⑫Twitter開設するよ
「よーし、名前も決まったし、次は何するの? いよいよ配信してみちゃう?」
帰宅するやいなや、ライカはゲーミングチェアにぴょんと飛び乗ると、期待に満ちたキラキラの眼差しでに私を見上げる。無防備なスカート姿なのも忘れて体育座りなんかしちゃっていけないコだね……。ほら、足の隙間に広がる青空が……おっと、いけない。
という内心はおくびにも出さず、私は笑顔を浮かべながら頷く。
「デビューに向けて状況は着々と進んでると言っていいだろうね。とはいえ、初配信の前にやるべき手続きや準備はもう少しだけあるんだよ。」
「ふぇ? 手続き? 準備?」
ライカは不思議そうに首を傾げる。こてんって音が鳴りそうで可愛い。
「配信っていうのは、実はそうすぐに始められるものじゃないってことさ。」
私はブラウザを立ち上げてYouTubeのアカウント管理画面を実際に操作しながら説明を始めた。
「実際に配信するためにはまず、チャンネルを開設して、配信をするための申請をしなきゃいけない。これには過去のアカウント利用履歴の審査や、個人情報の登録が必要だから、返事が来るまで少し時間がかかるんだよね。―まあ要するに、あやしい人は配信できませんってルールがあって、私は安全な人だから大丈夫ですよって証明しなきゃいけない、ってところかな。」
異世界から来たばかりのライカにも分かるよう、言葉を選んで簡単に説明しながら、てきぱきと申請の手続きをしてゆく。流石にこのあたりの手続きは事務所で働いていたころにさんざん経験しているからね、話しながらでも迷うことはない。
あ、ちなみに個人情報として電話番号が必要なので、もし今後バーチャルYouTuberを目指す予定がある人は早めに携帯電話を契約することを強くおすすめしておくよ。
「登録に審査ってまるでシンラ王国にあった冒険者ギルドだなぁ……たしかにあれもあやしいやつを見つけるための仕組みだって教わったっけ。」
「ふむ、そちらの世界でも同じような仕組みがあるなら話が早い。これには数日かかるから、審査を待ってる間にできるもう一つの大事なことをやっていこう。」
「もう一つの大事なこと?」
「配信活動と同じくらい大切な、Twitterでの活動だよ。」
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「これが……Twitter?」
目を何度もぱちぱちさせながら、ライカがモニターを覗き込む。
映っているのはTwitter、誰もが知る大規模SNSだ。最近
「インターネット上に存在する巨大な掲示板、といったところかな。私たちは今からここに書き込んで、"天窓ありか"という存在を1人でも多くの人に知ってもらうんだよ。」
「ふーん? 配信するのはYouTubeなのに、宣伝はここでするの?」
「世界中に広く浸透している連絡手段だし、YouTubeはあくまで動画を見ることに特化した場所だからね。」
バーチャルYouTuberにとって、動画配信と同じかそれ以上に重要なのがTwitterで情報発信をすること。現在、バーチャルYouTuberの総数は6万人を越えているとか、毎日新たに10人以上が新たにデビューしているとか言われていて、そのなかから自分の存在を見つけてもらうのは簡単なことじゃない。
「たとえばライカ、私たちは新しくパン屋さんを始めることにしました! でも、宣伝したりチラシを配ったりっていうのはお店を開く前にするよね。」
「あ、確かにそうかも……。"これが美味しいです!"とか"いつオープンです!"みたいなチラシを見たら、行ってみよう! ってなったりするよね。」
「そうそう。それと同じように、私たちも"いつ初配信しますよ"とか"私はこんな子ですよ"っていうのをTwitterで発信していくってわけ。」
何人かのバーチャルYouTuberのプロフィール画面を実際に開いて見せながら、どんな発信をしているのかを見ていく。
「こういう発信をせずに配信を始めるっていうのは、例えるなら、道のないところにパン屋さんを建てるようなものなんだ。どんなにいいものを作ってもそこを訪れる客がいなければ売れないのと同じように、私達はお客さんが来てくれるように、道――つまり導線を作らないとね。」
「了解っ! ようするにパンを焼く前に生地をこねる、ってわけだよね。」
前のめりにゲーミングモニターを見つめるライカ。ちゃんと伝わっているかは微妙なところだけど、とりあえずやる気にみちあふれてるのは伝わってくる。
それから小一時間かけて、私たちはああでもないこうでもないと最初のツイートの内容を相談し……。
名前:
天窓ありか@異世界わんこ系新人VTuber
0フォロー中 0フォロワー
初ツイート:
がおー! ぼくは天窓ありか! 異世界からやってきたもふもふ犬耳の元・王子さま👑 この世界のこと、いっぱい教えてほしいです!🐾 ◯月◯日デビュー予定
#VTuber準備中 #新人VTuber
「ちょっとチハルっ!? ぼく、がおー! とか、ぼく言ったことないんだけど!」
「いま言ったじゃないか? ほら、挨拶みたいなものだよ。」
「そういうことじゃなくてー!!」
「とっても似合ってて可愛かったと思うけどねえ? ふふ、がおーって。」
「えうぅううぅ……。」
ライカは顔を赤くして照れているけど嫌がっている様子はなく、むしろどこか嬉しそうだ。はぁあ……! この可愛さを早く世界に広めたいぞっ!!
