アダチ村の恐竜は赤飯を食べる
赤虎
第1話 慶三は隕石と惹かれ合う
ああ、忙しい忙しい。ササナカ県アダチ村の人達は今日も赤飯を炊いています。
だれのためかって?
それは皆の恐竜達のために。
恐竜なんて馬鹿いってんじゃないよと思うかもしれませんが本当にあったことなんです。
それはある日の夜、アダチ村の山間に隕石が5つ落ちてきた所から始まります。
近畿地方の深い山々の間に、アダチ村という静かな村があった。
村人の殆どが高齢者であったため、隕石が降ってきた五月のあの日、深夜二時頃に起きている者は誰もいなかった。
しかし町田慶三だけは、ゴトン!という物音で起きた。普段は物音一つで起きるような玉ではなかったが、なぜだか気になり布団から出てみるとこにした。
裏山の方か?と外に出てみると、夜空にギラリギラリと光る何かを見つけた。
その何かがゆっくり家の後方に向かっていると分かると、慶三もそれを追いかけていく。
なんぞあってはいけないと、草刈り用の鎌と懐中電灯を持っていった。
裏山の草を踏み分け、道なき道を進んでいると、自分はこんな真夜中に何をしているのかという気分にもなったが、御年六十七歳の年金暮らしで、死んだ妻が残した花壇の世話と自分の世話だけだ。
何もなけりゃその分明日に昼寝でもしたら良いと言い聞かせ、更に歩みを早めた。
そうしてるうちに、光る何かはかなり近くまで降りてきた。
「あれはなんだぁな……」
その何かは光を弱めながら、どんどん地上に近づくと、慶三から四メールほど向こうの川の中に、ドボンと落ちた。
慶三は鎌を足元に置き、弾かれたように川に駆けつける。
ざぶざぶと膝下まで浸かり、懐中電灯で照らしながら探ると、明らかに石とは違う感触の物があった。
「これか!手間かけてほんまに」
と持ち上げようとすると、頭の上から大きな光が差した。
自分の影が川に落ち、この時間に見えるはずのない、川と山々の風景を見せる。
見上げるとまた一つとてつもない光を撒き散らしながら、空から何かがやってくる。
これをもう二度繰り返し、慶三の忙しい夜は終わった。
翌日、川辺の一箇所にかためておいた、五個の何かを確認しにきた慶三は30分ほど首を捻っていた。
「どないしようか……」
拾い集めたそれは、太陽の下で見ると、陶磁器で作った卵といった感じで、自然の物ではないような気する。
慶三はお役所に報告するべきか悩んだが、好奇心に負け、一旦家に持ち帰ることにした。
足場の悪い中、重いそれを慎重に家の仏間に運び、新聞紙の上に載せてみると、手間暇をかけたからか、その何かはより一層特別な物に見える。
「でも、どう見ようが卵やろう……」
誰もいない部屋で呟くと、ちらと仏壇に飾られた妻の写真に目をやった。
これを見て妻であればなんと言っただろうか。
『なんだぁな、変なもん拾ってきよって』
と一度眉を潜めて
『まぁ慶三さんの好きにしとってくださいよ』
と笑いながら放っといてくれる。
きっとそうだ。
「じゃあ、好きにしようかね。母さん」
そう一人で呟き、慶三はかるく卵を撫で、立ち上がった。
慶三は車で1時間かけ図書館に行った。
図書館なんてものは、子供と30年ほど前に来たっきりだなと思いながら、図鑑を読み漁る。
爬虫類の卵に近いか?と思い、孵化の方法をメモし家に帰ると、せっせと用意をはじめた。
「これでええやろ」
妻と子供がいなくなり、余り放題だった衣装ケースに土をいれて卵を乗せる。
あとは水をかけて、エアコンを30度に設定すれば、仏間は孵化専用室に早変わりだ。
「早う孵れよー」
慶三はそう言うと卵達をそれぞれ、ぽんぽんと叩き幸せそうに笑った。
そして笑顔になったのは久しぶりかもしれないと思った。
毎日話しかけ、水で保湿してやると一ヶ月後には一回りほど大きくなり、声をかけると、ゆらゆら動くようになった。
「やっぱりなんか入っとんのかいな!こりゃすごいぞ!」
慶三はワクワクしていた。
最後に動物飼ったのは、息子の剛が拾ってきた犬で、剛が家を出たあとも引き継いで目一杯可愛がり、15年生きた。
その可愛い犬の事を、犬を散歩させる息子の小さな背中を……そして、それを見つめる、愛する妻を思い出しながら、また慶三は目尻を下げ、卵を撫でるのだ。
六月のある日、その夜は満月だった。
慶三は、孵化が近いのではないかと気が気ではなく寝つけずにいた。
そして夜9時頃、待望の音が聞こえてくる。
パリバリッと殻が割れる音がすると、慶三は布団から飛び出て、仏間の襖を勢いよく開けた。
見ると、五つ卵の内、二つに大きなひびが入っている。
「頑張れよ……!」
声をかけた瞬間
メリメリ音をたてながら殻の隙間から、頭がゆっくりと出てきた。
その容姿に呆気に取られ慶三は声を出すことも出来なかった。
次にぬるっと身体が出てきたかと思うと、衣装ケースの中でうずくまり、一生懸命に目を開け首をあげようとしている。
「恐竜や……!」
産まれてきたのは、トカゲの様な固い鱗をもち、長い首に小さい頭、ずんとした胴体にこれまたずんとした短い手足、そして長い尻尾を持つ生き物だった。
慶三が「恐竜」と形容したのも頷ける姿で、違う点といえば頭に2本の触手のようなものが生えているくらいだ。
恐竜の赤子は薄っすら目を開けて慶三を見つめたり、衣装ケースに頭をこすりつけたりしている。
慶三は、産まれたての赤子の可愛さにしばらく心酔していたが、急いで台所に向かうと、たらいにお湯とタオルを入れて戻ってきた。
「すぐに吹いたるさかいな。頑張ったな、偉かったな」
甘える二体の恐竜達の身体を、温かいタオルで拭いて畳に乗せてやる。
畳に乗せてもゆっくり這って慶三の所に戻ってくるので、膝にのせ撫でてやると、安心したように、恐竜達は慶三に身を委ねた。
残りの三匹の孵化と世話が終わる頃には、すでに最初の二匹が立つ練習をはじめていた。
そこで慶三はある大事な事を思い出す……。
「しまった!!」
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