第27話 勝つは『5000胴切り』か?『白黒の魔剣士』か?

「ゲハハハ!!」

「狩りをするぞブレイズ!」


 始まった第二ラウンド第一試合…出場選手両者共に第一試合では勝ち登ったものの、どこか地味な試合展開で観客らには受けが悪い選手だ。しかし、観客らの予想を大きく『いい意味で』裏切り、派手な近距離戦となったのであった。


「るるるぅぅおおおおお!!」

『ドゴォ!!』

「ブレイズ!マーデンの動きの牽制ッ、ダメージを与える事は度外視しろ!」

『「クァーーーっ!!」』


 そして試合序盤では同等…もしくは押し気味であったが『野獣解放ビースト・モード』を発動したマーデンにリップは苦戦しながらも、何とか均衡を保っていた——様に見えたが。


(変身前ならばギリギリ上回っていたパワーも、解放あの状態のマーデンには遠く及ばない…か)

「ゲハハハ!!ヌルいヌルいヌルいヌルいヌルいヌルいヌルい!!」

『「クッ!アガ…フグ!」』

「!かなり硬い魔法鉱石の純正鎧の上からこうもダメージを…」

「ギャオオオオオオオオオオン!!」

「——しまっ…」

『ボゴォオ!!』


 ——事実は異なる。拮抗するどころか、追い縋るのがやっとの状態だったのだ。リップは強い…特にスキルによる効果は絶対であり、陽動から致命の一撃までこなせるほどのスキルの多様さは、大会随一だろう。


「はぁ…!はぁ!(この世の全ての『力』は……)」

「ぷぷ!まぁた回避能力で逃げやがってぇッ!!止まってやがれぇぃ!!直ぐにボコボコに叩き潰してぇ……やるぅ!!!」

「くッ!!『妖精の盾フェアリアルインゴット・シールド』!!」


 —だが、ありとあらゆる『能力パッシブ』『技術スキル』『魔法』その他全ての能力も、たった一つの力に支配されるのだ——文字通りの『力』に。


「馬鹿が!!」

『バギャッ!!』

「妖精の——(この世の全ては…)」

「ザァコッ!!」

(物理となって顕現する。)

『メギァッ!』

「『フェぁ』……ゴハッ…」


 —顔面を強打されたリップは地面に沈み、召喚されたモンスターは光の粒子となって霧散し…試合は幕を閉じた——


「ゲャハハハ!!勝ったァァ!完!」

『ヒュッ!』

「勝——オガっ!?」


 ——かに思えた。

 しかしマーデンは気付く。飛んできたのは勝利の歓声ではなく、一筋の閃光——剣であったと。


「ハァアアアアア!!」

「オオォッ!?て、テメェ!!」

「ま…負け伏す…?そんな訳がないだろう!!」

『グリグリ…!』

「オバッ…『ビチャビチャ…』ゴフ…!」

「ぜひゅーひゅー…ここにいる誰もが『異常なほど強い者イレギュラー』…!肋骨が折れて内臓がズタズタだろうと関係ない!!」


 「俺は負けない!」…そう吠え『マーデンの脇腹を深く抉る剣を更に深く押し込んだ。』…これには堪らず、痛みに喘ぐマーデン。

 ——いくら暴走化してるとは言え、生物学上…内臓が詰まった腹部…それも下腹部の傷は致命的になる。自重で内臓が溢れるからだ。騙し討ちの様で申し訳ないが、ここは闘いの場…勝利ゴングもなしに油断したその隙『存分に使わせてもらった』。


「勝利までの道筋は既に見えた!!」

「ねぇよ!んなもん!!」

「『再誕の合図リコール』!『上位召喚サモン』!」

—『勇敢優雅な騎士グレイスフルボールド』——!!


