Episode 45 :【見舞い品との激しい攻防戦(?)】

 ――ゴーグル男が去っていった後、病室に一人残された俺は、「勝手に動くのもよくないな」と思い、ベッドの上で大人しく待機している。


 医療器具の作動音が鳴り響き、薬品の匂いが鼻腔びこつをくすぐる空間。


 慣れない場所のせいか、どうも落ち着かないな……。


「――おいっす、ナッチャン! 調子はどないな感じ?」

「歓迎の気持ちも込めて、土産を持ってきたぞ!」


 しばらくすると、和やかなテンションの雨津星あまつぼしさんと鳳紫ほむらさんが、手土産を片手に、見舞いに来てくれた。


 紙袋から取り出されたのは、〝御門みかど麗和れいわ本舗ほんぽ〟という名の、和菓子専門店のイチゴ大福。


 カットされたイチゴで耳や尻尾をあしらった、マスコットのように非常に可愛らしい見た目をしている。


 それは、雨津星さんいわく、『世界で一番美味いイチゴ大福』だそうだが……。


「……すみません。

 俺、甘い物が、本当にダメで。好き嫌いの域を越して、拒絶反応が出るレベルなんです。

 せっかく持ってきてくれたのに、申し訳ないですけど……」

「何っ!? まさか、イチゴ大福が苦手!? そんな人間がいるとは……!」


 開いた口が塞がらない雨津星さん。


 どうやら彼は、『自分の好きなものは、誰でも好きだ』と信じて疑わない人みたいだ。


「だーから言うたやろ? こういうのは外しがちやねん!

 高校生はみんな、特に男の子なんかはこういうのが好きやって、教科書にもっとるがな!」


 今度は鳳紫さんが、得意げに笑いながら、〝ポテイト・アゲタヤツ コンソメ味〟というスナック菓子を取り出す。


「リュウさんが外出てる時に、思い付いて追加しといたんやで?

 ほんまウチは、気配りの達人やなぁ~♪」


 大袈裟に胸を張り、フフンと得意げに鼻を鳴らす鳳紫さん。


「…………」


 ……おそらく今の俺は、もの凄く申し訳なさそうな顔をしていると思う。


「……えっ?

 そ、その微妙な反応……まさか、ポテチもアカンの!? その若さで!?」

「……どうも俺は、普通の人と、味覚が違っているみたいで……。

 それで両親には、色々と苦労をかけていましたし……」

「へっ? ……あ、そ、そうなの?

 な、なーんや、そういうことなら、早く言いなさいな! もぉー、ナッチャンったら、いけずやわぁ」


 鳳紫さんは、少し驚きつつも、俺の言葉を受け止めてくれた。


 戸惑いながらも、受け入れてくれた、鳳紫さん。嘘じゃないと、分かってくれたらしい。


 それでも、その様子からは、やっぱり残念がっているのが、ありありと伝わってくる。


「こんな美味しいポテチ、他にないのに……」


 小さく呟くその声が、胸に刺さる。


 ……というか、見舞いの手土産に、スナック菓子ってどうなんだ。 


 そう思ったけど、流石に失礼なので、黙っておこう。


「そうか……。夏神なつみ君は、イチゴ大福は苦手だったのか……。

 確かに、初めて会った時に、『イチゴ大福は余計だ』と言っていたもんな……。まさか、言葉通りの意味だとは……」


 先程までのテンションはどこへやら、しょんぼりと項垂うなだれている、雨津星さんと鳳紫さん。


 明るくて前向きな性格の2人が、まさかここまで落ち込むとは思わなかった。


 だから、俺はそっと、大福を1つ、手に取った。


 「和菓子は、とにかく甘い」という偏見が子供の頃からずっとあったので、自分から食べようとはしなかったし、両親も無理には勧めてこなかった。


 だけどもしかしたら、食わず嫌いを起こしているだけで、案外なんてことなく食べられるのではないだろうか。


 むしろ、イチゴの酸味が餡子あんこの甘みを中和して、美味しく食べられるのではないか……。


 そんな希望(?)を胸に、俺は大福をパクリと口に入れた。


 ……そのことを今、激しく後悔している。


「うおっ……!」


 餡子あんこの甘さが口全体に広がり、イチゴの酸味が、その甘さと絶妙にマッチして、より際立たせる。


 そして、しっとりしたもちを噛めば噛むほど、甘みと酸味のハーモニーを楽しめる。


 それは、甘いものが好きな人、何よりイチゴ大福が好きな雨津星さんのような人にとっては、極上の一時なのだろう。


 だが、甘いものが苦手な俺にとっては――これ以上、言葉にするのはやめておこう……。


 そんな俺の正直すぎる反応と、ショックで固まってしまった雨津星さんを見たからだろうか。


 「じゃあ、今度はウチのポテチ、食べてーな!」なんて、鳳紫さんは言う気配すら見せなかった。


「いや、いいんだ……。

 好き嫌いは、人それぞれ……それを否定したり、強要したりするのは、よくないよな……。おかげで、いい勉強になったよ……」

「ええから……ウチは生涯ずっと、ポテチライフやから……。

 ナッチャンと仲良くなるきっかけが無くなって、内心焦ってるとか、思ってないから……」


 不自然な笑みを浮かべ、無理矢理に自分を納得させようとする雨津星さん。


 悲し気な眼差しで、開封済みのポテトチップを見つめる鳳紫さん。


 そして、気まずすぎる空気の中、何も言えず黙ってる俺。 


 そんな3人の奇妙な沈黙は、実際には数分だったけど――体感では、永遠にも感じられた。


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【次回予告】


「ナッチャンは、何か好きなもんとかないの?」

「そういえば……さっきこの部屋にいたゴーグル男って、〈A.E.G.I.Sイージス〉の構成員なんですか?」

「組織における重要性で言えば、主任の俺よりも、圧倒的に彼の方が上とさえ言えるな」


次回――Episode 46 :【好物と、ゴーグルと、仲間の過去】

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