君の不幸が私の幸福

むたさん

君の不幸が私の幸福

それがあなたの不幸なら、それが私の幸せです



ー2年前ー



「はぁ、はぁ」

やってしまった

目の前に広がる光景は「地獄」そのものと捉えて良いだろう

小学1年生の頃に初めて会って以来、やや外まきなショートカットが特徴で今日までずっと好きだった幼馴染 「ナツセ」 をこの手で殺めてしまった

何故こんな事をしてしまったのか、何故愛した人を殺めなければいけなかったのか、今となっては何を考えても、もう遅い

そこに広がる光景は、包丁で喉を裂かれて「何か」を訴えたげな虚な目でこちらを見つめるナツセだったのもが転がっているだけなのだから



ー現在ー



ナツセを殺めてから約2年の月日が流れた

ナツセの死体は離岸流の激しい▲▲▲へと「ハナミズキ」と一緒に海へと流した。ハナミズキを流した理由はナツセがいた日々は確かに幸福で俺の人生を彩るには彼女の存在が必要不可欠だったからだ

せめてもの感謝の意を込めての思いだった

幸い彼女の死体は誰にも見つからずに海の藻屑となった

彼女を殺してからの半年は警察からの事情聴取や不可解な失踪についてのメディアからの質問でろくに過ごせたものではなかった

事情聴取やメディアの質問が落ち着いた頃にはナツセが居ない日々のメランコリックな気持ちは徐々に薄れていった


人間は薄情であると痛感させられた出来事だ


ナツセを殺めたあの日から俺の人生は急変した...というわけでもなく今までとそう変わらない日常を過ごしている

唯一違う点と言えば俺の横についてまわっていたナツセが居ないという事だ


どうやら俺は、ナツセが居ない人生を生きるのに向いていないという事が、この2年を過ごして分かった

ナツセのいない人生は...例えるなら

「スクリーンのない映画館」だろう

ただ決められた場所へと座り、何もない所を眺めて過ぎゆく時間を貪るだけの、そんな人生だ

俺はそんな退屈な人生をあと数十年と続けられるほど我慢強くはない

なので今日から1ヶ月後、俺はナツセを流したあの▲▲▲へ行き飛び降りることに決めた

そう決心した時だった

ピンポンと電子音で型取られた音が鳴る

「はーい」

せっかく人が決心したのに邪魔をするのは誰なんだと思いながら、少々苛立ちを込めた口調で玄関を開ける

「どちら様ですか?」

玄関を開けるとそこには、季節的にはもう過ぎている麦わら帽子を深く被り、顔が見えない女の子がいた


嫌な予感がした


「...は?」

「久しぶりだね、ヨウタ」


俺の名前を呼びながら深く被った麦わら帽子をとった女の子はやや外まきなショートカットが特徴的な女の子「ナツセ」だった


「2年ぶりくらいかな?」


目の前で起き得るはずのない出来事が起き、脳がオーバーヒートしていることがよくわかる

なんでナツセがここに居ると質問しようと思ったら

『「なんでナツセがここに居る?」とでも言いたげな顔だね?』とナツセが答える

「おっ?その顔は図星だな?ヨウタは昔から図星を突かれると右の唇を噛む癖があるんだよ」と言われる

目の前にいる女の子がナツセ本人だという証拠はその姿や声を聞けばすでに出揃っている

何よりナツセの事を1番よく知っているのはこの俺で、小学1年生から近くで見てきたこの俺がナツセを見間違えるハズはないからだ

俺の直感が目の前にいるのは俺が殺したナツセで間違いないと、そう告げている

「なんで...ここに...?」

声が上手に出せない、確かに目の前にいるのはナツセ本人と分かっても相手は俺が殺して海へと流した張本人なのだ

「...知りたい?」

ナツセは2年前よりも少し艶やかな声でそう言った

「知りたい」俺がそう答えると

「..まぁ私もよく分からないんだよね、だけどいまはこうしてここに居る」

「そんな私だけど2つだけわかることがある」

「1つは今日から1カ月の間、私はこの世に居られること」

「そしてもう1つ、それは」


嫌な予感がする

