第11話
今朝は早起きして、冒険者ギルドの始業時間前に到着する。
こんなに早い時間にギルドに来たのは初めてだった。
さすがに先輩ベテラン冒険者を待たせるわけにはいかない。
こんな時間でも、ギルド前にはたくさんの冒険者が
毎朝のんびりしていた自分がちょっと恥ずかしい。
まだサファリの風のメンバーは来ていないようで一安心である。
昨日の一件のせいか、何人もの冒険者から挨拶してもらった。しかもほとんどが自分達より長く冒険者をしているような人たちだ。
冒険者ギルドの扉が開かれると一斉に冒険者が雪崩れ込む。
朝イチから貼られている依頼書の奪い合いが始まっている。これにあぶれると追加で依頼が増えるのを期待してギルド内で待機するしかない。
僕たちもギルドに入って待つことにした。
クエスト掲示板あたりの席は密度が高いので、一番離れた場所に腰を下ろす。
ミロはお姉さんの剣を大事そうに眺めている。どういう姉妹だったんだろうなとふと考えた。
と、ミロの耳と尻尾が軽く振れる。振り返るとルマンダさんが入り口から入って来た。1人だ。
「待たせたかい?」
「いえ、大丈夫です」
「馬車の時間までまだあるから、何か飲んでくかい?」
ルマンダさんは懐中時計を取り出し、時間を確認する。
懐中時計は非常に高価だ。安くても半年は余裕で暮らせる金額になる。もちろん僕は持ってない。
さすがにギルド長をしている父は持っているが故障の多さに嘆いていた。
ルマンダさんは飲み物をオーダーしに行った。
冒険者ギルドは待機冒険者のために軽食の提供もしている。
しかしアルコール類の提供は公的な冒険者ギルドでは行われない。酒気帯びで建物内に入ることさえ禁じている。
冒険者ギルドには2種類がある。
一つは、国により運営されている公設の冒険者ギルドがここだ。
もう一つは、厳密には冒険者ギルドみたいなことをしている民設の依頼紹介所。もちろん、冒険者ギルドも名乗っていない。名乗れば潰される。
職業派遣業みたいな体裁を取っている。それぞれあるだろうが、酒が飲める冒険者ギルドみたいなものはこっちだ。
ルマンダさんが注文してくれたドリンクが運ばれてきた。
濃厚なフルーツジュースで、めっちゃ美味い。
いくらなのか少し気になる。
ミロも少し口に含んでは味を噛み締めてるようだ。
「改めて伝えておく。今日のクエストはこれだよ」
テーブルに依頼書を置く。
オーク討伐。
討伐数は不明。30体以上を確認。
依頼、スール町。
曖昧な内容だ。
ルマンダさんによると、オークの数さえ把握されていない依頼はリスクが伴うから誰も受けたがらない。貧しい町だと報酬もほとんどない。だけど、町からの依頼であれば、それを無視はできない。納税者が住む町だから。
だから誰も受けないであろう依頼でも、ギルド内に掲示だけはされる。
「馬車は特別臨時便をチャーターしておいた」
確かに6人もいると、乗り合い馬車では乗れるかどうかもわからない。みんな大柄だし。
馬車の御者も時計持ちなのかと思っていたら、乗り合い場所は街のシンボルの時計塔が見える場所。なるほどと思った。
ルマンダさんにそれとなく尋ねてみると、
「確かにクエスト報酬は期待できない。だけど依頼通りのオークがいれば、討伐したオークを買取に出すだけで余裕で回収できるんだ。普通の冒険者には難しくても、アタイのアイテムボックスならかなり運べるからね」
だそうだ。
馬車はスールの町に到着した。スールのギルドに到着を報告する。
オークの群れに襲われたことが確認された村は、ここから半刻ほど歩いた場所にあるらしい。
村の住人が命からがらスールの町に逃げ込んで発覚した事件。
しばらく歩いたところで全員が足を止めた。
「いるな」
全員が頷く。考えてみれば、僕以外は全員が獣人だ。嗅覚か聴覚の差だろうか。僕にはさっばり分からない。
「1匹ッスね」
「ミロ、やってみるか?やばければサポートする」
オークは単体ではDランクの魔物に分類されている。一撃をまともに食らったら、ただでは済まないのと、集団行動をする種族なので、状況に応じてクエストランクは高めに設定される。
ミロは頷き、武器硬化の魔法を使う。
僕も構えた剣を強化する。
飛び出したミロの脚には全く追いつけないのだけれど、何かあったときは追撃するつもりでついて行く。
ようやく視界に1匹のオークを捉える。
ミロは疾り寄り、一気に距離を詰めて、姿勢を低くしたあと手前で小ジャンプ。オークの振り下ろした棍棒を飛び越える感じで、剣はオークの首を裂き、剣が当たった反動を利用して身を翻し、こちらを向いて着地。
更に追撃を与えようとするミロは、必死に走っている僕を見つけ構えを解く。ミロの横にはすでにケニーさんが立っていた。
首を斬られて錯乱しているオークを俺の剣が刺す。
完全にゴールを譲られた。
「2人とも速すぎだぁぁ…(ゼェゼェ)」
残りの3人も僕の後ろに平然と立っていた。
「獣人に生まれてくれば良かった」
「ヒトでも我らとタメをはる者はおるでござるよ」
「精進だ」ライオネンさんに背中を叩かれた。
ミロが僕に駆け寄ってきた。
「オークが叫び声で仲間を呼んじゃったみたい」
「後は俺たちに任せろ」
ライオネンさんは斧、ケニーさんは不思議な形をした片手剣と短剣の二刀流、ルマンダさんの杖からは槍のような火魔法が飛びまくっている。
「弓がいるかもしれん。気をつけるんだ」
「シンヤ殿は拙者から離れるな」
「はい」とは応えたものの、俺だってという気持ちもある。
しかし、オークの攻めは直線的過ぎて、ライオネンさん達に完璧に抑えられている。それに混ざってミロまでオークを薙ぎ倒している。…ここまで来ない、のだ。
すげーよ、ミロ。
ウルフにやられていた、守ってあげたくなるミロはどこに行った?
あっという間に地面に転がったオークは17体。
報告は30体以上だから、まだいるわけだ。
「弓がいるとすれば、奴らが奪った村で待機しているだろうね」
そう言いながらルマンダさんは地面に空間倉庫を開いていく。オークの死体の下に開けばストンと落ちるので、楽々収納。
「こっから先はオイラが偵察してくるッス」
そうだ、斥候担当と言ってた。
ここまで一緒に行動してたってことは、これはウォーミングアップに過ぎないってことか。
「ミロ、凄かったじゃないか」
「お姉ちゃんの剣があれば百人力」と照れてる。
「閃光のミロ誕生も時間の問題かも」
「そうでござるな」
「ところで、ケニーさんの剣も変わっていたけど、ガナさんのもちょっと普通と違いますね」
「これは、カタナという剣でござる。ケニーのはショーテルという剣でござるな」「実はミラ殿のが先にショーテルを使い始めて、ケニーが真似したでござる」
そう聞いてミロが反応した。
「お姉ちゃんが……」「でも使いにくそうな剣でした」
「トリッキーな戦闘には向いてるでござるが、力のぶつかり合いでは刀身の細さが心許ないかもしれぬ」
そんな話をしていた所にケニーさんが帰ってきた。
地面に村の見取り図を描きながらの作戦会議が始まった。
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