第7話
昼休みの学食は、相変わらずざわついていた。
トレイを持った俺は、空いている席を探して歩く。
「おーい、こっち!」
声の方を見ると、颯太が手を振っていた。
その隣には、美優――颯太の彼女が座っている。肩までの髪を耳にかけ、笑うとえくぼができるタイプの子だ。
「悪い、待たせた」
「全然。ほら、美優、味噌汁渡してあげて」
「はい、真尋くん、これ。トレイ置くとこ狭いから気をつけてね」
「あ、ありがとう」
味噌汁を受け取るとき、美優がさらりと笑う。
その横で、颯太はスープをこぼしそうになり、美優に「ほら、危ないって」と軽く小突かれていた。
その光景が――なんだか、胸の奥を少しざらつかせた。
俺の知っている“恋人同士”とは、まるで別の生き物みたいに見える。
席について、三人で箸を動かし始める。
普通の話題、昨日のニュースや授業のこと。俺はそれを聞きながら相槌を打つだけだった。
ふと、颯太がじっと俺を見た。
「なあ、お前……最近、ちゃんと飯食ってるか?」
「え?」
「顔色悪いし、痩せたよな」
美優も箸を止めて、眉を寄せる。
「ほんとだ。前より頬、こけてない? ちゃんと食べてる?」
「あー……まあ、忙しくてさ」
曖昧に笑ってみせるが、颯太の目は笑っていなかった。
「……真尋、お前さ」
「ん?」
「別れた方がいいんじゃないか?」
箸が止まった。
「は?」
「その顔、完全に限界きてるぞ。何があったか詳しくは聞かねえけど……お前、今の彼女といるとき、笑えてるか?」
「……香澄は悪くない。俺が……」
反射的にそう言いかけた瞬間、颯太が被せる。
「ほらな。それだよ。そうやって全部自分のせいにする時点で、もうおかしいんだよ」
言葉が喉で詰まる。
否定しようとしても、何を言っても言い訳にしかならない気がして、声が出なかった。
「うち来いよ、今日でもいい。飯もあるし、美優の手料理食ってけ」
颯太の声は真剣だった。
美優も、まっすぐに俺を見つめる。
「何かあったら、本当に来てね」
その顔は、優しいけど、少し切なかった。
「……ありがとな。でも、大丈夫だから」
口から出たのは、それだけ。
颯太は小さく舌打ちをして、もう何も言わなかった。
昼休みのざわめきが、やけに遠くに感じられた。
胸の奥に、妙なざらつきだけが残っていた。
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