人間は良い予感は当たらないが悪い予感というものはよく当たるように出来ているものだ


「ヨウタの不幸が私にとっての幸福となる、何故だかそれだけは直感的に分かるんだ」

「これは私の直感だけど、私はこれを内にしまっておくなんてことはしない」

「私はヨウタを不幸にして見せる」


どうやら俺は、2年前に殺した人から不幸になる権利が与えられたようだった



ー1日後ー



ナツセが現れてから1日が立った

ナツセにはナツセが居ない2年間は酷く退屈な人生だった事、1ヶ月後に自殺すると決心した事、俺が不幸になってやるという決意を固めた事を話した


「そっか...ヨウタももう死んじゃうんだ」

「あぁ」素っ気なく返事をすると「なぁんでそんな素っ気なくするの〜〜」とべったりとナツセがくっついてくる


「あのなぁ、俺にとっての不幸がお前にとっての幸福なら、この状況は俺にとっての幸福でしかないから無意味だぞ」

俺はナツセに十何年と恋した男だ、結局その恋は実らなかったがこんなにベッタリくっつかれたら変な気を起こしそうだ


「じゃあ何がヨウタにとっての不幸なの?」

「そうだな」俺にとっての不幸か...

俺にとっての不幸、それはナツセがいなくなる事だ

「...特にないや」

だが、もしその事をナツセに言ったら、ナツセは今度こそ2度と会えない場所に行ってしまうと思い、口には出せなかった


「嘘ついてるね?ヨウタは嘘つく時に1秒目を閉じる癖があるんだよ」


どうやらナツセは俺のことを俺よりも知っているらしい

「...でもまぁ無理にには聞かないよ、でもいつか時がきた時に私に教えて欲しいな」

「分かった」

そう答えるとナツセは今の季節にしては少々明るすぎる笑顔を向けた



ナツセが俺の所へ来てから2日が立った、結局昨日は特に何もせずに終わってしまった

残り1ヶ月の人生なのに勿体無いことをしたなと思いつつこれからの人生について深く考えることにした


「とりあえず死ぬまでに行きたいところには行っておくか」

「例えば?」

「まずは日光だろ?」この時期の日光は日本1紅葉が綺麗と言っても過言ではないだろう

「あとは霞ヶ浦に、江ノ島とかかな」

「ヨウタってそんなにアクティブだったっけ?」

「ナツセが居ないうちにな」

「...そう」

少し悲しみを帯びた返事に俺は気づけなかった

「他には何かやりたい事あるの?」

いざそう言われると意外とやりたい事は見当たらないんだなと思い込む

どうやら俺は俺が思っていた以上に面白みにかける人間のようだ




ナツセが俺の所へ来てから7日が立った

計画を立てたあの日から

様々な場所へ行った

日光へ紅葉狩りや日光東照宮観光、釣りに行き霞ヶ浦には夜に行って水面に星が落ちてまるで宇宙に居るかのような錯覚を起こさせてもらったり、江ノ電にひたすら乗ってずっとナツセと喋ったりした

そこで1つ問題が起きた


「あの、ヨウタ」

「ん?どうしたナツセ」

「周りを見て」

周りを見渡すと俺の周囲には人はおらず、ただ人々が奇怪な物を見るかのような目でこちらを睨んでいた

「...えっ?なんで?」

「...ごめん、ヨウタ、実は私の姿は私に因果のある人にしか見えないの」

つまり他人から見た俺は何もない空間に向けてひたすらに喋っている男と捉えられているのか


ナツセが来て初めて俺にとっての不幸となる出来事だった

しかしナツセの幸福のために俺は不幸になる必要があるので目的の一つを達成できたと思えばプラスだろう

「関係ないよ、俺の不幸がナツセの幸福だろ?だったら俺は『ナツセを幸せにするためだったらどんな不幸でもかぶってやるよ』」

そういうとナツセは嬉しそうな顔でうんと答えた


残り23日の命をどう生きるか、悩んでいる内にナツセがある事を言った


「今の季節だと空気がよく澄んでて山からの眺めが凄くいいんだろな」

「それだ」


思い立ったらすぐ準備だ、時間は少ないからな

急いで登山用品を買い漁り静岡へ行くことへ決めた

...


