暑過ぎる夏休み、俺の描いたVtuber風擬人化イラストの女の子達が飛び出して来て俺とダブル高気圧な暑いデートすることになったんだけど
明石竜
プロローグ
「今日は特に蒸し暑過ぎだろ」
八月上旬のある日、正午前。
兵庫県とある海沿いの街に住む、高校一年生の西風晴雪(にしかぜ はるゆき)は学校で行われた夏期講習からの帰り道で嘆いていた。
今34.1度か。これでも豊岡とか西脇とか福知山とか、日本一の高温記録が僅か六日で終わった柏原に比べたら、まだマシな方なんだよな。
スマホで住んでいる街の最新気象データを確認し、こんな感想を抱くも暑いことには変わりない。
帰宅し自室に入ると、即クーラーを入れる。
リビングでお昼ご飯を食べ終え、涼しい自室に戻って一息つくと、
……暑さ日本一を出した伊勢崎を擬人化したキャラでも描いてみるか。
ふと思いついた晴雪は、勉強そっちのけで愛用の液タブでキャラクターを描いていく。
柏原の方も描いてみるか。せっかく高温日本一になれたのに、すぐに伊勢崎に抜かれ、鳩山に抜かれ静岡にも抜かれ、桐生に並ばれなんか不憫だもんな。今まで40℃を一度も超えたことがなかった兵庫県なんかに日本一を名乗らせて堪るかといわんばかりに常連の群馬、埼玉、静岡県が巻き返して来たし。同じ兵庫県民として、応援したくなったよ。
共にカラーで色付けもし、数時間かけて二人のオリジナルキャラクターが完成。
出来た! この子達の名前は、伊勢崎絹衣(いせさき きぬい)ちゃんと、柏原丹波(かいばら たんば)ちゃんにするか。ご当地Vtuberにいそうな仕上がりになったな。
晴雪は自身のデザインに思わずにやけてしまう。
柏原丹波ちゃんは黒豆色のおかっぱ頭な髪の毛に、丸っこいお顔。恐竜の着ぐるみがお気に入り、中学一年生という設定。
伊勢崎絹衣ちゃんは小泉稲荷神社の鳥居のように赤い髪のナチュラルストレート。面長で、バイク好きなお姉さんタイプのデザインで、晴雪より一学年上の高校二年生という設定。
晴雪はこのイラストをプリントアウトし、ポスターのようにしてみる。
この子を眺めていると、癒されるな。
うっとり見つめていたそんな時、
「このお部屋は涼しいわね」
「本当だぁー。アメダス観測地点より10度以上は低いね」
こんな声が聞こえて来た。
と同時に。
「うわわぁっ!」
晴雪は仰け反る。
突如、飛び出して来たのだ。
彼の描いた二人のキャライラストが。
「はじめまして、晴雪くん。伊勢崎にいつか遊びに来てね」
「こんにちはー、晴雪お兄ちゃん。あたしを擬人化してくれてありがとう」
そしてご丁寧に挨拶してくれる。
丹波ちゃんは身長一四〇センチくらい。
絹衣ちゃんは晴雪と同じくらい、一六〇センチ台半ばくらいあった。
「えっ、あっ、どっ、どうも。おっ、俺、とうとうアニメの世界と現実の世界との区別が付かなくなったのか?」
晴雪は当然のように戸惑う。
「夢じゃないよ。現実よ」
「晴雪お兄ちゃん、現実の世界だよ」
なっ、なんでこんなことが、起こってるんだ?
