時の流れに取り残された、英雄の祈りは剣より強く

 『勇者薄命』は、伝説が終わったあとの世界を、あまりにもリアルに、優しく、そして残酷に描き出します。人々の記憶から薄れゆく名声、神に選ばれた宿命の重み、老いと孤独が重なる山奥の静寂。けれど、そこにふと差し込む希望の灯火が、どこまでも切なく温かい。言葉を持たない王子、誠実な若き騎士、そしてかつて世界を救った勇者。それぞれの未熟さや傷、迷いや願いが、道中で交差し、少しずつ絆へと変わっていく過程が何より愛おしいのです。

 命の残り火に託す想い、守り抜くための決意――戦いの描写だけではなく、誰かの未来へ受け継がれていく“祈り”のような静けさが心を打ちます。作者のぬかびと様、独特の情緒と、人生を包み込むような包容力。ページをめくるたび、あなたもきっと“英雄とは何か”を問い直したくなるはず。

 命を懸けて繋ぐ祈りの物語――ぜひ、あなたもその余韻に触れてみてませんか?

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