憧れの炭酸、夏のご褒美。

ましまろう。

 憧れの炭酸、夏のご褒美。

 お酒の飲めない祖父は甘い炭酸飲料を好んで飲んでいた。美味しそうに飲む姿を見て、炭酸飲料に憧れた幼い頃の私は一口もらって、初めて体験した喉の刺激に驚いた。「こんなの飲めない!」と騒いだ私は「ジュースでいいでしょ」と母親にたしなめられた。炭酸の入っていない飲み慣れた甘いジュースは、子ども扱いされているようで不服だったけれども黙って従った。あの頃の私は炭酸飲料は大人の飲み物なのだと思っていた。

 しかしきっかけも覚えていないくらい、いつの間にか炭酸飲料が飲めるようになっていた小学生時代。母親から「甘いから飲み過ぎたらダメだよ」と言われたために、甘い炭酸飲料は好きなだけ飲めるものではなかった。だからこそ私にとって自然と特別なものになっていた。中学生時代には運動部に所属していた私にとって、暑い夏の部活終わりに飲んだ炭酸飲料は、ヘトヘトに疲れた体に甘さが染みわたる最高のご褒美であった。

 それから甘い炭酸飲料が好きなまま大学生になった。飲み会に誘われるようになると、祖父と同じようにお酒の飲めない私は飲食店のメニューのソフトドリンクを見て甘い炭酸飲料を頼む。もう母親から口をだされることもない大人の私は好きなだけ……と言いたいところだが、ほんの少しだけ母親に怒られない程度を意識して、甘い炭酸飲料を飲むようになっていた。「ビールの喉越しを知らないのかぁ」という年上の酒好きの先輩の言葉を受け流す。しかし続けて言われた「ジュースじゃメシは食えないよ」という言葉はちょっと刺さった。大人の飲み物だと思っていた炭酸飲料は、いつの間にかジュース扱いされる子どもの飲み物となっていた。

 私は大学を卒業し社会人になったが、まだまだビールの美味しさを知るには時間がかかりそうだ。しかし食事に甘い飲み物が合わないと言っていた先輩の気持ちが分かるようになってきて、甘みのない無糖の炭酸水に手を出した。最初は甘みがないことに違和感があって飲むのに抵抗があったけれど、ほどなく慣れた。炭酸飲料を飲めるようになったばかりの小学生時代の私だったら、「こんなの飲めない!」と騒いでいたことだろう。

 昔よりずっと体力も落ちたというのに暑くてしんどい夏の日々。社会人を続ける今の私の仕事終わりのご褒美は、子どもの頃大好きだった甘い炭酸飲料ではなくて、すっきりとした喉越しの無糖の炭酸水になった。無糖の炭酸水をご褒美として飲む瞬間、私はほんの少しだけ大人になった気がしている。

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憧れの炭酸、夏のご褒美。 ましまろう。 @SetunaNoKokiri

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