「...ねぇヨウタ?もしかしてだけど富士山にでも行こうとしてる?」

揺れの少ない新幹線の中でナツセは問いた

「あぁ...そうだよ」

我ながら阿保だと思う、人生初の登山が富士山は頭が逝かれているかよっぽどの自殺願望の持ち主だろう

まぁ半分は当たっているのだがな


「今日は富士山近くのホテルに泊まって明日と明後日にかけて登る予定だよ」

「明日と明後日!?」

ナツセは驚いた様子で叫ぶ

「あぁ、途中のゲレンデに泊まって行こうと思う」

「ほんっと...ヨウタは昔から行動力だけは一丁前にあるから困るわ」

「...まぁだからあの時も私の無理なお願い聞いて貰えたんだよね!ありがと!」


「...あぁ」


『あの時の無理なお願い』


2年前のちょうど今くらいの季節の頃だった

その時のナツセはそれまで見たこともないような泣きじゃくったような顔で


「私を殺して」


とお願いしてきたのだ


「いやぁ〜初めての登山が富士山とはヨウタも凄いなぁ」

「....」


ナツセが死にたかった理由は、本人からは聞いた事はないがなんとなくわかる

ナツセはいわゆるネグレクトを受けて育った女の子だ

小さい頃の彼女はいつも1人で公園にいて寂しそうにしていたのが印象的だった

だから声をかけて、そこから仲良くなっていったのだ


しかし親の愛情を知らない彼女は狂ったように俺に執着をしていったのだ

だからある日、俺は彼女を、ナツセを突き放してしまった

これ以上彼女と居ると、ナツセは本当にダメになってしまうと思ったからだ

しかしそれがよくなかった、彼女の拠り所を壊してしまったあの日からナツセは少しずつ壊れてしまったのだ


「ねぇ見てヨウタ!富士山だよ!富士山見えてきたよ!」

「綺麗だな、すごく」

「なんで倒置法?」


だから少しでも贖罪をするために、俺は彼女のために不幸にならなければならないのだ

今の俺に出来ることはナツセの幸せを叶える、ただそれだけだ


...



「わぁぁ!ホテルだ!すごい綺麗だよ!」

ホテル内へ入った瞬間、黒色が基調のホールの天井から吊り下げられるシャンデリアに目が惹かれる

「凄いな...本当に綺麗だな」


充分ホールを満喫したあとにチェックインを済ませて部屋えと向かう


「ふぅ〜、今日は疲れたな」

「だね!」

「明日に備えてもう俺は寝るな」

「えぇ!早くない!?まだ20時だよ!」

「明日も早いからもう寝るな」

「じゃあ全力で寝かさないよ!そうすればヨウタは不幸で私は幸せになるしね!」


そういうと彼女は俺の布団の上に乗り


「盆踊りを始めた」


...


朝日に照らされ目が覚める

確か昨日は俺のベッドの上で盆踊りを始めたナツセをほぼ強制的に布団へ戻して眠りについた気がする


「ZZZZZZ...!」


何かいい夢でも見てるのだろうか、とりあえずナツセを起こした



今日は富士山へ挑戦だ

俺の命はあと21日

やる事やらなきゃ損だよな


そんなこんなで富士山へ登り始めるが日々の運動不足が驕り足が痙攣する

「ぐおぉ...」

「頑張れー」

ナツセはほぼ死霊のような物なので肉体的な負荷はあまりかからないそうだ


そんなこんなでゲレンデへ付き一晩を明かし頂上を目指す


ゲレンデから頂上まで約4時間かけて登りきるとそこにはあたり一面の雲の海とこれまで見たことがないほどに近い太陽を見ることができた


「これが富士山の頂の景色か」

「なんていうか、言葉に表せない凄さがあるね」

ナツセの言うとうりだ

この景色を文字に起こすなら一体どのような言葉になるだろう

おそらく俺なら「後悔に追われる日々」と答えるだろう

目の前の綺麗な景色は今の俺にとっては眩しすぎるくらいであり、まるで太陽が「お前の事を監視している」とでもいいたげな表情をしているように思うからだ


「ね、ヨウタ、こんな綺麗な景色を見させてくれてありがとうね」

「ナツセが居なければこの景色を見る事は無かったよ、こちらこそありがとうな!」

ただ、今だけは、そんな太陽も俺たちを祝福してくれているかのように思えたのだ



...