 …しかし、相手はそれを踏まえても自身を大きく上回る強者、つけ入る隙という隙は無に等しい。俺の召喚出来る中でも、最も強い『勇敢優雅な騎士グレイスフルボールド』を【能力】『妖精』に内包されている『技術スキル』の一つ——『再誕の合図リコール』という消費魔力0で無条件発動が出来るスキルで召喚した、だが既に押され気味だ…何なら鎧がひび割れ消滅するまでのタイムリミットもそう掛からないだろう。


『「カァッ!?」』

「ブレイズ!!」

「雑兵が増えた所で変わりゃしねぇ!!」

「クッ……一応、妖精界最強の騎士なんだがな…」


 参った、本当に計算外の出来事ばかり起こる男だな、と半分認めつつも、もう半分は軽く憤りの域に入った感情だった。それに「想定外は想定内」と言わんばかりに対策も講じた、それがこの召喚モンスターだった。単純な剣術能力では僅かに優勢ながらもパワーの差でここまで追い詰められている。

 正直に認めよう、この『勇敢優雅な騎士』以上の策はない、と。


「ほぉ!噂の妖精界随一でこの程度とはぁ…ゲハハハ!聞くに勝らぬか!」

「——ならを呼ぶとするか…」

「——あぁ?」


 ならば『上位召喚それ』並の切り札を切るしかない。…と、俺は左手を横薙ぎに振るい、魔法陣をマーデンとブレイズを囲む様に配置し——発動する。


「顕現せよ…永遠の英雄たちよ…」

——『上位召喚サモン』…

「!何か来やがるなぁ〜!待ってやる気はねぇがなぁ!!」

「『獰猛豪華の重騎士サブェージゴージャス』俺を守れ、さらに」

「むぉ!?防…ッ!?」

「追撃せよ!『寡黙清楚の騎兵クワイエットニート』!」


 魔法陣から現れたのは2体の騎士、獣の様な装飾の全身鎧に大楯を手にした『獰猛豪華の重騎士サブェージゴージャス』のサブェージと、ゴツゴツとした肩から指先までの腕鎧が特徴的なロングヘアの女騎士『寡黙清楚の騎兵クワイエットニート』のクワイエット。

 俺の召喚詠唱を聞いた瞬間に飛び出して妨害しようとしたマーデンは流石だ。これは俺の最強の戦法…コレがもし中断されたら俺の完敗だっただろう。だが召喚できた今、勝機は万全にある。


「ぐおぉっ!?」

『「フッ!ハッ!ヤヤヤヤ!」』

『ヒュン!シュ!シシシッ!』

「クワイエット!そのまま槍で牽制!ブレイズ!相手をクワイエットに近づかせない様に牽制!」

『コクッ』

『コクッ』


 クワイエットは騎兵と言うだけあって、本来は騎馬となる精霊を召喚し、人馬一体の広範囲に斬り込める特攻用の召喚モンスター…しかし、乗馬させる『隙』や消費する魔力を考えれば召喚するメリットはない。

 …なんせ召喚モンスターは『これだけじゃない』からな、エコに行こう。


「チィッ!!(連携が厄介だッ!…って正気に戻り掛けているッ!?ま、まだ戻るな!狂気を増幅させろぉッ!)」


 そして、相反する様に押され始めたマーデンは焦っていた、能力による暴走化が意図せず解け掛けていたのだ。

 —俺とリップの力関係は追い越し追い抜きの位置にある。

 ○互いにフラットな状態ならば俺の圧勝。

 ○リップが召喚モンスター込みで互角。

 ○俺が暴走状態ならばそれを上回る。

 ○そして今…召喚モンスターが複数いるこの状況ではリップが上回ってしまう。


(——くっ…暴走が解け掛けて頭が冷静になりつつある今、【能力パッシブ】が解けるのは秒読みだ。しかし…しかしどうすればこの状況を打破できる?)

『「ハァッ!!」』

『ブシュッ!』

「うぐっ『ガクッ…』」


 ハッキリとしだした思考を少しでも薄れさせようと、呼吸をわざと荒げたり、暴力的な思考を巡らせたりした…が、全て無駄に終わっている。あの野郎…リップ!!!


