第30話一条の希望としての外国の風を感じて

 過眠と拒食が再発して、41kgになっていた体重はふたたび40kgちょうどに戻った。

 前者はまだ構わないのだが、後者に関しては少々難儀している。睡眠時間が7時間では足りず、仮眠を取ったり横にならなくては眠気と疲労感から解放されないのはまだ対処しようがある。

 だが拒食には波があって、ふたたび手が骨ばってきた。治りたいという気持ちと、拒食のままでいい、という気持ちが内混ぜになっていて、うまく折り合いがつかない。

 おまけに季節の変わり目のためか、既往歴のあるパニック障害が再燃しているらしく、症状として現れる胸痛がここのところ続いている。

 これに関しては前に内科で詳細な検査を受けて、心因性のものだとその時には診断を受けているため、今回もおそらくそうだと信じたい。

 とはいえ、こうして心身ともに消耗すると、もはや打つ手がないので、ミルタザピンを半錠から1錠に戻して飲んでいる。同時に悪化していた基礎疾患はいくらか落ち着いたが、枝葉の病気をいくつも抱えていると、どんどん外の世界が遠くなる。

 少し足を伸ばして器を見に行きたいという気持ちもあるし、何より書店にも行きたい。しかしこうにも病でがんじがらめになると、それも叶わない。

 そこで私は兼ねてから気になっていた、FAUCHONのティースプーンとバターナイフがセットとなったカトラリーを買うことにした。

 ティースプーンを買ったのには訳がある。ミルクティーを飲むためだ。ミルクティーはカロリーが気になるところもあるが、常にお茶は無糖にしていて、なおかつ少量の牛乳を注ぐだけなのと、ここのところの持病の篤さで、ひとりでお茶をする時にはティーカップ&ソーサーではなく、マグカップを使うことが増えてきた。

 そのマグカップを使うということに強い抵抗感と、自分自身の自己効力感の無効化を感じてしまうので、ミルクティーにすることで、「イギリス人のように、マグでミルクティーを飲んでいるのだ」というまじないをかけないとマグカップでお茶を飲めない。

 茶葉はルピシアのものを用いていたのが、物価高の煽りを受けて、AHMAD TEAのEnglish Breakfastに落ち着きつつある。風味はどうしても落ちるが、我が家は1日に3〜4度は紅茶を飲む家なので、致し方ない。

 場合によってはPG Tipsなども活用することを考えた方がいいのかもしれない、と思う。本場のイギリスで愛飲されているように。

 そうして幾らかでも外国の風を自分の家に、そして薔薇院に取り込んでいないと、心底参ってしまうので、パートナーが仕事から帰ってくると、最近は最近パートナーがプレイしはじめた洋ゲーのAAAタイトルのHorizonを観て、部屋に戻るとThibaut Garciaのクラシックギターの音色を聴く。

 10月31日発売だったThibaut Garciaの新譜“Bach Goldberg Variations”(邦題「バッハ:2台ギターによるゴルトベルク変奏曲」)は予約していて、Philippe Jaroussky“Passion Jaroussky”と、ウィーンフィル管弦楽団によるNew Year Concert 2025のアルバムと一緒に3枚届いた。この連休中にインストールしてじっくり聞ければと願っている。

 弱っている日々の中にもそうした光はあり、その外国の風が私にとっては一条の希望そのものなのだろうと思う。

 xenophobiaにAI phobia、とにかく今この国ではphobiaが満ち満ちている。言葉を以て生理的な恐怖を克服し、理性と望みを持って他者と、そして新たな技術と手を結ばなくてはならないと切に思う。


Thibaut Garcia/El Bohemio

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