富士山から我が家へと帰還し5日が過ぎた

やはり久しぶりの運動はキツく、しかもそれが富士山登頂ともいえば無理もない

全身筋肉痛であり立つことすらままならないのだ

こうしてる間にも命は無常にも減っていく

残りの人生あと15日、どのように生きようか

「ヨウタ、料理作ったよー」

動けない俺を見てナツセは料理を作ってくれた

お世辞にも美味しいとは言えないが彼女の気持ちが詰まっている事は確かに感じることが出来た


「とりあえず残りの5日は家でできる事をしよう」

「例えば?」

「映画を見たり、アニメを見たり、音楽を聴いたり、本を読んだりだな」

「いいね、ヨウタらしい」

「ナツセは何を見たい?」

「私はヨウタの見たい物を見たい」

「分かった」


そうして様々な物を楽しんだ

どら○モン、くれよん○んちゃん、ハリー○ッター、ジュラシック○ールドなど名作映画を見たり小説を読んだり、鬼滅の○や呪○廻戦などのアニメを見たりしたらあっという間に時間は過ぎてゆく物で残りの命は10日となった


こんな俺でも死が近づくとある変化が起きた

世界が明るく見えるのだ

いつも憂鬱そうに歩いているサラリーマンや今帰りであろう夜の街で働く女の人でさえ、今という瞬間をこれでもかと堪能して生きているかのように思えるのだ

しかしこの事をナツセに話すと

「人間は死が近づくと本能的に生に対してしがみつくの、だから少しでも生気のある物ならなんでも羨ましく思ったり、美しく思ったりするの」

「死のう死のうって思って生きていたとしてもそれは人間の本能で絶対に打ち消せない、人は何処かで生きながらえたいって思っているはずなんだよ」と諭されてしまった

彼女にしては随分と饒舌に喋り、言葉の節々に知的な言葉を用いる彼女はいつものナツセとは違って見えた



残りの命はあと9日、とうとう一桁となったところでナツセはある提案をする


「ヨウタのご両親に合わせてくれない?」

「別にいいけど両親はナツセのこと見えるのかな」

「私の因果のある人は私のことが見えるはずだから大丈夫だよ!」

「私たちがなかいいって事は両親も分かってるはずだし!」

「それもそっか」


残りの命が10日を切った頃、ナツセとヨウタは、彼の両親と再会するために実家を訪れる。ナツセは彼の両親にもその姿が見えるようで、彼らはナツセに驚きながらも温かく迎え入れた。彼女の存在は、両親にもヨウタにとって大切な人だと感じさせた。ナツセはそこで、ヨウタが長年抱えていた「過去の罪」を両親にも明かすよう促した。


ヨウタは重い口を開き、ナツセを殺めたことと、その後の日々の罪悪感を語った。両親は驚愕したが、それ以上に彼の苦しみを理解し、彼に「自分を許していいのだ」と優しく伝えた。ナツセもまた、「その行為が私の望みだった」と語り、ヨウタの心の枷を少しずつ外していく。


「ところで俺の両親にあって何をしようと思ったんだ?」

俺がそう言うとナツセは歩みを止めて話をした

「えっとね...その、えっと」


予感がした、だけど、これまでと違いいい予感がすると


「ヨウタとのお付き合いをしたいなーって...」


掠れるようなか細い声だが、ナツセの綺麗な声は俺の鼓膜を揺らすには充分だった


「...えぇ!?」

「あのっ、ヨウタ、私とお付き合いして下さい」


人生残り約8日、人生初の恋人が出来ました


しかし、俺にとっての不幸がナツセにとっての幸福なら、この行為は意味のないことのなのではないだろうか?

この告白の意図を知るのはもう少し後となる事はこの時はまだ知らない

どこまで行っても俺はナツセの手のひらの上だ


人生がのこり8日となる、朝を迎えられるのもあと7回となった


することがなくなりとりあえず街に出る


「あのっ、ヨウタ、私は構わないんだけど周りからしたらこの状況は少し変じゃない?」


俺は今ナツセの手を握りながら歩いている


道ゆく人に変な目で見られるがこんな可愛いいナツセの姿を見れないなんてなんて可哀想なんだと思いながら気分を上げていく


結局することも特にないまま1日、1日と過ぎてゆき残りも5日となった頃、遊園地へ行くことにした


「おおー!!ここがユニバか!」


2泊3日の人生最後の旅と行こう


ユニバーサルポートヴィータへとまず泊まり、2日目にユニバ、3日目に京都あたりでも観光しながら過ごそうと思う

まるで高校の頃の修学旅行でも再現しているかのような旅だが妙な懐かしさがこぼれ落ちてゆく


ユニバーサルポートヴィータへ着くまでの新幹線でナツセとの最後の大きな思い出作りに力を注ぐ

ナツセはずっと何かを考えたままで俯いている


「ナツセ?何かあった?」

「..,あっ!特にないよ!楽しみだね!ユニバ!」

「...だね」


...


