第9話 呼んでいいよ ~ 初めてのホワイトデー①

「では、張本人に訊くけど……この子は何をくれたの?」


 姉ちゃんは半分悪戯っぽく悩んでいる。相変わらずの肚黒さが抜け切れていない。

 でもまあ、先月、泣いていた時よりはずっといい。

 やっぱり姉ちゃんが泣いて沈んでいるのはオレも辛い。


「ん?どした?芳政よしまさ?」


 オレは照れ隠しにぼやいてみせる。

「どした?じゃねえだろ?姉ちゃんが食っちまったんじゃん! 貰ったチョコをさ

 」


「そうだよ。だから協力してんじゃん…… うん! 思い出した、この子はゴ●ィバのキープセイクだ、あのハート缶!」


「ああ、姉ちゃんが物入にしたやつね」


「そうそう。これは3000円くらいかな?」


「で、こっちは?」


「ああ、『ソリッドチョコ猫ラベル』。これも美味しかった。 2000円くらいかな」


「このピンクの包みは覚えている?」


「それは手作り、ハート型のチョコサンドクッキー」


「そうか……手作りか……」


 約1か月前のバレンタインデー当日、

 去年までは“ノーチョコデー”だったオレが紙袋を提げて帰ってきたので

 母さんはオレを下にも置かないような盛り上がりっぷりだった。


 おかげで遅くに帰って来た姉ちゃんは、を追及されるのを免れたのだが……

 数日後、いきなりオレの部屋にズカズカ入ってきて、まだ処遇を決めかねていた机の上のチョコ達をバリバリ始めたのだ。

「私、遊ばれた!!」と


 なんでも同じ生徒会役員の変わった苗字のセンパイに告って……

 まあ、セイコーしたらしい。バレンタインデー当日に!!


「でも、アイツ、私のこと、遊びだったんだ!!」


「たったこの数日のことで、そんなの分かんないじゃん」と慰めてみたが


 姉ちゃんはチョコを頬張りながらポロポロ涙をこぼす。

「私が情報通って知ってるでしょ? “情報通”って入って来る情報は選べないの!聞きたくない事も入ってくるの!! バリバリ」

 青虫ばりに食いつくしてやがる。一応オレがもらった物なのだけど……

 主に“壁ドン三人娘”から


「あ、きなこもちチョコじゃん、口直しにちょうどいい」と姉ちゃんが手を伸ばし掛けたその黄土色の包み紙のキューブチョコをオレは慌てて取り上げた。

「これはダメ!!」


「え~ なんで…… あれ、それって、ひょっとして芳政の“本命”?」



 バレンタインデー当日のHR終了後、田中さんは自分の机の上に箱買いしたこのキューブチョコを広げ、皆に一つずつ配っていた。


「和田くん!」

 と声を掛けられて

 オレはニヤニヤしそうになるのを必死に抑えて田中さんの方へ振り向いたのに……

「……は、可愛いコ達からたくさん貰っているから、要らないか!」

 と言われて

 心底ガッカリした。

 田中さん、吹き出し笑いで

「和田くんは、見境なしの贅沢者だねえ~、ま、いいわ、義理を欠くのは、私も本意じゃないし……」

 と、このきなこもちチョコを投げてくれたのだ。


 な!、このキモチ分かんだろ?!

 オレにとってはこれが一番サイコーなんだ!!

 だから泣いてる姉ちゃんにもあげられない。


 もったいなかったけれど、ソッコー食べた。


 で、コッソリ包み紙をしおりとして使っている。



「この三人は本気だよ、ちょっと、オリエンテーション旅行の時の写真見せてみな」

 とオレに要求する姉ちゃんは、オレより1個上の同じ東高のセンパイだ。


 オレが指し示した三人の顔を見て

「選り取り見取りの美人揃いじゃん!!」と肘でウリウリされた。


「で、このコ達ではない、芳政の“本命”は?」


 と聞かれたので

「写ってない、この写真を撮っている当人だから、写りようがない」

 と答えた。



 そんなこんなで、ホワイトデーのお返しに頭を悩ませている。



 ◇◇◇◇◇◇


「ゴ●ィバのには同じゴ●ィバのグランプラス、ソリッドチョコ猫ラベルのにはフクロウ柄のキャラッセルか…… で、手作りのにはどうすんのよ」


「簡単トリュフを手作りする、クックパッド見て。だから姉ちゃん! 分からないとこがあったら教えてくれ」


 こうして、そのトッピングとしてのスプレーチョコを買い出しに行った100均で、オレは一番の悩みを解決する物を見つけた。

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