…その暴走化は解けるんだろう?」

「まっったく正解だコナクソ…!」

「クソで結構…!隙を見て攻めてくれ…『稚拙楚楚の軽騎士イマチュアグレイスフル』!」

「よ、用心深いこった!」


 軽傷とは言え、確実に『無意識』を削られる痛みに苦言を呈す、常に剣と槍でジワジワと削られ、攻め様にも近づかない、近づけたとしてもあの大楯が邪魔で本体リップには到底近付かない…そう四苦八苦しつつ、会話で時間稼ぎをしようと敢えて攻め手を緩めて言葉を掛けた——が、晒した隙にまた新たに召喚されてしまった。

 見た目は10とそこらの少女の様な見た目だが、明らかに目元は加虐的に歪められており、攻撃用員だと言うのは明らかだった。


「ロリには興味わかねぇんだがな…?ハハハ〜…!」

『「アラ、失礼ネ」』

「イマ!口は災いの元だ、予め伝えてた筈だ。」

『「ア…」』

『シャキン!!』

「おっ…と!」

「イマ…!攻めるのは良いが、隙を晒す様な勝手は止めろ。相手は…見た目に反して油断ならない…!」


 適当に煽り文句を垂れたが、まさか召喚モンスターが反論してくるとは…まぁ『召喚モンスター』など言ってるが、あくまで召喚されているのは妖精…普通に喋るかと一人納得しつつ、この逆境へ対策を考える。

 —マーデンはこの逆境への道筋を掻き分けて探す、表情1つ変えずに。そして攻めくる双剣の使い手『稚拙楚楚の軽騎士イマチュアグレイスフル』のイマの猛攻を耐える。


(…何か考えてやがるな…。待ってやらんが…!)

「ブレイズ、センター!クワイエット、イマ『攻の1』!」

「考える暇もくれねぇってか!早漏チャンめ!!」


 何とかこの逆境を…と頭の中で戦略を組み立てるマーデン、しかし何かおかしいと勘付いたリップがそれを待つ理由などなく、思考のリソースを技に割かせる事にした。

 —イマとクワイエットはそれぞれの武器の切先にエネルギーを集め、ブレイズの剣に集中させる。だがこのエネルギーは妖精種の中でも、威力の代わりに秘匿性の高い攻撃方法だ。これを察知出来るのは妖精と繋がりのある者だけ…そして『攻の1』は無難に強い一手、これで——決める。


「『ああ、君を想う、熱く燃える太陽すら焦がし、陽光が消える、そして浮かぶ満点の陽の子、陽の子は涙の様に空を伝う』」


 周囲の空気を吸い込む様にエネルギーが剣の切先に集中していく…あまりの一点集中に、エネルギーの集まる剣の先を除き、夜空の様に薄暗くなった。その美しさは正しく自然の夜景、そして輝く剣の先は一点の——流れ星。


「『空涙閃ティア・オブ・マイ・ビラヴド』!!」



『ダダダダダ!!』


 放たれたのは極線の光線による一撃。その速度はまさに、気が付いたら頭上を流れ…消える流れ星の様に。

 光線と言いつつ、余裕で光の速度を


「がぁあああああ!!」

『バシンッ!!』」

 マーデンが真下に弾かなければ。


「はぁ!?!?」


 ——弾かれたエネルギーは、綺麗なほど直角90度に折れ曲がった光線が、地面に深く突き刺さり、大きな地響きとなり霧散するのを感じ取る。これを感じ取れるのは妖精と密接な俺くらいだろう、だからこそ心底嫌になる。


『はぁ!?!?』


 —観客席からも驚愕の声が上がる、それもそうだ…こんなのあり得ないだろう。単発系のエネルギー攻撃ならば分かる…しかし、持続的にエネルギーを消費して放つ光線系の攻撃を弾いたとて、一時的に弾かれてすぐに元の軌道に戻るはずだ。

 分かりやすく例えるならば、水道の水を指で弾いたからといって、下に流れる水がずっと真横に流れる事はないのと同じだ。そして何故出来たのかを、マーデンの手元を見て察した。


(こ、こいつ!!『鎧を導線としてエネルギーを流し…逆手に握った剣へ伝わせたというのか…っ!?』)


 しかし、それでもあり得ない『魔力』…『電力』ですらない、妖精のエネルギーだ。上述二つとは隔絶した性質エネルギーを何故ただの鉄製武装で受け流せたのだ?…そしてそう思考を巡らせていると、一つの可能性に気付く。


(『電力』を浴び続けた鉄器は『変質』し…『磁力』を帯びる『磁化じか』と言う現象があると言う…。)

(それは『魔力』でも起こりうる、『魔力』の濃厚な場所に長く晒された装備類が『変質』して『魔力』を帯びる『魔化まか』…)


