④運命の出会いなんだなこれが

「……っくしゅん! はぁ、もう少しあったかい昼間に出ればよかったかなぁ。」


 久しぶりに外の空気を吸った気がする。なんていうか、記憶よりも冷たいような感じ。

 一通り買い物を終えた私は、買い物袋を両手に下げて夕方の住宅街を歩いていた。空はオレンジ色に染まっていて、まもなく日が暮れようとしている。いやぁ、久々にちょっと遠くのスーパーまで足を伸ばしちゃったよね。働いてた頃は近所のコンビニで買い物を済ませてたけど、正直いまのコンビニって美味しいぶんちょっとお高いじゃん? こうして収入ゼロの無職になってしまったからには、数十円でも安いスーパーで買い物をしてちょっとずつ節約していかないと。


「インスタントとかコンビニ飯じゃない、まともな食料を買うのなんていつぶりだったっけ。栄養バランスに気を配るなんて、なんか人としてのレベルがアップした気がするじゃないか、私?」


 袋の中にはすぐに食べられるインスタント麺やレトルト食品に混じって、カット野菜や惣菜コーナーの揚げ物、パックのお寿司なんかも混ざっている。野菜・肉・魚。うん、一分の隙もない栄養バランスだろう! おそらく、たぶん。少なくともインスタント麺よりは。自炊は……そのうちがんばろうという気持ちはある。


「……ん?」


 街灯の灯りがぽつぽつと灯り始めた道端にひとつ、大きな物陰を見つけた。電信柱の根本に四角いシルエット、おそらく段ボールだろうか。やれやれ、こんなとこに物を捨てるなんてまったく…。

 近づいていくと、その物陰は思ったよりも大きいことに気付いた。まるで人が一人すっぽり入れそうな……。一瞬、粗大ごみかとも思ったけど、その考えは貼られた張り紙によって否定された。


『ひろってください』


 え、ちょっと待って待って。捨て犬か捨て猫? こんな大きいサイズの?? おいおい、なんて非常識な人がいたもんだ。……っていうか、なんだか子どもが書いたみたいな拙い文字だ。さすがに何が捨てられているのか気になって仕方ないので近寄って覗き込んでみることにした。さて、一体中には何が入ってー


「……ぁ。」

「……え?」


 目が合った。

 犬でも猫でもない。人だ。

 いや、「犬?」と聞かれたら「たぶんそう。部分的にそう。」って感じの存在。具体的にはふわふわの犬のような耳と、これまたもふもふの犬っぽい尻尾が生えている、人のような存在。……いや、人? それとも天使? めっっっっっちゃ可愛いんですけど!!?!?!

 それが段ボールの中でうずくまり、こちらを見上げている。


「えっ、えっ、えっ、ちょっと待って待って!! なになになにコレ?! どういうこと?!」


 膝を抱えるようにして座り込んでいる、その犬耳の少女……? いや少年? いや、やっぱりええと……たぶん少年(仮)に改めて向き直る。


 背丈や顔立ちだけ見れば小学校の高学年くらいだろうか。ただ、その容姿は明らかに普通じゃない。まず立派な犬耳と犬尻尾、これは二度見しても間違いなくついてる。ぴくぴくと揺れてるし、アクセサリーの類じゃなく紛れもなく本物の耳と尻尾なんだろう。

 灰色混じりのさらさらの銀髪は肩まで伸びていて、幼さを残しつつも整った顔立ちは、どちらかというと少女のようにも見える。

 それにも関わらず私が「おそらくは少年」と予想した理由はその服装にある。

 簡素を通りこして粗末なボロボロの服はところどころが破れていて、どこか囚人を思わせる。胸元や腰回りも大きく露出してしまっているが、そこからのぞくボディラインが少女にしては肉付きが薄すぎるし、見えていることをまるで恥ずかしがる様子がない。よって90%の確率でこの子は少年。Q.E.D.証明完了。

 ……コンマ1秒にも満たない時間見ただけの光景が、こんなに目に焼き付くことあるんだ。自分の分析能力の高さにわれながらちょっと引く。

 そして分析を終えて改めて認識する。あまりにも可愛すぎるぞ、この存在。


「あの……えっと。」


 脳内会議をしている私に、目の前の犬耳存在が語りかけてくる。

 うわ、声まで可愛い……? 


「ぼくのこと、拾ってくれるの……?」


 澄んだ青い瞳でこちらを見上げてくる。その目尻にはうっすらと涙が滲んでいて――全身に電撃が走ったのを感じた。

 ぐはっっっっ!! 何その上目遣い!! 狙ってるの?! 狙ってるのか!?

 っていうか声まで最高なんだけど! 囁くような声でも聞き取りやすい滑舌に可愛くも凛とした中性的な声質は、大手企業勢のライブでもそうそう聞くことができない領域じゃないか!?  イコライザーもリバーブもエキサイターも使わず、生でこの声質っ……現実に存在しえるのか!?

 こんなの推すしかないが!? 天が私のもとにつかわせた新たな推すべき存在なのか??!!


 なんで段ボールに? とかその耳と尻尾は? とか気になることは正直いろいろあるけど、それ以上に目の前の存在が魅力的すぎる。神という存在がいるならば確実に言っている。「ここで持ち帰る運命だ」と。ここでとるべき行動は一つしかない。


「大丈夫だ、問題ないとも!」


 意識して自然な笑顔をつくり、手を差し伸べる。少し遅れて私よりも一回り小さな手が、遠慮がちに伸びて……私はその子の手をとった。


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