Episode 6 :【変わり果てた、国の姿】
――生き残った俺と母さんは、ひたすら彷徨った。
《ヒューマネスト》に殺されてしまうかもしれない、危険すぎる状況下……心身を擦り減らしながらも、命を懸けて、避難先を探し続けていた。
《――「ごめんね、夏くん……弱いママで、本当にごめんね……」》
《――「もう、何泣いてるんだよ、母さん! ボクなら全然大丈夫だから!」》
目の前で父さんが消えた時から――母さんは明らかに、心も身体も衰弱していった。
時には、立ち上がることすらできなくて、俺がおぶって移動することもあった。
だけど、俺にとってそれは、全然苦なんかじゃなかった。
むしろ、今まで自分を鍛えていたのは、こういう形で恩返しするためなんだって……心から、そう思えた。
そうやって俺達は、何日も、何日も、歩き続けた。
「父さんの分まで、生きる」。何度も何度も、そう誓い合いながら。
ようやくたどり着いたのは、小規模だが、設備が
……しかし、結局そこには、希望など一切なかった。
なぜならそこは、家族や大切な人を
もはやその場所にいたのは、死んだように日々を消費する、亡霊のような存在だけだった。
そんな避難施設での生活の中、得られる唯一の情報は、世界各国で起きている《ヒューマネスト》による被害拡大のニュースだった。
それは決して、対岸の火事でも、特撮映像でもない。
《ヒューマネスト》は確かに存在し、そして誰にでも起き得る
その対策として日本政府は、東京都を中心に、あらゆる物理衝撃を
《ヒューマネスト》の侵入を防ぐ、〝
その地域一帯の名は――〈
そこに偶然いたというだけで、俺と母さんは、安全に生き延びることができた。
そのことに、罪悪感がなかったといえば……嘘になる。
だけど、当時の俺は、まだ11歳だった。
「おかげで、母さんの負担が、少しは軽くなる。母さんと安心して暮らすことができる」……。
残酷かもしれないが、それ以外のことを考える余裕は、なかった。
――だが結局それは、束の間にも満たぬ安息でしかなかった。
世界の崩壊と不幸の連鎖は、まだ終わってなどいなかったのだ。
《――「――な、なんだ、お前達は!?」》
《――『あなた方は、国家秩序に不要な存在と認定されました。公務に従ってください』》
《――「は、はあっ!? 何言って――おいっ、何すんだよ!」》
《――「やめてっ! その子はまだ子供でしょ!?」》
――それは、《
避難施設に、見知らぬ機械人形達が、突如押しかけて来たのだ。
〝
本来は、業務型や医療型など、人間社会に貢献するタイプが存在し、世界中の人間を労働から解放したという、確かな実績を持つ、機械人形。
だが、俺達の前に現れたのは、おおよそ人様の役には立ちそうもない……重武装をした戦闘兵器だった。
俺達は、理由も告げられぬまま、拘束された。
抵抗すれば、「不要な抵抗は、公務執行妨害の対象となります」と、一方的に暴力を振るわれた。
――『なんの権利があって、こんなことを』。
叫んだ俺の前に、フレンドの一体が、空中に映像を投影した。
そこに映っていたのは、宝飾品とステンドグラスで構成された、奇妙な
その姿を、俺は今でも、鮮明に憶えている。
《――『ごめんなさいねェ~。アナタ達が、無駄に人生を浪費している間に、この国は変わったのよン。
お気の毒だけど、東京都……いや、今や〝新国家〈
ゴミはゴミ箱に、お行きなさい!』》
その映像は、自分の主張を一方的に言い終えると、ブツンと切断されてしまった。
おそらくは、ビデオ映像か何かだったのだろう。
奴は、俺達と、まともに会話する気すらなかったのだ。
それこそが――今の国を象徴する、見るに堪えない姿だった。
俺達は、〝無価値〟と断じられた。
――『ただでさえ生産性のない花屋は、再建不可。
母親は
ただ、それだけの理由で。
フレンド達は、俺達を拘束した後、〈御門大江戸〉から追放した。
その日を境に、俺と母さんは〝トガビト〟――最下級の身分の人間として、地の底へと
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《次回予告》
《かつての美しい面影は、まるで
《――「……ぁ…………ぉ……ぇ…………っ」》
《……俺の声に、母さんは、何も答えてはくれなかった。》
次回――Episode 7 :【喪失と、決意】
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