第33話:疑惑のナディア
(くそっ……)
もう一つの計算外。
華やかで最も国民に人気の聖女であるナディア。
有能そうに見せかけていたが、どうやら張りぼてだったらしい。
(ナディアがいるから、マリサを……聖女の一人を追放するくらい
(俺としたことが……!)
控え目だったマリサが聖女たちの役目を
「あ、あの……」
聖女長がおそるおそる口を開いた。
「なんだ」
「私どもは……マリサは
「は?」
ロイドの冷ややかな口調に聖女長は怯えた表情になったが、それでも続けた。
「マリサはとても誠実な聖女で……。いろんな男をたらしこんだり、国政をかき回すようなことをするとは思えません」
「……それは、巧妙に正体を隠していたのでは?」
「人の本性というのはどうしても
聖女長がごくっと唾を飲み込む。
「ナディアがやった、というならわかるのですが……」
「どういうことだ」
雲行きが怪しくなってきた。
嫌な予感が胸をよぎったが、ロイドは止められなかった。
「ナディアが……黒幕とでも言いたいのか」
「黒幕ではなく、すべてナディアが仕組んだことだと……」
「は!?」
「ナディアはロイド様にはとても忠実に見えたかもしれませんが……いつも自分がいかに目立つかばかり考えていたり、自分の利になることしかせず……」
聖女長が震える手を握り合わせる。
「私たちの見ていたナディアと、ロイド様のそばにいたナディアは
「
「はい……」
聖女長は恐ろしいことを言い出した。
つまり、マリサは無実で、ナディアがすべてを企んだということだ。
(出てきた数々の証言や証拠を、ナディアが
(それが本当なら、ナディアは大悪党ということになる)
ナディアの可憐な姿が浮かんだ。
涙ながらにマリサの所業について話していた。
(あれが全部演技だと……?)
(まさか……二人は幼馴染みで……)
胸がむかむかしてきた。
だとすると、すべてがひっくり返ってしまう。
自分は有能で誠実な婚約者を追放した大馬鹿者で、
だが――。
「なぜ、それを早く言わなかった!!」
聖女長がびくっと肩を上げ、顔をそむける。
「それは……」
聖女長がぺろりと舌を出し、乾いた唇をなめた。
「恐れながら、王太子様がナディアを信じこんでいたので、とても口を挟める状況ではありませんでした……」
「……っ!」
ロイドの怒りを感じたのか、聖女長はびくりと肩をすくめた。
だが、意見を撤回することはなかった。
(ずっと……
気づくと、離れた場所から聖女たちがちらちらとこちらを見ている。
どの視線も尊敬や温かみとはほど遠いものだった。
(聖女たちは知っていたのか……ナディアの本性を……マリサの無実を)
だが、皆口を閉ざしていた。
(確証がなかったからだ……疑いを持っていても、それを意見するのは王族に刃向かうことになる)
(でも今は状況が違う。だんだん、疑惑が確証に変わってきているのだ)
ロイドはぐっと拳を握った。
「今一度、状況を精査する。ナディアから話を聞く」
ロイドは荒々しく靴音を立てて聖堂を出た。
胸が苦しい。
(もし、マリサが本当に無実だとしたら……!)
(そもそも、あのマリサが男たちをたぶらかしていたなどと、なぜ俺は信じてしまったのか)
ロイドは優しく微笑むマリサを思い出した。
ハッとするほど美しい容姿をしていたが、中身は素朴で真面目な少女だと感じた。
婚約を受け入れてくれた時は、信じられないくらい幸運だと思った。
(こんな素晴らしい奇跡のような娘が簡単に手に入ったと……)
だから、裏の顔があると聞いた時に信じてしまった。
あれほど魅力的な少女が、聖女などという地味な仕事だけで満足するわけがない、と心のどこかで思っていたのだ。
(そしてナディア――)
マリサとは違う目を引く存在だった。
魅惑的な外見と、引き込まれるような
(しかも、マリサの幼なじみだと聞いて油断していたのもある……)
ロイドは頭を振った。
(まだ、わからない。マリサが無実かどうかなど――)
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