たとえ僕が壊れたとしても
@sink2525
第1話 最愛の君が死んだ日
「もう!これ以上嫌いにはなりたくないんだ。綺麗な思い出で終わらせよう」
劇であろうかと思うほどの感情が込められた声が教室に響く。泣きじゃくりながらも声を出していた――東山薫は息を呑んだ。目の前にいる元カノであった――金城真由美を見つめ続ける。愛嬌も可愛さも伴っていた真由美は小さな笑みを溢した。悪魔に近くて天使にはほど遠いほどの笑みを。
「いつも思ってたんだけど、薫ってどこかの主人公?」
嘲笑うかのようにな笑みを溢していく真由美。ため息を吐いた真由美は顔を歪めた。
その歪みは普段の彼女からは想像ができないほどだった。中学からの幼馴染であった薫でさえ驚きを隠せないでいた。高校に上がってからの真由美は別人となっていた。頬を緩ますこともなくなりつつあった。いや、無くなっていた。
「いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも!」
頭を掻きながら真由美は叫んだ。机を叩き発狂を繰り返す。
そんな真由美をみて薫は分からなくなっていた。
いったい何が起きてるんだ? 変わり果てた元カノの姿に呆然とすることしかできない。いや、何もすることができないんだ。今、俺の目の前にいる彼女に言葉をかけることは許されちゃいない。
許されないんだ。
「だってさ、考えてみてよ!! 私は――今もあなたを愛している。なのに、あなたは振ったのよ? それなのに何が綺麗に終わらせようだよ。笑わせんなよ、気持ち悪い。人の感情を弄んでおいてふざけるな。ふざけるなぁ!」
どこからくる想いなのだろうか。目の前にいる真由美は泣きながら叫んだ。
心からくる想いなのか。それとも腹黒い感情からくるものなのか。それは誰にも分からないことであった。真由美本人しか分からない感情。
「何言ってんだよ。意味わかんねぇーよ。そもそも、お前が別れたいって言ったから別れたんだろ? なのに、今更変な言い訳追加するなよ」
「違うよ!! あなたが私を振ったんだよ!? 意味わかんないよ。分からないよ、分からないよ。分からないよ。」
どちらも間違った意見を言っていないと主張するように大きな声で叫ぶ。
「俺は、お前が、えっと――お前が」
ふと、何かを思い出した薫は自分の首に手を当てた。
「やらなきゃいけない――」
そう言いながら首を絞める。
俺がやらなきゃいけない。やらなきゃいけない。何もかも全て救わないといけないんだ。
まただ、最初からだ。
くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、また、救えなかった。
愛している。
好きでいる。
そして、目の前にいる彼女はもうすぐ死んでしまう。
あと何千回続くんだ。
もう、分からない。
分からない。
分かりたくない。
分かり、分かり。
「薫〜!! 早くこっちに来てよー!」
天使のような笑みを溢した真由美は薫を見つめた。はにかんだように笑う様子に薫は頬を緩めた。
2006年5月29最愛の君が死んだ日。
たとえ僕が壊れたとしても @sink2525
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