第12話 手段を選ばぬ戦いへ
拠点内の一室。寒さをしのぐための毛布と発電機の唸る音がかすかに響くなか、雪月花の幹部たちが集められていた。
アグリはその中心に立ち、手元の地図を示す。
「……旭川だ。次の作戦目標はここに定める」
部屋が静まりかえった。
旭川――現在、ロシア軍の中規模基地があり、兵站の要として機能している。
兵力・装備ともに雪月花とは比べものにならない程の規模。だが、それでもアグリは言い切った。
「補給線を断ち、戦力の根を切るには、ここしかない」
参謀のミカが端末を操作し、情報を映し出す。
「基地の防衛は約300名。周辺にも巡回部隊が展開してる。正面突破は無謀だ」
「わかってる」とアグリは静かに頷いた。
「だから、正面からはやらない」
ミカが一瞬言葉を止めた。部屋に重たい沈黙が落ちる。
そして、アグリは言葉を選びながら続ける。
「……敵司令部の一部に侵入して、重要人物を捕える。そこを起点に、揺さぶりをかける」
「……人質作戦ですか」
そう呟いたのは通信部隊の若い女性隊員、サラだった。彼女はまだ26歳の元IT関連企業のキャリアウーマン、最前線の過酷さに時折顔を曇らせることがある。
「……正規戦じゃない。卑怯者って言われても仕方ない」
アグリは目を伏せず、はっきりと答えた。
「俺たちは正義の味方じゃない」
ミカはその言葉に一度だけ目を閉じると、次の資料を映し出した。
「諜報部隊の情報によれば、司令部にボルコフ中将の副官クラスが駐在している可能性がある。ユーリ・マリューチン大佐。札幌でボルコフの作戦を支える、いわば懐刀の一人だ」
「もしそいつを捕えれば……」と別の隊員が呟く。
アグリは頷いた。
「作戦の全貌は数日内に決める。だが、方向性はここで定まった――」
彼は隊員たちを見渡し、静かに言葉を置いた。
「俺たちは……手段を選ばない。勝たなきゃ、意味がない」
サラは口を噤んだまま視線を落とす。
ミカは黙って頷き、作戦準備の確認に入る。
雪月花は、ひとつの境界線を越えようとしていた。
それはもう、名誉でも信義でもない。ただ、「北海道を取り戻す」という想いだけが彼らを動かしていた。
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