自己抑制の鎖

言葉が怖い。

書こうとすればするほど、未来の批判が先に浮かんでくる。

だからぼくは、書く前に自分の言葉を締め殺すようになった。


ノートに一行書いては、すぐに線を引く。

「くだらない」「誰も共感しない」「笑われる」

そんな声が頭の奥から湧き上がり、まだ生まれたばかりの文章を鎖で縛り、地面に沈めていく。


SNSに投稿する前に、何度も読み返し、削って、削って、結局は何も残らない。

ぼくは「誤解されない言葉」を探していたのに、それは「誰にも届かない言葉」になっていた。


他人から縛られたのではない。

批判者や沈黙のフォロワーが、直接ぼくを止めたわけでもない。

鎖を巻きつけているのは、他ならぬぼくだった。


アオイの声が再びよみがえる。

「承認されなくてもいいじゃない」

けれどその言葉は、ぼくを解放するどころか、鎖をさらにきつくした。

承認を求めるぼくは、彼女の目から見れば醜いのだろう――そう思うだけで、余計に言葉が出なくなった。


夜、部屋の隅でパソコンの光を浴びながら、ぼくは自分の指先を見つめた。

打鍵することを恐れて震えている指。

その震えは、ぼくが自分を縛っている証だった。


ぼくは自分自身に囚われていた。

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