プロローグ

 それは二十一世紀半ばの一月一日のことだった。


 正確には前日の十二月三十一日だった場所もある。

 基準としては、グリニッジ標準時だったと言われている。


 そのグリニッジ標準時で十二月三十一日午後十一時五十分。

 全世界の人類に、謎の託宣が脳内に降りたのだ。


 内容は『十分後に世界が変わる。心して聞け』


 仕事をしていた人々は手を休め、遊んでいた人々は体を止め、寝ていた人は飛び起きて、その時を待つ。


 そして、十分後。

 グリニッジ標準時で一月一日午前零時零分。


 この世界に変革が持たされた。

 人によっては、神の玩具や実験台と評されることが。



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 高校一年生の俺、獅子原ししはら 信行のぶゆきにとって、一月一日は重要な日である。


 大晦日から夜通し起きていても特になにも言われず、起床したらお年玉を貰える日だからだ。

 二日も親父の実家に親戚一同が集まり、祖父母叔父叔母からお年玉も貰えるから同じく重要な日だが、それは明日だ。


 そんな元日の朝、布団に入るのが遅かった俺の頭に聞いたことのない声が響きわたる。


「んぅ、うっ!? ……な、なんだ? これ……」


 枕元のスマホで時間を確認すると、午前八時五十分。

 友人たちと初詣に行き、帰ってから寝たのが五時過ぎ。

 四時間弱で起こされた俺は、フワッした頭で寝ぼけながら先ほどの声を思い出す。


「十分後になんちゃらとか、……だっけ?」


 ボケッと布団の上で頭を書きながら、今のは何だったのかと考える。


「……いや、夢だな」


 以前にも知らないおっさんの声で起こされたことがある。

 もしかして霊的なものなのかと思い、少し怖かったが特に恐怖体験も無く、夢だったんだろうと結論付けた。


「う~ん。父さんたちは……、初詣か」


 両親に中学生の弟と小学生の妹は、一緒に初詣に出掛けてるはずだ。

 俺も去年までは一緒に行っていたが、高校生になってからは友人たちとの付き合いを優先した。


「ふわぁ……。眠くなってきた。二度寝するか」


 ボーッとしてると再び睡魔が襲い掛かってくる。

 手元のスマホを確認すると、午前八時五十九分だ。


(そういえば、十分後とか聞こえたな)


 そんなことを考えているとスマホの時刻表示が変わり、突然目の前が真っ暗になって意識が落とされた。



 +++



 グリニッジ標準時で一月一日午前零時零分。

 全世界から約十万人もの人々から消えた。

 十三歳から十九歳の若者が男女半々ずつだ。


 そして約一週間後に行われた、謎の声による説明に全世界が衝撃と混乱で満たされるのを、消えた十万人は知らない。

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