晴雪は目の前で次々と起こった超常現象にただただ唖然とするばかり。
「絶対、夢だよな?」
とりあえず右手をゆっくりと自分のほっぺたへ動かし、ぎゅーっと強くつねってみる。
「いってぇっ!」
痛かった。
現実……だったらしい。
「嘘だろ?」
まだ晴雪は、この状況を信じられなかった。
「晴雪くん、こんなに驚くとは思わなかったわ」
絹衣ちゃんはてへりと笑う。
「驚くに決まってるだろ」
晴雪はごもっともな突っ込みを入れた。
「お部屋の様子を見て、晴雪お兄ちゃんは本当にかわいい女の子達が活躍する系のアニメが大好きな男の子なんだなぁって、思ったの。これならあたし達が絵から飛び出して、三次元化してもごく普通に受け入れてくれるかなぁと思ったの♪」
丹波ちゃんはにこにこ顔で伝えた。
「晴雪くん、これが現実だってこと、素直に受け入れちゃいなよ」
絹衣ちゃんはうふふっと微笑みかけてくる。
「……それにしても、俺が描いた絵が三次元化するって、現代の科学技術的にあり得ないだろ」
イラストが描かれていた用紙が真っ白になっているのを眺めつつ、こう呟く晴雪、
「それが出来ちゃったんだから、そう突っ込まれると反応に困っちゃうな」
絹衣ちゃんはちょっぴり困惑気味だ。
「あの、絹衣ちゃん、俺、これが現実だってこと実感したいから、体、触ってもいいかな?」
「オーケイだけど、お胸は暑ぅい気持ちになっちゃうからダメよ」
「分かった。頭にするよ」
晴雪は恐る恐る、絹衣ちゃんの髪の毛に手を触れてみる。
「ほっ、本物だ」
「晴雪お兄ちゃん、あたしの頭も撫でてぇ~」
丹波ちゃんからお願いされると、言うとおりにしてみる。
「……本物だ」
「ねっ、現実でしょ。晴雪お兄ちゃん♪」
「うっ、うん」
「分かってもらえて嬉しいわ。あの、ところで丹波ちゃん、さっきから私を睨んでるけど、何か怨みでも?」
「大ありだよ。絹衣お姉ちゃんのせいであたしの日本最高気温記録がたったの六日で終わったんだもん」
「あらあら」
「絹衣お姉ちゃんの街の記録は、オートレース場のバイクの排熱でズルして出した気温でしょ。アメダスがすぐ近くだし」
「関係ないって」
ふふふっと微笑む絹衣ちゃんに、
「次の夏は絶対追い抜いてやるからね。ガオオオッ!」
丹波ちゃんは恐竜っぽい威嚇ポーズをして宣言する。
「うふふ、かわいい♪」
絹衣は朗らかに微笑む。
その街に住んでる人にとって迷惑な話だろうけどね。
晴雪は心の中で呟く。
「ところで晴雪お兄ちゃん、ここは、何っていう街なの?」
「明石だけど」
「明石かぁ。ちょうどアメダスもある街だね。ちなみに丹波市も明石ほど有名じゃないけど東経135度の子午線通ってるよ。兵庫県は明石とか神戸とか淡路島とか家島とか、海沿いは最高気温がしょぼいよね。柏原で41.2℃まで上がった日も、明石は33.3℃までしか上がらなかったし」
丹波ちゃんは得意げに笑う。
「海沿いは最高気温は確かに内陸には敵わないけど、神戸明石や瀬戸内の夜の気温の下がりにくさは全国でも上位クラスになってるよ」
「最低気温が下がりにくいっていうのは、地味だね」
「そうね、丹波ちゃん。八月の過去三〇年平均気温は明石、柏原、伊勢崎の中で明石が一番高いけど、暑い街を名乗るなら、最高気温の高さが重要よ」
「明石は、元市長で参議院議員のあのおじちゃんは熱血漢だから、もっと最高気温上がっても不思議じゃないと思わない?」
「丹波ちゃん、それは関係ないから」
晴雪は笑顔で突っ込む。
そんな時、
「晴雪ぃ、夕飯出来たでぇ~」
一階から母の呼び声が。
「もうそんな時間か」
晴雪はビクッと反応する。すぐにこの部屋から出て、ダイニングへと向かっていった。
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