ユウは勇者と語りたい

かれは

謎のお姉さん

第1話 ちょっとえっちなお姉さんさっ

街の冒険者ギルド前。

依頼掲示板の前に、ひときわ小さな声が震えていた。


「……この依頼、やってみたいんですけど……」


少年は頼りなげに紙を握りしめている。

駆け出しの冒険者、カイルだ。


周囲のベテランたちは冷ややかにささやき合う。


「ひとりでか? 無謀すぎる」

「回復もいないし、絶対死ぬぞ」


そんな重い空気をぶち破るように、明るい声が響いた。


「ちょっとちょっと、そこの君。お困りかなっ?」


「えっ。」


カイルは振り向く。


「だれっ?」



「ちょっとえっちなお姉さん、さっ☆」


その言葉と共に現れたのは、黒髪の美女。

豊かな髪にスラリと伸びた脚、胸元が少し大胆に開いた服。



‥‥




「……あれ? 滑った?」


美人なのに空気を凍らせる。

冒険者たちがざわつく。


「誰だよあれ……」


「ヤバそうだけど、なんか気になる」


ユウはカイルの前ににじり寄って言った。


「ごめんね、ちょっと滑った。で、その依頼、受けるの?」


カイルは緊張しつつもうなずく。


「じゃあお姉さん、ついてってあげる♡ 暇だしね」


言葉とは裏腹に、ユウの目は冷たく光っていた。


 


***


 


森の入口。


「これが癒し草。切り口が白っぽいでしょ? 赤いのは毒草のホロノツル。間違うと危ないわ」


淡々とした声。ギャグは一旦封印され、プロの知識が光る。


カイルは真剣に聞き入る。


 


「この依頼者、悪意あるわね。初心者を試す罠よ」


 


草むらが揺れる。


「っ!」


獣型モンスターが飛び出した。


カイルは固まる。


モンスターは容赦なくカイルに襲いかかる。


「あわわわっ。」


慌てるカイル。


その時。


ユウは手を上げ、低くつぶやく。


「第六式、発動。燃えなさい」


魔法陣もなしに、瞬時に閃光が走り、モンスターは消えた。


 


「な、なんで魔法陣なしで……」


「昔の技よ。最近は使う人少ないけどね」


ユウはあくびをし、草に腰掛けた。


 


 


***


 


帰り道、カイルは感謝を述べる。


「ありがとうございました。あのままだったら、死んでました」


ユウは少し距離を置いて、けれど優しく言う。


「まあね。あなた、これからが本番よ。勇者になるかは知らないけど」


 


カイルは笑顔で答えた。


「はい、でも頑張ります!」


 


ユウは背を向け、街の喧騒に消えていった。


 


「……あのお姉さん、何者だったんだろう」


少年の疑問が、静かに残った。

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