拉致された十万人は、謎の存在の遊び場で孤独に選択する
ナインナインナイン
第0話
(よし。罠は無し、準備はOK。突入するぞ)
目の前の岩壁に不自然にある扉を蹴り破ると、ロングソードとラージシールドを構えて扉の向こうに突入する。
一辺が十メートルほどで高さが三メートルほどの部屋には、人型をした物が三体、座っている状態から立ち上がろうとしていた。
(数は問題無し。まずは先制攻撃っ!)
扉に一番近い個体は、こちらに背を向けて座っていたらしい。
その豚のような醜い顔に驚愕したような表情を見せながら立ち上がろうとしているところを、右手のロングソードを横一線。
首辺りを薙いで、その異形の頭を切り飛ばす。
(これで、残り二体)
切り口から噴き出す血を左手の盾で防ぎつつ、立ち上がった二体の武装を確認する。
俺から見て右側の個体は、防具とは言えない破れた布状の服を太った肉体に巻き付け、右手には長剣に左手は小さ目の盾を装備していた。
左側の個体は、右側より少しデカい身体に皮鎧、そして両手持ちの戦棍で俺に向かい合っている。
(流石にこの体格で両手持ちの戦棍だと、鎧の防御力では厳しいか)
スキルでもたらされた冷静さが、敵との交戦方法を示してくれる。
同時に襲い掛かってくる二体をこのまま葬れると判断すると、まずは右の個体を倒しにかかる。
左側の振り被った体勢から下ろされる戦棍をラージシールドで衝撃を抑えつつ流し、右側の長剣はロングソードと噛み合ったところを上手く弾いて相手の体勢を崩した。
もちろん普通の高校一年生だった俺、
それが可能となるのは、俺が手に入れた数々のスキルのおかげ。
そのスキルたちに底上げされた身体能力に戦闘能力、これらを活用すればこの程度の敵なら問題は無い。
左の個体が再び戦棍を振り上げている間に、体勢を崩している右の個体の武器を持っている右手へロングソードで素早く切りつける。
「ぐおっ! ぶおぉぉぉ!!」
豚のような顔に似合った太い右腕に軽く切りつけただけなのに、ロングソードの切っ先は易々と食い込んで骨の辺りまで切り裂く。
無様な悲鳴を上げて長剣を落とす右の個体は、左手の小さい盾を俺に向けながら鈍い動きで後退した。
追撃したいところだが、左の個体が戦棍を上から叩きつけてくる。
今回は俺も後退しつつ、受け流して敵との距離を少しとった。
(次は戦棍持ちだな)
痛みで呻いている右の個体が戦線復帰してこないうちに、左の個体にもダメージを与えたい。
再び近づこうとすると、今度は左の個体が戦棍を水平に薙いでくる。
(馬鹿でも頭は使ってくるか)
とはいえ、スキルで戦棍が届く範囲は理解できる。
上手く避けて戦棍を空振りさせると、スピードを上げて近づき武器を持つ手を狙う。
俺の切りつける力と戦棍を戻そうとする力が作用し、先ほどより深く激しく腕にロングソードを叩きつけることになった。
「うっ、うおぉぉぉぉん!!」
ロングソードを掴む右手へ急激に力が掛かったが、スキルで強化された握力を武器を手放さない。
おかげで敵の片手は完全に切断し、もう一つの半ばまで食い込ませた。
当然、左の個体は持っていた戦棍を落としてしまう。
その好機を逃さず右手のロングソードを引き戻し、大きく振り被る。
痛みに呻く敵は後ろに下がろうとするが、許さずにロングソードを醜い豚顔の頭に振り下ろした。
「ぐべっ! おぼらぁ」
硬い頭蓋骨でもこの攻撃は防げず、脳漿を巻き散らしながら後ろに倒れ込む。
「むおぉぉぉ……」
それを見ていた、元長剣持ちの敵が哀れな声を上げた。
もちろん、俺は殺しにきた敵に慈悲を与える気はない。
小さいとはいえ、盾を持っていたせいで少し時間は掛かったが、この部屋の敵は全滅させることができた。
+++
「ふぅ……。この武器だと、この階の敵では余裕だな」
切り裂いたロングソードを振って、付いた血等を飛ばす。
そうしていると、倒した敵や持っていた武器が徐々に霞んでいく。
霞みが限界を超えると完全に消え、代わりとばかりに宝箱が出現した。
これがダンジョンのルールだ。
たとえ、敵が持っていた武器がとても良いもので、自分の物にしたいと手にしても結局は消えて無くなってしまう。
ダンジョンから得ることができるのは、この宝箱の中身だけなのだ。
「さて、まずは罠検査だな」
背中に背負っていた小さなリュックから、一個の球体を取り出す。
これは扉や宝箱にトラップが仕掛けられているかどうか、そしてトラップの内容が判別できるマジックアイテムだ。
まぁ、わかるだけでトラップ解除はできないんだが。
「どれどれ。……罠は無し。鍵も無し」
これまでのところ、トラップが仕掛けられた扉や鍵が掛かった宝箱は見つかっていない。
逆も同じく。
しかし、俺がダンジョン攻略の先頭を独走しているはずなので、念には念を入れた方が良い。
「では、開けますか」
カパッと効果音が出るような感じで、簡単に宝箱の蓋が開く。
そして宝箱が光り輝くと、宝箱の外装が消えて中身が床の上に現れるのだ。
「え~と、……これは鉄のロングソード。他は魔金がそれなりか……」
俺にとっては、ハズレの宝箱だ。
なぜなら、俺の主武器であるロングソードは魔法の武器である。
鑑定に出したところ、攻撃力や耐久力が高いだけで特に特殊な効果は無かったが、それでも鉄や鋼のものより強力な武器だ。
ゲームやラノベのように、魔法や魔力が付与された武器しか通じない敵も出てきそうだしな。
「とりあえず、これは日本の武器屋行きだな」
とはいっても、現状の他人にとって鉄のロングソードは垂涎な武器である。
正直、魔金の出回りが悪くて価格は安いが、このダンジョン攻略は国対抗の側面もあるので他の日本人を強化しなければならない。
(全世界向けのオークションのほうが、金額は高くなりそうだけどな)
魔金というのは日本のコミュニュティでそう呼ばれている、この世界の貨幣みたいなものだ。
色や大きさで価値は変わるが、まだ攻略がそこまで進んでいない今はそんなに種類は出ていない。
(ギブアップした奴、死んだ奴はどうなったんだろ)
魔金をリュックに納め、鉄のロングソードを背中に斜め掛けに括り付けつつ、俺はそんなことを思う。
掲示板ではいろいろと予想されているが、正解は当然不明である。
「母国に寄付、というのが無ければ、ギブアップが正解なんだろうけど」
予想の一つが正解ならば、ギブアップして日本に帰るのは大失敗となる。
そして、それが否定できない以上、残った俺たちはダンジョン攻略を進めるしかないのだ。
(まぁ、今日は終わりにしよう。大物拾ってしまったからな)
部屋に戻ったら、この鉄のロングソードを売り出して夕食にしよう。
今日の気分は肉、ステーキとか牛カツとかでガッツリといきたい。
そう考えていると、腹が減ってきたのを感じる。
さっさと帰って、飯食って風呂入って寝よう。
明日もダンジョン攻略は続くのだから。
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