親の話。中途半端なことにしたくない」「それまで待っててほしい」

なんか勢いに任せて、とんでもないことを言った気がする。


ミロは抱きついてきた。

いつもは垂れ下がっているふさふさ尻尾が立ち上がって揺れていた。

「よかったなー、ミロ」「な?言うた通りやろ?」

「うん」


僕はミロの頭を撫でながら、

「半端なことはしたくないんだ。仲間から祝福されるくらいにならないと」

「うん!」

どんどん恥ずかしさが込み上げてきた。

アカネもリディアも笑ってる。


「で、シンヤの両親、何したんや?」

「早い話、冒険者続けてるときに、僕ができちゃた、という…」

「そら、アカンわ」


「ほいじゃ、ランチ行こかー」「ミロは何食べたい?」

「うーん、、オデン食べたい!」

「よっしゃ!」


屋台街に向かいながら、

「オデンはな、しっかりと煮込まれた夜に食べるのが最高や。せやけど人気のタネは早くに売り切れてしまう」

「今日はこないだ食べれんかった玉子が本命やな」


屋台街に到着すると、アカネはオデン屋に向かい、

「おっちゃん、今日はもう食べれる?」と聞いていた。

アカネは振り向き「オッケーやて」と手招きをする。


「今日はみんなに助けられたから僕が奢るよ」

そう言って自ら率先して選んで皿に乗せる。

玉子と大根、あとは前回食べてないものを3つくらい。

「みんなも選んで」

全員が5個ずつ選ぶ。

「おいくらですか?」

「銀貨2枚でいいぞ」

「ありがとうございます」


みんなで席に着く。

ミロが選んだのは、僕と全く同じ5個だった。

「ミロ、食べたいものがあるならもっと選んで良いんだよ」

「大丈夫、こうした方がいつもシンヤと一緒に新しいことを共有できるってことだから」


「もう!ミロが可愛すぎる〜」

リディアが珍しく感情を現す発言をする。

「ミロを泣かせたらウチが許さんで」


「いや、もう僕の方が泣きそうなんですが…」

僕はミロの隣に座り、感想を言いながら同じものを同じ順番で食べた。



ランチ後、ミロは「時間があるから今日もカリナさんの手伝いをしたい」と言い、

アカネは「じゃウチはポーション瓶の洗浄だけしとくかな、その分次回の製薬の時間になるし」


と言うので、ゴドゥ診療所まで付き添う。

クマ先生たちにも都合はあるだろうし、と思ったが、

カリナさんは快く快諾してくれた。

「ミロちゃん、何か良いことあったでしょ。おかあさんに話しなさい」と揶揄われていた。


そんな感じで、リディアと2人の帰宅、…帰テントか。

リディアはポツリと言った。

「実はね、今日の帰り道、離れた場所で1匹だけオークを探知したの。かなり離れていたから間の障害物の影響から、はっきりしなかったけどね」

「監視されてたってこと?」

「監視、というより、あそこで何かしてただけじゃないかしら。監視だったら、離れてずっと着いてくるでしょ」

「あの森にはまだまだいるってことかぁ」


テントに戻り、今日はリディアのスキルから見させてもらう。リディアは冒険者を始めてまだ1年ちょっとのはず。

なのに、もうステータスは魔法使いとしてほぼ完成の域にある。

「リディアはさ、冒険者ギルドに登録してまだ1年くらいだよね。その時点でかなりの能力だったよね?冒険者になるまで何をしてたの?」


「度胸がなくて、故郷で燻ってただけかな」

「私の姉は王都近くで研究者をしている話はしたわよね。姉は思い立ったら行動派。私は慎重派なの。その差かな」

「私も自分の魔力には自信は持ってたわ。でも姉には勝てないと思ってたの。姉は15歳ですぐに州都の魔法学校に行き、後に王都のアカデミーに招かれた」

「いきなり身近な所に大きな壁があった感じ」


「僕も父に追い出されなきゃ故郷は出なかったかもなー」

「でも、追い出してもらえたのは今は感謝でしかない。たくさんの仲間と知り合えたから」


「そうね」「私ももっと早くに始めていればって思ったこともあったけど、今はみんなに出会う最高のタイミングだったと思ってる」


そんなことを喋りながら、リディアのスキルツリーを見ているのだが、リディアはスキルの習得数も多くて、とても全体は把握できない。

「今日は索敵スキルっぽいのを見つけた。10段階でいうとまだ4くらいの成長かもしれない。あれだけ有益なのにまだ進化の余地があるのかと思うと驚くよ」

「それと、ツリーの上の方だから今まで気づかなかったけど、光属性の魔法がかなりあった。昨日見た光の柱もそれなのかな?」


「光属性は基本四属性をバランスよく上げていくと習得できる魔法よ。昨日見せたのは仰々しく演出したけど、使える様になれば極めてシンプル」

リディアはテントの中に光の小球を作り出した。

「四属性の球体が出せるシンヤなら、そのうちできるんじゃない?」


「それは嬉しいな」


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