冴えないオッサン、36歳。やつれたサキュバスに、キスだけで蕩けさせられてます♡

仲村アオ

サキュバス × オッサン

 ──雨の夜。コンビニ帰り、俺は出会ってしまった。


「……っ、な……なんで」


 目の前に倒れていたのは、明らかに人間じゃない女。

 コウモリの羽に、角。ド直球すぎる見た目。

 しかも、めちゃくちゃ……色っぽい。


 濡れた髪が頬に張りつき、しおれた唇が微かに震えてる。

 色気の暴力。フェロモンの嵐。だけどガリガリに痩せてて、明らかに弱ってる。


 ──ま、まさか……

 いやいや、そんな、いるわけ……


 いやいやいや⁉︎

 え、ちょっと待て、あの、都市伝説とか、深夜テンションで検索してた『男なら一度は出会って精液全部搾り取られたいランキング第1位』の……


 サキュバス⁉︎


 いやだって、角ある。羽ある。顔が良すぎる。

 あと、こっち見てる! おい! お前、絶対、サキュバスだろ⁉︎


「ねぇ、お願い……」


 か細い声が、喉奥を直撃してくる。


「キス……だけで、いいの。ほんの、ちょっとで、いいから……」


 え、キス……?

 そんなん、軽く、ポッて、チュって、え? 違うよな? 絶対違うよな!?


「ちょ、ま、待て待て、俺、ただの冴えないオッサンで……!」


 でも次の瞬間、唇が触れた。


「ん、ちゅ、ぅ……っ、んんっ♡」


 あ、あかん。

 舌……入ってきた。ていうか、え、なんで腰、砕けそうなの⁉︎

 なんで、キスだけで、こんな……ッ


 甘い。熱い。とろける。なんだこれ、恋じゃなくて——催眠⁉︎


「……はぁ、キスだけでこんなに美味しいなんて……♡」


 俺の胸元でふにゃりと笑ったサキュバスは、まだまだ足りないと言わんばかりに再び唇を重ねてきた。


「もっと、ちょうだい……ね、オジサン♡」


 ……


 ──終わった。俺の人生、終わった。


 でも……その終わり方、悪くないかもしれない。


「ちゅ、ん……んん……っ」


 サキュバスの唇が、離れる気配を見せない。

 何度も、何度も。角度を変えて、舌を絡めて、甘く、熱く。


 腰が砕けそうだった。

 体中の神経が、とろとろに溶けていく。


 そして――


「……アタシ、我慢、できない……♡」


 俺の胸元に顔を埋めて、彼女がふるふると震えるように囁いた。


「……ここで始めても、いい……?」


「――いや、それはまずい!」


 慌てて背中を押すと、彼女の手がシャツのボタンにかけられていた。

 やばい、本当に脱ごうとしてる。


 このままだと、ガチで路上プレイだ。


「わ、わかった! うち来い、俺んち! ……歩いてすぐだからっ!」


「……うん♡」


 嬉しそうに笑って、彼女は俺の腕にぴたっと抱きついた。

 むちっとした胸が擦れ、熱が移る。


 何なんだこの生き物……色気の暴力か……⁉︎


 部屋の鍵を開けた瞬間、彼女は俺の背中に回り込むようにして玄関に押しつけてきた。


「……おかえりなさい、オジサン♡」


「お、おかえりって、まだ帰ってきたばっかり……」


「アタシ、いい子にしてたから……ごほうびの、キス、ちょうだい?」


 ふわり、と押し当てられる胸。

 濡れた服越しに伝わる柔らかさと、熱。

 さっきよりもふっくらしている気がしたのは気のせいじゃない。


「ちゅ……ん、れろ……っ、ふぅ……」


「ん、く、っ……あ、かん……ッ」


 甘すぎる。

 舌が、唇が、唾液が、ぬるりと絡みついてくる。


「ねぇ、ほら……ここ、当たってるの、わかる?」


 彼女の太ももが、俺の足にぐい、と擦りつけられる。


「んふ……アタシ、もう、じっとしてられないの……♡」


「ま、待て、まだ靴も脱いでない……!」


「脱がせてあげる……♡」


 しゃがみこんで、俺の足元に手をかけたサキュバスが上目遣いで囁く。


「ねえ、オジサン……ちゅーだけって、言ったけど……やっぱり……全部、欲しくなっちゃった♡」


 次の瞬間、彼女の唇がまた重なって――理性も、体力も、全て吸い尽くされる夜が始まった。


 ──そして、靴は朝までそのままだった。

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