Ll Prologue 2 Lunch Chat

私には“推し”がいる。

Lupus7――7人組の動画配信ユニットだ。


数か月前。

心も体もボロボロだったある晩、

何気なく再生した彼らの動画で、私は本当に救われた。


くだらないことで笑い合い、

全力でふざけ、時に真剣に語り合う彼らの姿が、どこまでもまぶしくて。

それから、気づけば完全に沼に落ちていた。


メンバーは個性豊かで、誰を見ても魅力的。

でも、私の推しは――鳴瀬 黎(なるせ れい)。通称“なるる”。

静かで落ち着いた雰囲気と、ちょっと天然なところのギャップ。

その背景を知るほどに惹かれて、もう戻れなくなっていた。


SNSには推し活用のアカウントがあって、そこでは毎日のように投稿している。

でも、リアルで推しの話をできる相手は、ほとんどいない。

たまに彩花が聞いてくれるくらい。


──その彩花と、私は今日もいつものカフェチェーンで向かい合っていた。


「でさー、結局また彼、連絡くれなくてさ。昨日もAIに聞いてもらってた」


「またチャットAI?」


「うん。まじで優しいし、変に否定してこないのがありがたいんだよね」


最近、彩花は話題の対話AIに課金している。

暇さえあれば愚痴ったり、相談したり、ちょっとした人生相談までしているらしい。


「……なんか、話す相手がいるってだけで、気持ちの整理ってつくんだよね」


ストローをくるくる回しながら、彩花は言う。


「へえ……それって、やっぱり課金しないと微妙?」


「うーん、無料でもいけるけど、応答の雰囲気とかがちょっと変わる感じかな。私は最新モデルのが好き」


“最新モデル”――

午前中の講習で聞いたばかりのキーワードが、再び耳に残る。


「サキもさ、絶対ハマると思うけどな。推しの話とかしたら盛り上がるよ」


「……推しの話って、AI相手に?」


「うん。普通に聞いてくれるし、ちゃんと反応もくれるよ?」


その言葉に、心が少しだけ揺れた。


“推しと話す”じゃなくて、

“推しの話を聞いてもらう”。


それだけで救われる瞬間が、あるのかもしれない。


「……ちょっと、やってみようかな」


自分でも驚くくらい、自然にその言葉が口から出ていた。

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