BAR2

@amane404

二話

あの日以降僕は毎日と言っていいほど南さんのBARにかよった

その度に南さんは


「あら、また来たの坊や」


と僕のことを坊やと呼び、カクテルを作ってくれる

僕はあの特別な日に飲んだカクテルの意味を調べた、意味はスコーピオン、瞳で酔わせて

本当に僕は南さんの瞳の虜になってしまったみたいだ


僕はまだ大学生でこんなBARに頻繁に来れるほどの貯蓄はない

なのに来た時には必ず


「坊や、また来たの」


と言ってくれる

廃れたBARでもない、それなりにお客もいる

なのに僕のことを覚えてくれている

その事実だけで胸が高鳴り、心臓が熱くなる

ごうごうと燃え盛る新造はいつもスコーピオンを頼むことでだんだんと落ち着きを取り戻していく

僕が飲んでいる間は南さんは何も話さない

お会計の時に


「またいらっしゃいね」


と言ってくれるだけだ

その一言がまた僕の心臓に火をつける

南さんの瞳、言葉、仕草、どれもが僕の原動力になってしまっている

南さんのBARに行くためにバイトを何個もかけ持ちした

南さんのBARに行ったから大学の一限の講義に出られなかった

今は何とか2週間に1回や多くて1週間に1回で保てているが、もっと会いたい、もっと多くの時間を過ごしたいと思い始めている自分がいる

このまま僕は破滅へとたどっていくのだろうか

これではギャンブル中毒者やアルコール中毒者と同じではないか

僕は違う、僕はお姉さんに会いたいから行っているだけなのだ

アルコール中毒者などでは決してない


カランッ


「また来たのね坊や」

「はい!南さんに会いたくて」

「そうなの、それは嬉しいわ」

「嬉しいから今日は私がいっぱい奢ってあげる」


心臓が跳ねた

いま、なんといった

奢ってくれる

あの日、あの特別な人同じじゃないか

僕がサソリに魅せられた日

南さんは相変わらずシェイカーで僕に出すお酒を作ってくれている

カシャカシャとなる音色がとても気持ちがいい


「はい、これよ、意味はまた秘密」

「ありがとうございます!うれしいです!」


お姉さんはにっこりと笑って作業に戻って行った

ああ、こんなに幸せな日がまた来ようとは

きっと僕はこのままこのお店似通って常連になるのだ

南さんからも話を振ってくれるようなるそうすれば僕はもう何もいらない

ふわふわとした、幸せな気分でお酒を飲み、お会計をする


「ありがとうございました」


違った、またいらっしゃいと言われなかった

まあ、たまには違う挨拶もいいだろう

僕はその日、本当に幸せな気分で帰って、幸せな夢を見た

南さんと僕が2人並んで散歩をしている夢

南さんは僕の手を掴んで口を開く


「 」


そこで目が覚めた

南さんが送った僕へのカクテルそれはシャンディガフだった

シャンディガフ、意味は

「無駄なこと」


ああ、そうか、もう僕に飽きていたんだ

20になったばかりの僕に南さんは興味を持っただけで、それが終わったら僕には価値がないのか


21歳の最初の朝は絶望だった


「もう、あなたに興味がないのよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

BAR2 @amane404

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る