初ツイートには私が事前に用意していた三面図や立ち絵などを添えて、いくつかのハッシュタグも設定した。こうしたタグの重要度はとくにフォロワー数が少ないときは、非常に高いんだよね。こういうところから見つかる新人ライバーの発掘を趣味にしている視聴者層もいるって聞いたことがある。
「じゃあライカ、次はいろんな人をフォローしてみるんだ。ここを押すと色んな人のプロフィールが出てくる、フォローするときはここをぽちっと。できるかい?」
「た、たぶん……。」
ライカは慣れない手つきで両手をマウスに乗せると、初々しい手つきでTwitterを操作しはじめる。右手で右クリック、左手で左クリックをするつもりらしいけど……逆に器用なことやってないか、それ。
一方、設定作業が一段落した私はキッチンで湯を沸かしはじめた。その横には2人分のマグカップ。
「気になった人がいたらどんどんフォローしてみるといい。まずは同じ時期にデビューした新人VTuberの人なんかがおすすめだよ。」
個人勢VTuberは同期意識が強い人も多く、フォローを返してくれる可能性は高いだろう。もしかしたら気の合う友だちが見つかるかもしれない。
「同級生とかご近所さんみたいなもの、ってこと?」
「そうそう。気軽に挨拶するような気持ちで、まずは好きなようにやってごらん。」
挽いた豆の上にお湯を注ぐと、部屋のなかにふわっと香ばしいいい匂いが漂い始める。やっぱりハンドドリップって落ち着くなぁ。
「わ、なにこのいい匂い……?」
「ふふ、これはコーヒーって言うんだ。王子さまのお口に合うといいんだけど。」
ほかほかと湯気が立つカップの一つをライカに差し出す。ミルクと砂糖をたっぷり使ったカフェオレだ。
「んむ、にがくてちょっと甘い……不思議な味。でもきらいじゃないかも。」
「それは何より。」
ライカはふぅふぅしながら口を尖らせてちびちびと飲み、頬をほころばせている。半分くらいミルクなんだけど、それでも苦く感じちゃうのかい?? ふふふ、可愛い子ども舌だね……。背伸びして頑張って飲んでるとこも可愛いよ、ライカきゅん……。
コーヒーを片手にTwitterの通知欄をのぞくと、さっそく天窓ありかのツイートへのリプライやいいね・RT、そして新規フォロワーが表示がされる。
「ほら、見てみてライカ。きみを見つけた人たちが、さっそく反応してくれてるよ。」
「わわ、ほんとだー! す、すごっ……。」
リプライ
・バーチャルの世界へようこそ!
・初配信楽しみにしてるよ~!
・めっっっちゃ可愛い新人さん発見!!
・フォローありがと~! ありかちゃん、一緒に頑張っていこうね~!!
「えへへ、嬉しい……。嬉しい、見つけてもらうって、こんなに……。」
初対面の人から好意的なリプライが来るのは誰だって嬉しい。それが、ずっと人と世界との繋がりに飢えていたライカであれば、見つけられたことへの嬉しさはどれほどだろう。リプライを一つ一つこくこくと頷きながら読むライカの横顔は、本当に幸せそうだった。
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