第5話



「実は、弟達が死んだ時、そいつがお前と同じ事を言ってくれたんだ。

 これからは、自分がその代わりになるからと。

 いつも稽古をサボってばかりだったんだが、あの時は自分からそんな風に言って来た。

 どんな厳しい修行も稽古も受けるから、これからは自分が死んだ弟達の代わりになると」


「そうだったのか。貴方にはもう、立派な相棒がいたんだな」


 趙雲ちょううんが安堵したように笑う。


「貴方が先陣の一番目なら、彼は二番目かな? 三番目?」

「否定して悪いが、三兄弟の時は確かに俺は一番手だったが、あいつと組んでからは二番手になった」


 笑いながらそう答えた馬超ばちょうに、首を傾げる。


「でも……確か、三人一組で行動するんだろう?」


「確かに一人足りなかったが、あいつには才能がある。

 他の人間とは違う、特別な類いのものだ。

 たった一人であいつは二人分の役目を担ってた。

 潼関とうかんの戦いから二年くらいは、攻勢に出てきた魏軍を二人で組んで撃退し続けたよ」


「一番手は槍の上手……貴方に勝る槍使いがいるなんて信じられないが」


 確かに関羽かんうや、張飛ちょうひも比類の無い武将だが、機動力のある騎馬将としては馬超はずば抜けていた。

 関羽や張飛も騎馬戦に強いがどちらかというとそこに留まって、一人で複数の敵を打ち払える武将という感じだ。


 自分や馬超は一人で、複数の騎馬隊を追い回して、潰す。


「俺も実のところ認めたくは無いがな。

 しかし奴の槍は凄まじい。

 子供の頃からそうだったから俺は一度、父にあいつを正式に養子にしたらどうかと言ったことすらある。

 俺が死んだら、あいつに涼州騎馬隊の長になって欲しかったからだ」


 馬超ばちょうがそこまでいう男がいることに、驚いた。


「会ってみたい」


 思わずそう言っていた。



「会ったら目を疑うと思うぞ。普段は戦気の欠片も見せない。

 寝るときは本当に無防備に大の字で寝るし。

 暢気な男だ。

 おしゃべりだしな。


 だがそういう将としての欠点を補って尚、余りある才能があった。

 

 あいつの父親も母親も、馬一族としては珍しく平凡な村人だったのに、何故ああいう息子が生まれたのか不思議だった。

 しかし自然というものは本当に時折、不思議な存在を生み出すことがある。

 彼らがどこからやって来るのかは分からないが。


 ……きっと天が遣わした特別な存在なんだ」



 馬超の話し方には心が籠もっていた。

 彼がそのように思って、その従弟いとこを大切にして来たことは、見ていなくても伝わって来る。


「その人の名前はなんて言うんだ?」



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