002

「ここは局長室。つまりは『関係者以外立ち入り禁止』よ。さて、あなたに許された弁明時間はきっちり1分。それ以上は認めないわ」


そう告げたのは、九九乃木 小春。さっきはむちくちカワイイ女の子と言ったが、同時に時空管理局の最高戦力でもある。

さっき飛んできた赤黒い槍は、おそらく彼女がもつ異能力、"血結晶"によるものだろう。

自身の出血をトリガーに生成される数々の武器は、これまで幾つもの問題を快刀乱麻を断つように解決していった。(一時、山のように積まれた書類を本当に一刀両断したこともあったけど...)


「弁明時間?それって逃走時間って取ってもいいってこと?」

「...まあ、そうね。今回は"警告"よ。本来敬うべき存在の局長に心的損傷を与えたのは見過ごせないけれど...。私情で動くほど私も馬鹿ではないわ」

ちなみにその敬うべき局長とやらは私情で動いた。虚しいばかりである。


「ふぅん...。よかったね遥おねーちゃん、心を許せるツガイができて」

「わかったらとっととどっかいけよ...」

「ははは、全く昔っからせっかちなんだから。

じゃあねー」

と、目の前のやつは霧散してどこかへ行ってしまった。


「昔って...。お知り合いですか?局長と」

「いやぁ...、いくら俺でもあんな性格の悪い奴と知り合うほどでは......あるけど。でも知らんやつだな」

そうですか。と返事をして、俺の突撃によって散らかった書類やらなんやらを拾い上げ、整理し始める小春。その手捌きは完璧に等しく、数秒もすれば、見るだけでも嫌気がさすくらい散らかっていた床は、あっという間に片付いてしまった。さすがは秘書である。


「...そういえば小春、なんで今帰ってこれたの?あと一週間は帰ってこれない予定でしょ?」


見惚れてる場合ではない。たしか小春は別時空調査で三週間くらいは出張していたはずだ。一体なぜ?

すると、小春は顔を赤らめ、若干目線を下に落とした。


「今...近くに誰もいないですよね...?」


今さっき透を送った後だから、よほど隠密行動に優れたやつがいないかぎりは誰もいないだろう。

うん。と軽くうなずく。

すると小春は突然すごい勢いで俺を抱き寄せ耳元で囁く。


「その...あなたの匂いを...嗅ぎたくなって......。ついでに、甘噛みとかも...したいなーって......」


......な?やっぱり小春はめちくちかわいい。

こんな余裕そうなセリフを吐いておいて、実のところこっちも全然余裕なんてないのだけれど。

顔面が熱い。小春の甘く香り。少し汗のにおいもする。俺を抱きしめている小春はちょっと震えていて、呼吸が荒い。顔は見えないけれど、耳が赤くなっている。

「ねぇ......いいでしょ......?私、頑張ってお仕事早く終わらせたんだよ?大事な会議も終わらせたし、違反者たちもちゃんと取り締まってきたよ?ねぇ...もう我慢できないよ...。ご褒美...頂戴?」

この世に天使はいた。まずい、あまりにも小春がかわいすぎて視界がぼやけてきた。

...とりあえず俺も我慢はあまりできないタチなので、お姫様抱っこで小春を局長室の隣の寝室へ連れていくのだった。


ついでに誤解を解くと、俺も小春も女性である。




「はぁ...」


深夜0時。

遥さんから頼まれた仕事も終え、一日の仕事にひと段落つき、僕は自分の借りているホテルの一室のベッドに腰掛ける。

そもそも時空管理局とは、一つの巨大な球体状の空間のことを言う。ビル群などが普通に建てられるほど広い空間であり、ホテルやタクシーやコンビニなどもあるため、ほぼ街である。さらにその地面に沿って建物が建設されている都合上、常に横や下からもビル群が生えているように見えるので、重力なんてものはないようなもの。それが時空管理局である。

ちなみに局員の疲労原因の5〜6割はこの不思議な空間に酔ったからである、という説もある。

実際僕も頻繁に酔っていて、今日も酔った。

「ああ...、うっぷ...気持ちわりぃ...」

明日は、いつも通り遥さんへの挨拶と手伝い、時空転送技術の会議...。あとは戦闘・鎮圧班第6課との合同訓練もあるだろう。

明日も明日で忙しくなるし、もう寝よう。


...としたときだった。

突然、ノックの音が聞こえた...ならどれだけマシだっただろうか。


「と〜〜〜〜お〜〜〜る〜〜〜〜っ!!!!」


部屋のドアを蹴破り、眼前にありえない速度で飛び込んでくる純白の少女。

僕はそれを受け止めきれず、一緒に後ろに吹っ飛ぶ。


「のわぁぁぁぁっ!?」


多分部屋の備品をいくつか壊してしまった音がした。だけど、少女はお構いなしとばかりに目を輝かせ話しかけてくる。


「おかえりっ!透!ねぇねぇ聞いて聞いて!今日お菓子を買いにコンビニまで行ったらね!なんと!お友達に会ったんだーー!!」

「あーはいはい、そうですか。重いから離れてくれるか?」

「はぁぁぁぁっ!?!?重い!?重いですってぇ!?こんな最上級にかわいい女の子に向かって『重い』!?!?」


ずっとハイテンションで喋ってるこいつは

しゃんはいという。

地名姓というか...、これがこいつの名前だ。

自由奔放で、子供っぽい。構ってちゃんとも言えるだろう、正直こういうタイプは嫌いだ。

だけれど、こんな見た目をしていて一回この世を滅ぼしかけている。


"東京神化事変"___。


こいつは数年前、東京上空から時空を突き破って顕現し、世界の滅亡を宣言した。

まあ、なんやかんや時空管理局のおかげもあってなんとかこいつの鎮圧に成功した。

上海は時空違反者に当てはまってはいるものの、遥さんが「管理下に置いておきたい」と言ったことで、上海と、ついでに僕も管理局に加入することになった。

という経歴だ。お察しの通り、上海は人ではない。こいつ曰く「真実の神」だそうだ。なにを持って真実なのかはよくわからんが...。


「透〜〜?あたしの話聞いてる?」

「あー?スマンキイテナカッター」

「えー?もう、じゃあ〜特別にもう一回だけ話すよ?よく聞いててね?」


聞きたいとは一言も言っていない、という発言は飲み込んでおいて、僕は横にあった自分のスマホを取って、話半分に上海の話を聞こうとした。


「今、時空管理局って、わる〜いやつらに解体されそうなんだって!」


話半分では到底聞けないような話だった。

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