第21話




第21話(仮)「ホテルの屋上と、二人の距離」



「とりあえず、ここにいても落ち着かないだろ」

そう言って、遥はすみれをホテルの屋上に連れてきた。

東京の朝は高層ビルの谷間に光が差し込み、眼下の街はせわしなく動き始めている。


「……なんで屋上?」

「ほら、人目がないし、風が気持ちいいだろ」

遥は軽く笑うが、片手はまだ封筒を握ったままだった。


「昨日の影も、この写真も……偶然じゃないって言ったよね」

すみれの問いに、遥は視線を落とす。

「……こういうの、前にもあったんだ」



そのとき、ビル風にあおられて、すみれの髪がふわっと舞った。

「ちょ、近い近い!」

遥が思わず手で押さえてやると、すみれの頬が一気に赤くなる。

「……ありがとう」

「いや、別に」

――一瞬、風よりも心臓の音のほうがうるさく感じた。



「で、前にもって?」

すみれが問い詰めるように見つめると、遥は少しだけためらってから口を開いた。

「高校のとき……地元の文化祭で、同じように差出人不明の写真が届いたんだ」


「文化祭で?」

「俺と、お前が写ってる写真。それも、まだ準備中で誰もいないはずの教室で撮られてた」


すみれは小さく息を呑む。

「……そんなこと、あったっけ」

「お前は覚えてないかもしれない。でも俺は、あの時のこと、ずっと引っかかってる」



ふと、遥が視線を横に向ける。

「……すみれ、あそこ見て」

ホテルの向かい側のビル屋上に、黒いパーカー姿の人物が立っていた。

双眼鏡をこちらに向け、じっと動かない。


そして、次の瞬間。

その人物は手を振り、何かを口の形で伝えた。


“また会おう”


遥はすぐに非常階段へ走り出す。

すみれは声を張り上げた。

「遥、待って!」



追いかけた先に、答えはあるのか。

それとも――新たな罠なのか。



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