「おぉ!!懐かしい!高校の修学旅行以来だ!」


ナツセも満足気だとこちらも嬉しくなる物だ


「ナツセ、こっち来て」

「なに?」

「じゃーん」

「!!それは!」


そうVIPパスである

少々値段は張るがもうないに等しい人生だ

パーっとお金を使ってしまおうと決めたのだ


「凄い!初めて見た!」

「これで明日は楽しもうな!」

「うん!」


そうして次の日になるまで俺たちは大阪を観光して楽しんだ、道頓堀、大阪城、海遊館といろいろなところを巡ってナツセとの幸せな日々を噛み締めた


...



「ヨウタ起きてー!」

「!?」

朝から大声で起こされるとナツセはとても可愛い格好をしていた

「可愛いい...」

青色のブラウスに黒のタイトスカートを履いたナツセはいつもとは違う大人びた印象を与える


「早くユニバいって楽しも!」


どうやら彼女はユニバをとても楽しみにしているようだ


「あぁ!」


それは俺も同じだった


VIPパスを持ちスタッフに案内してもらいながらユニバ内を楽しむ


「今日はお一人で参加なんですね!一緒に楽しみましょ!」

「いえ、2人です、自慢の可愛い彼女がいるんで」

「え?」

やはり係員の人はナツセが見えておらず混乱を引き起こしている

そらそうだ、俺も正常な時に言われたら同じようになる

「///」

ナツセは可愛いいと言われ慣れていないのか顔を林檎のように赤らめて、湯気でも出ているんじゃないかと思わせるほどに照れていた

「ナツセ、可愛い、愛してるよ」

「...っ!わたし...も..///」


弱々しく呟く彼女の声を今、俺だけが独占していると言う優越感にかられてスタッフからの怪奇の目には気付かなかった


ナツセはみんなから見えていない事を良いことに勝手にアトラクションへ乗り込み安全バーを下げ、機械の故障かとスタッフさん達を困らせていた


...


そんなこんなでホテルへ戻り,今日も終わりが近づき俺の命も約3日となった


「ねぇヨウタはさ、本当に後3日で死んじゃうの?」


「あぁ、だってナツセも後3日で消えるんだろ?」


「それは、そうだけど」


「またナツセのいない生活を遅れと言うのならそれは...」


はっと息を呑む

ナツセのいない生活は、俺にとっての最大の不幸であり、裏を返せばナツセにとっての最高の幸福となる事に気がついたからだ


俺は別に寿命で死ぬわけでも、死刑になり殺されるわけでもなくただ自主的に死ぬだけだ

ナツセが最高の幸福でこの世の幕を閉じるなら、俺のするべき事はナツセのいない世界で生きてゆく事なのではないだろうか


「...スクリーンのない映画館、CDのないCDショップ、楽器のない楽器屋、そんな世界はもう嫌なの?」


ナツセが優しく問いかける


「もう、ナツセのいない世界は考えられない、色がない世界に身を投じれるほど俺はまだ強くない」


「そっか」

「ね、そっちのベッドで寝ても良い?」

「もちろんだ」

「えへへ、おじゃましまーす」


朝を迎えられるのはあと3回となる夜は、ナツセと抱き合いながら心地の良い睡眠で幕を閉じた


人生あと3日と来た今日は京都を巡り我が家へと帰る予定だ


「とりあえず金閣寺行く?」

「二条城も捨てがたい」


実は2人ともこう言った日本文化は大好物で昔から2人で歴史の教科書を読み返したものだ


「わぁーー!!本当に全部金色だ!」

「ナツセはこれで3回目とかじゃないの?」

「中学と高校の修学旅行と合わせて3回目!」

「凄い新鮮な反応するじゃん」

「だっていつ見たって凄いんだもん!」


そう言い笑うナツセの姿はどこか寂しそうに見えた


「すごい!本当に鶯みたいな音が鳴る!」

二条城でも同じようなやり取りを繰り返して新幹線へと向かった


「ねぇヨウタ」

「ん?なに」

「明日はさ、何するの?」

「そうだな」

「...」

「ナツセのしたいことがしたいな」

「だったらさ、私たちの街を探検しない?」

「街?」

「うん」

「私たちが初めて会った公園でしょ、それに小学校に裏山に秘密基地とかさ」

「うん...いいね、そうしよう」

「やった!」

明日の予定が決まったので今日は安心して一眠り出来そうだ、そう言い新幹線が目的の駅に着くまで俺たち2人は寝る事にした


...