 この現象を『で行ったのでは』…と。


「……」

『ぷすっ…ぷす…』


 所々炭化し、筋肉が露出しながらも未だ立つマーデンを恐れながら見詰めるリップ。しかし、恐れつつも一つ仮説を立てた。


「…まさか、ブレイズ達の攻撃を持続的に食らい、武装に微弱なエネルギーが付着した事で…」

「——俺の攻撃を伝導した…?」

『グラァァ…』

「……」

「…確かに鉄って言うのは魔力とかを帯びやすい性質だが…ま、まさか妖精のエネルギーまで…」


 自身の仮説に戦慄しながらも、これ以外考えられないと口角が痙攣するのを感じた。既に勝敗は決したも同然の現状…流石に追い打ちを掛けるのは気が引け…一応と、距離を取りブレイズ達に囲ませる。すると、マーデンは不動の体勢から膝を曲げて前のめりに倒れそうになる。


「っと、クワイエット。」

『コクッ』

「なるべく優しく支えろ、尊敬すべき方だ。」


 ここまで熱戦を繰り広げた相手…重症者を地面に倒させる訳にはいかず、召喚していたクワイエットに支えさせる。実は地味に妖精は無菌…かなりマニアックな知識だが…俺が触ると露出した筋肉から感染でもしたら居た堪れない。

 ——しかし、俺は気付かなかった。


『ふらっ…』

「本当にギリギリ生きて——」


 未だ勝利を告げるアナウンスが聞こえてこない事に。


『——ズンッッッッ!!』

「——る」

「る"ぅ"ぅ"ゔあ"あ"あ"あ!!!!」


 倒れ掛けていたマーデンが、勢いよく大股で足を踏み込み、試合場の床を粉微塵にする勢いで飛び出してきた。俺は咄嗟に両腕で急所を防ぎ、ブレイズへ指示を飛ばそうと叫ぶ。


「ブレイ…!!」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

『ブオッ!!』


 しかし遅い、間に合わないと思った。

 それよりも早く眼前に迫ったマーデンが剣を振り上げる姿を見てしまったからだ。その声はガラガラで肺に穴が空いてるのではと思う様な恐ろしい音を上げていた。あまりの驚愕に、俺は瞼を閉じて衝撃に備えた——しかし、いくら経っても何も起こらず、俺は恐る恐る瞼を開けた。


「う…ぅく…—ッ〜〜〜。」

「…」


 ——振り下ろされた剣は、その手には何処にも無かった。だが、よく見るとマーデンが切り掛かる前に立っていた場所にはいくつかの革紐の燃えカスが落ちていた。俺の放った一撃で蒸発したのだろう、鉄器がエネルギーの大半を吸収して消滅した為、辛うじて燃えカスのみ残ったのだと思う。


「——ハァッ!ハァッ!!?」

『勝者!!リップ・ファー・ギャザリオン!!』

『わぁああああ!!』


 湧き上がる歓声とアナウンサーの勝利宣言で俺は胸を押さえて踞った。あまりの恐怖に肺から酸素を全部吐き出すに飽き足らず、肺を限界まで萎めてしまったらしい、顔面から血が失せるのを感じながら懸命に空気を取り込む。


「担架ー!早く!」

「は、はい!!」

「安定域まで治癒してから運ぶ!ガーゼと輸血…追加で150の1瓶持ってこい!」


 試合終了の直後…すぐ目の前でマーデンの治療をしようと医師たちが治療に勤しんでいたが、俺にはその声が殆ど聞こえなかった。それはそうだ。


(もし実戦ならば…あの一振りで俺は殺されていた。)

『じわっ…!』

「自分が…情けない…ッ!!!」


 ——こうして第二ラウンド第一試合マーデン対リップの闘いは、マーデンの気絶で終わった。しかしリップはこの勝利をただルールに救われただけだと思い、深い屈辱と計り知れない自責の念に駆られていた。その顔にはクールな雰囲気を崩して、熱い涙がボロボロと溢れていた。

 しかし、まだこの闘技は中盤戦——、闘え、戦え、高め合え…納得いかずとも、勝ったからには次へ進むしかないのだから。

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