真紅の女神

彷徨いポエット

序章

第1話 戦争

 人類が太陽系という狭い世界から足を出し、銀河系全体に版図を伸ばしてから数百年。大小さまざまな恒星系国家が地球連邦から独立し、それぞれの新しい名前と文化を形成していた。




 地球から一番早く独立を果たした、シリウス恒星系連合政府は、独立からたったの五十年で地球連邦に軍事力で肩を並べた。そして、銀河系の二大軍事国家の片割れとして、長い間、銀河系全土にその名を知らしめていた。




 地球、シリウスの両国家は互いの軍事力を牽制し合い、やがて五十年という長期間に及ぶ相互不可侵条約を結んだ。それは蜘蛛の糸の上を綱渡りするような危うい条約ではあったが、それでも、表面上の平和が保たれていたのは確かであった。




 しかし、その不可侵条約の期限が切れたその日の正午、シリウス連合政府は地球連邦政府に対して、一方的な宣戦布告を叩きつけ、両国家は戦闘状態に突入した。




 地球連邦政府は即座に、シリウス方面軍機動要塞ヴァルハラとその旗下二十八個艦隊という大部隊を編成し、シリウス恒星系の『鎮圧』に向かわせた。




 それに対し、シリウス連合政府は、シリウス恒星系第十三番惑星フェレットの軌道上に十一個艦隊を配置し、迎撃する構えを見せた。銀河系に住む誰もが、その無謀としか思えない姿勢に地球連邦軍の勝利を確信し、疑う事など全くなかった。




 しかし結果として、地球連邦軍は機動要塞ヴァルハラを失い、艦隊の八割を沈められるという、歴史上類を見ない程の大敗を喫し、シリウス連合軍は勢いに乗って太陽系外周まで進軍した。それを見て、日和見を決め込んでいた銀河系第三の軍事勢力、プロキオン奉龍教団に所属する対外威圧隊の牙龍艦隊が、シリウス連合軍を援護するような形で、冥王星群の付近で威圧行動を始め、それをきっかけに、プロキオン奉龍教団に母星を制圧されていたプロキオン共和国が武力蜂起を起こし、アルファ・ケンタウリ自治連合が地球連邦政府に対し、独立を要求し始めた。地球連邦政府はシリウス連合政府との戦争に協力することを条件に、その独立を『終戦後』に認める方針を示し、アルファ・ケンタウリ自治連合は『物資の無償提供』という形でそれを受け入れた。




 かくして、銀河系の三大軍事勢力を巻き込んだ戦争は、太陽系冥王星群軌道上で戦線が膠着したまま、六年の月日が経とうとしていた。

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