「私を殺して」

「は?何言ってんだよ!冗談でもそう言う事は!」

カランと足元に包丁が投げられる

「ね?お願いだから、もう生きてたくないの」

「!!」

恐怖で動けない、ひたひたとナツセが近づいてくる

「ねぇ、これ握って、私の喉をこうスパッとやるの」

そう言いながら包丁を手に握らされて首元に刃を当ててしまう

ここで俺がやらなかったらきっと彼女は自分でやるのだろう、1人孤独に死んでしまうとするなら俺は彼女を放っては置けなくたってしまった

「ね?ヨウタ、私にはヨウタしか居ないの、だから最後はヨウタに看取って欲しい」

「!!!」

本気だと言うことが伝わってくる

ここでやるしかないと伝わってくる

だから

俺は

やってしまった


...


「はぁっ!?」

「zzzzzz...!」

幸せそうにねてるな、良い夢でも見てるのかな

「次はOOO〜折の際は〜」

「ナツセ起きて、もうすぐ着くよ」

「むむーあと5分」

「だめー」


嫌な夢を見てしまった、俺が本当にナツセを殺してしまった夢

改めて自分が酷い事をしたんだなと言う実感が湧いてくる

それと同時にナツセを殺してしまうことでしか救済できなかった自分に嫌悪する

「ナツセ」

「なにー?」

俺はナツセにもおいっきり抱きついた

「えっ!?ちょ!恥ずかしいって!」

俺はお構いなしに抱きしめる

今ここには確かにナツセが存在していて俺は触れることが、喋ることができるんだと言う事を実感しながら今日を終わった


人生あと2日

今日は懐かしの場所巡りだ

「と言うわけで最初に来るのはこの公園です」

「うわー!!懐かしいね!ね!ここで私とヨウタが会ったんだよね!」

本当に懐かしい思いが伝わってくる

あの日この場所で俺とナツセの2人の物語が始まり、今、終わろうとしている

「このブランコこんなに小さかったっけ?」

「滑り台もなんか低いね」

「だね!」


「この神社でよく雨宿りしたよね」

「ヨウタがせっかく傘を持ってるのに私との相合傘を拒んだからでしょ!」

「ゔっ、ごめんなさい」

「しかも私は置いてけばいいのに律儀に一緒に待ってくれてさ、思えばあの頃からヨウタのことは好きなんだな」

「...そっ」

「あっ照れてる!」

「照れてない!」

「嘘だー!」

「もぅー!!!!」


「流石に小学校の中は入れないなー」

「なんか小学校もあの頃より小さく感じるね」

「それだけ私たちが大きくなったんだね」

「うん」


「うわぁ!裏山だ!懐かしい!」

「まだ誰かが使ってる形跡があるね!」

「だね!」

「ほら!斜面滑るためのソリがある!」

「ほんとだ!...少し使っちゃう?」

「ありだ」


ひとしきり遊んで元の場所に戻した


「...秘密基地はもうないね」

「だな」

小さな洞穴の中に作った小さな小さな秘密基地は、当時の俺たちにとって最も重要な場所で価値のある場所だったな

「...なんか、少し寂しいね」

「だな、でもこれが時間の流れってやつだよな」

「理屈っぽいなーヨウタは」

「あははははは」


ひとしきり思い出巡りをした後に1番最初に行った公園へいき2人でブランコに乗った


「...もうすぐ終わるんだね」

「そうだな、なんだか少し寂しいや」

「...ねぇヨウタ」

俺の名前を呼ぶとナツセはブランコから降りて俺の前へと立つ

「...もし、来世とか、あの世があったとして、そこで私たち2人がまた恋人として出会う事が出来たとしたら」

「私と結婚してくれませんか!」

反射的にナツセへと抱きつく

「喜んで!」

これまで以上にナツセへの想いが膨らむのを感じる、もうナツセを話したくない、1人にしたくない、ナツセともっと、生きていたい

そう思ってしまう

「...ねっ!これからどうする?」

「もう少しこのままがいい」

「うん!!」


そうして30分ほど抱きしめあった後に俺たちは帰路へとついた


「ね、ヨウタ」

「なに?ナツセ」

「...今日、一緒に寝てもいい?」

「あっ...うん」


その日の夜はもう2度と来ない事を知っているからこそ、お互いの存在を絶対に忘れない為に、放したくないからこそ、深く愛し会った夜を過ごした


