第1話 いつも睨む田中さんはオレを助手にした②

 今日は男子の体育の授業はラグビーだった。

 女子は視聴覚室で座学だったようだ。

 ガラガラとドアが開いて両手に紙袋を提げた田中さんが出てきた。

 どうやら集めたノートを運び出しているらしい。


「手伝うよ!田中さん!」

 後ろから声を掛けた。


 田中さんは振り返って、初めて微笑んでくれた。

「ありがと! 両手出して!!」


 で、紙袋を全部持たされてしまった。


 手ぶらになった田中さんはオレの少し前を歩く


「あ~楽ちん♪楽ちん♪」


 紙袋を提げたオレの歩みに合わせてくれているので、いつもよりずっと近くで……

 涼やかな残り香がする。

 オレ、後ろで良かった。絶対、今、汗臭いから


 しかし……


「なんで全部、オレが持つの?」


「それはね」

 と田中さんは振り向いた。


「私が女の子だからだヨ」


 その言葉をオレ、ピッチャー返しのように打ち返した。


「うん、分かるけど。それ男女差別」


 その言葉を田中さんは楽々さばいてしまう。


「差別でなく適材適所」



「それにね」と田中さんは両手を後ろで組んで前を向いた。


「和田くんはスケベだから……」


「なにそれ!」


 田中さんは前を向いたまま、クスクス笑った。


「女子のノートの中身を見ないよう、両手を塞いだの」


 楽しそうに笑う田中さんの後ろ姿には窓から日が差していて、サラサラの髪がキラキラしていた。


 東高ウチは『パーマ禁止』という古めかしい校則がある。

 けどオレ、今、その校則にマジ感謝しながらも焦っていた。


 やべっ!! たぶん、恋に落ちちゃった。


 この瞬間が少しでも続くようにと歩みが遅くなる。


 田中さんが心配して振り向いてくれるくらいに……




            

                      第2話へ続く

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