第17話

翌朝、リディアがテントまで迎えに来てくれた。

「荷馬車を確保しているわ。行きましょ」

「アカネは?」

「先に行ってる」「ここから15分くらいの場所よ」

「リディアは時計持ってるの?」

「ええ」


実家が町のギルドなので、おかげで時計のある生活を送ってきた。そのせいか、正確な時間が分からない生活はいろいろ不便なのを実感してしまう。


この世界、、、いや世界中を知ってるわけではないが、この辺では、だいたい1時間くらいを1刻、その半分を半刻という言い方をする。時計なんて持ってる人のが圧倒的に少ないのだから。


リディアは、空間倉庫から懐中時計を取り出して見せてくれた。

「戦闘中に持ってるとよく壊れるの。だから身に付けたりしないけどね」

「空間倉庫も使えるんだ。いいなぁ」


「このはスキルは習得条件が謎だからねぇ」「アカネは私と行動するようになって開花したみたいよ。まだ小さいけど」

「そうなんだ…」


僕らも一緒に行動していけば?なんて思ったけど、サファリの風ではルマンダさんしか使えない。

習得するには何かの前提条件が必要なのだろうな。


「今日はデビルプラントの倒し方を勉強させてもらうつもりで来ました」

「まかせといて」「ただ、誰にでも真似できるというやり方でもないわよ。私とアカネのコンビネーションだからできると言っていいわ」


「昨日も言ったけど、私とアカネの2人じゃいろいろ不都合もあるのよ。だから仲間を作ろうと話し合ってたの」

「私たちだけで依頼を受けようとしたら、見た目で『君達じゃ無理だと思う』と断られたりとかね」

「ひどーい」ミロがご立腹だ。

「ありがとう、ミロ」

リディアは微笑む。

「それに昨日の話を聞いてシンヤにも興味がでたわ」


ミロが手を繋いできた。


「これでも、私、魔法研究家を自称してるの」

「私には姉がいてね、王都近くの学園都市で魔法の研究者をしてるのよ」

「凄いお姉さんがいるのね!」

ミロが嬉しそうだ。

もしかしてシスコン同士?


「もう5年くらい会ってないけど、何となく元気でやっていそうな、そんな気はする。感覚的にだけど」

「通じ合ってる…、いいなぁ」


ミロと繋いでる手を少し大きく振ってみた。

話題を変えよう。

「アカネはドワーフ種なんですか?」

「そう、言ってなかったっけ」

エルフとかドワーフは、ぼくらヒトとは耳の形が少し違う。

「やっぱり武器の扱いとかに長けているのですか?」

「私は魔法使いだから、武器の扱いはよく分からない。ただ強いわよ。実家は故郷では有名な鍛治工房だって言ってたわね」


「待ち合わせ場所はこの先よ」

通りの向こうの方に馬車が見える。乗り合い馬車とは違い、荷物を運ぶ荷馬車のようだ。

アカネが僕たちを見つけて手を振っている。


「乗り心地は悪いけど、格安で乗せてくれるの」

格安な理由はすぐに分かった。リディアの空間倉庫にも荷物を入れられるからだ。その分、馬車も軽くなる。

空いたスペースに僕らが乗る。


まもなく馬車は出発した。

「私たちは1年前にトゥレーンの街の冒険者ギルドで知り合ったの」「2人ともこの身長でしょ、誰もパーティに入れてくれなくて、あぶれ者で同士組んだってわけ」

「組んでみて驚いたわ。アカネの戦闘力はGランクを凌駕してたの。私も魔法には自信があるから、最高の組み合わせよ」

「ウチもリディと知り合えて良かった」


「ところで、2人はどこで知り合うたの?」アカネが聞いてきた。

「僕とミロはこの街だよ。まだ1週間くらいかな」

「そうなんやー、てっきり昔からの恋人同士ちゅう雰囲気やなー思ったのに」

「一緒のテントで寝起きしてたら、普通はそう思うわ」

確かにそうだよなぁ。(苦笑)


「2人にこれ、渡しとく」

アカネに解毒剤と回復剤を手渡される。

「デビルプラントの毒は神経毒なの。とりあえず戦闘前に飲んでおけば2割くらいは症状が軽くなるはずよ」

「8割は残るんですね」

「死に至るケースもあるから、軽い毒ではないわ」「やられたら、しばらくは体に痺れが残る」「まぁ、2人は見てるだけで構わない。私たちで全てやれるから」

そうは言われてもなぁ…。


ポーション代金はいくらですか?

「ウチのお手製やから、そんなんええわ」

「ええーっ、ポーション作れるんですか?」

「ウチ薬師なりたいねん。試作品や。データ取らして」

「すごーい」

ミロが感嘆の声を上げる。


その後のミロは2人とかなり打ち解けたみたいで、女子トークが盛り上がっている。リディアは女子トークに加わるタイプではなさそうだが、話はちゃんと聞いてるようで、時々会話にツッコミを入れていた。

僕は終始黙って聴いているだけ。その内容でどうして盛り上がれるのかっていつも思うが内緒だ。



依頼主の町ギルドに立ち寄ると、

「おお、あんたらまた来てくれたか」

ギルド長らしき人が立ち上がる。

あんたら、という二人称複数形はリディア1人を指しているはずだ。僕やミロは初めて来たし、アカネは別行動中でいない。

「あんたらなら安心して任せられる」

なんだ、信用されているじゃん。

「前回同様、魔石はこちらの総取り。デビルプラントの残骸のみ買い取ってもらう。で良いかしら?」

「うむ。それで頼む」「道案内はいるか?」

「前回の場所のさらに奥地ということなら大丈夫よ」

「では、今回もよろしく頼む」

「まかせて。ではまた午後に」

そう言うと、町ギルドを後にする。


「あのギルド長、前回は私たちを見て露骨に嫌な顔をしたのよね」

「そうなんだ」

「こんな小娘に任せて大丈夫か?って顔よ」「すごい変わり様」


乗ってきた荷馬車の御者の元へ近付き、

「午後の3時に出発で大丈夫かしら?」

「へぇ、了解しやすた」


そうしていると、アカネが合流してきた。

「お弁当、買うてきたで」

僕たちはデビルプラントの狩場へ向かう。


「そろそろ、解毒薬の事前服用をしましょう」

僕たちはもらった解毒ポーションを飲み、空き瓶はアカネが回収する。

「回復ポーションは疲れたら飲んで」


「今日の狩場はこの先よ」「この辺は前回狩ったら、続きはこの奥になるわ」


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