エッセイと全部嘘の話

ぽんぽん丸

扇風機

去年、扇風機をクローゼットに押し込む時に、カバーが壊れた。ファンに触れないようにする、細い金属棒が中心から外周に向かって等間隔に伸びるカバー。あれを止めていたプラスチックの留め具、本体との境を抑えるプラスチックのカバー。どっちも壊れた。


だから今年の夏のはじめに、扇風機を出してからしばらく悩んだ。買い替えようかな。だけどこの問いの本質は買い替えではない。集合住宅で粗大ごみを捨てるには地域の集積所に電話して日取りを決めて出さないといけない。めんどうだ。


私はカバーなしで使うことにした。案外快適だった。そもそも扇風機に追突することなんてない。ペットも子供もないない。一人暮らし。ただ近づき過ぎないようにすればよかった。そうして3か月過ごした。


昨日友達の家に遊びに行った。ボクシングを見た。試合を見ていると視界の端で友人が扇風機に触れた。私は反射的に振り返った。危うく「大丈夫?」と聞く勢いだ。


もちろん大丈夫だ。だって扇風機とはカバーが付いているものだから。


私はたった3ヶ月のカバーなし扇風機暮らしの結果、扇風機に触れることに反射するようになっていた。危ない!反射的にそう思ってしまった。不思議そうな友達に「実は…」と言うとひと笑いおきた。


「これ使えよ」


そう言うと結束バンドを渡してくれた。よく見ると目の前の扇風機カバーは結束バンドで留められていた。ここにも壊れた扇風機があって、だけどすっかり簡単に修復されていた。


今、私に送風する扇風機にはカバーが付いている。結束バンドで三か所止めたらまるで新品みたい。緊張感は薄れたけど、新品みたいで気持ちがいい。

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