とうとう人生最後の日だ

今日は、何もしない

満を辞して時を待つ

「...おはよ///」

「おはよ///」


昨日は本当に幸せだった

だけどそんな経験ももう2度と出来ないと思うと少々寂しくなる

まぁあの世でも俺はナツセを探し出して必ず幸せにしてみせるけどな

そうして人生最後の日はあっという間に時間が過ぎ、▲▲▲へとついた

とうとうここまで来たんだなという実感を感じる

俺と、ナツセの終着点


物語のフィナーレを飾る部分へ


「ナツセ、この1カ月をこんなに楽しく過ごせたのは間違い無くナツセのおかげだよ、ありがとう!」

風が立ち込めて波が強くなる

今日みたいな日はあっという間に沖へと流されるから死体が見つからないんだよな

「...」

「ね、ヨウタ」

「なに?」

「私ね、ヨウタにあえて本当によかった、だってヨウタに会えなかったらきっとこんな幸せな気持ちは味わえなかったから!」

「ヨウタが私に生をくれたように私も貴方に生をあげたい」


...嫌な予感がした、これまで生きてきて最悪の予感だ、

だがしかし人間というものは悪い予感というものは当たりやすいものなのだ


「私のいない世界『それがあなたの不幸なら、それが私の幸せです』」


「私を幸せにしてくれるなら『どんな不幸だってかぶってくれるんでしょ?』」


「私はヨウタに生きて欲しい」

「私は私のいない世界をヨウタに生きていて欲しい」

「こんな酷い我儘ないと思うけど」

「私にっての幸せは、貴方にとっての不幸だから」


想定される内の最悪の予感が当たったのだ

しかし、ナツセを幸せにする為にはナツセのいない世界へ飛び込むと言うのか?


おそらくナツセならこのまま海へ飛び込んでも笑って許してくれる気がする


俺はナツセに嘘をついた、どんな不幸でも被ってやると言ったが、そんな酷い不幸、ないじゃないか


俺は駆け出した、海へ飛び込む為に


「俺は...やっぱりナツセのいない世界は生きていけないよ」


涙が溢れる


人前で初めて大粒の涙を流した


そんな経験もこれでおしまい


   end.


で、終わるほど世界は甘くない

ナツセに足をかけられて転んでしまった


「ねっ、ヨウタ」

優しく抱きしめられる、それはまるで、生まれたての赤子を抱くような手つきで


「えっ、ナツセ?」


「こんな呪いを吐くつもりはないんだけど、私は生きるのが下手くそだからさ、多分死んだ後も下手くそにやっていくと思う」


「だからさ、そんな情けないところをヨウタに見せたくないから先にアッチに行ってるね!」


あぁ...ナツセは凄いな、1人であの世へ行こうとしている

本当は怖いって、震える手を握ればわかる

なのにそれでも立ち向かうんだから凄いな


「分かった...俺もそれまでには立派になるから!」


「次会った時には涙を絶対に流さないように強くなるから!」


「うん!」


「あなたの不幸は私の幸せ、必ず私を幸せにして!」


「かならず俺を不幸にするから!」


そうして接吻を交わしたあと

ナツセは▲▲▲へと飛び込んでいった


俺は咄嗟に手を差し出したが彼女はすでに居なくなっていた

海へといったか空へといったか、それはわからないが最後まで強かった彼女を忘れることはないだろう



...




ナツセがいなくなったあの日から、俺の人生は急変した...と言うわけでも無く以前と同じような生活をしている

強いて言うなら少し懐が減ったと言うことだろう

まぁあぁでもしないと俺はお金を使えないんだがな


とまぁ、ナツセがいなくなりメランコリックな気持ちで生活をして早3ヶ月

俺は今「スクリーンのない映画館」の中に囚われている、こんな不幸を浴びるなんて思ってもいなかったから毎日を生きるだけで精一杯だ

だけど目標も出来た


俺は不幸になる


めちゃくちゃに不幸になって今を生きてあの世でナツセに「お前のせいでめちゃくちゃ不幸な人生だった」て伝えてやるんだ


だからそれまではもう少し頑張って生きてみようと思う





fin.





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