第23話 選択肢
「——。」
「…違…うのか。」
—ドゥは、あたかも当たり前の様に呟いた。そんな呟きに反応を示したのは、唯一聴いていたノーストラダム本人だった。
恐怖——よりも先に来た感情がある。それは…
『ゾッ…』
「おえっ」
『ビチャビチャビチャ!』
「…『ぽりぽり』」
「うぇ…ヒッ…オロロ…」
恐怖、痛み、戦闘意欲、全てを塗り潰す感情…それは『不快感』——。
監視されていた。こんなにも直接手を出さずに生物に対してストレスを与える行動があるものか…。あまりの過剰ストレスに勇者の強靭なメンタルは崩壊し、それは嘔吐と言う形で現された。—しかし、会話の聞こえない観戦者やヴァラックたち選手からは、ただノーストラダムが嘔吐したとしか分からず、困惑が渦巻く。
「(い、今までの私たちパーティの動向を全て見ていた!?も、もしかしてあの時も、あの時もあの時もあの時もあの時も…)」
「監視、してた……?」
「…『ぽりぽり』」
自分の知らない所で、自分を知られる。これ自体は『勇者』たるノーストラダムに取っては日常茶飯事だ。街や国を移動すれば、知らぬ人々に好かれる時もあれば、時に嫌われる事もある。そんな日々…しかしそれは言うなれば『観覧』であり、『監視』とは異なる。
「…『ぽりぽり』」
「——『
『ズゥ——ン!』
「ぐぅッ!!」
「(!。踏み潰し…!なんて純粋な暴力…!『
『グググ…』
「(は、発動しな——いや、魔力妨害っ)」
——次に感じ始めたのは『脅威』と言う感情。人として、勇者として感知した「この男は危険だ」と言う本能に私は逆らわずに従い、即攻に近い攻撃を仕掛ける。だが目線の先に映るのは観客ばかり。勇者としての『感』を頼りにバックターンで振り返るも、相手の長足による踏み潰しが襲い掛かる。その上で仕掛けられていた魔力妨害に四苦八苦するが、妨害系に含まれない近距離転移で避け、転がりながら立て直す。
『ゴロゴロ…スチャッ!』
「…」
「フー…(簡易転移で何とか逃れられた…。今更だけど勇者に力勝ちするし…)」
「…『ぽりぽり』」
「…そろそろキメに掛かるッ…!」
もう見せ物としての闘いは終わった。これ以上は『戦い』としてあの男と闘志をぶつけ合うと決め、キツく握りしめた剣を緩め…緩めて緩め切る。ここまであからさまな脱力をすれば、あの男も気付いたのか、掻く指を止めて「ゆらり」と不気味に立ち向かってくる。
「フー…」
——『即死耐性』『恐怖無効』『身体能力向上3』『
「…?『…ぽり』」
「——借ります、おじさん。(——『
——『
——この場の誰も知り得ない事であるが、ノーストラダムは、ヴァラックの生まれた土地ルアンに住み、つい前に『ササキ』に告った元金等級冒険者…『カセトー』との面識が過去に有る。
—けど、どうせあの男は私を『着けていて』知ってるんでしょうね。それにこの…一度でも親睦を深めた相手の必殺のムーブを、現状の最適な直して放つ離れ技…『
「——(つまり、どの技が来るかまでは知り様がない。)」
「…」
「フッー!『グググ…!』(が、油断はしない。私のことを俯瞰して見ていたのだとしたら、自分では気付けない弱点なんかを知っているかも…だしね!!)」
『シュンッ!』
「…!!」
消えた、何処へ行ったのだろう?——と、言わんばかりに当たりをキョロキョロする様は、もうポップさは無く、ひたすらに不気味であった。と言うか、どうせ『見えてる癖に』そんな安い演技?なんてしないで欲しい。さっきからチラチラ目があってる事が何よりも証拠だ。そもそもが目的が分からない相手だ、殺し厳禁の闘技場で殺しにくるかもしれないからわざわざ『即死耐性』を積み、こうして高速で闘技場を周っている。
「(だから『この技を選んだ』…!)」
「ーーっ(ぽり…)」
来るか!とでも言いた気に相手は顔を一掻きし、大股の中腰に構え、右手の拳を顔の真横に構え、そして左手を顔の目の前に構えて立てた四指を視線のリードとしてピントを私に合わせた。…どうやら迎撃するつもりらしい。と察した私は、この攻撃は間違いなく『力比べになる』と感じ、惜しまない火力を、最適なタイミングで放つ事を決めた。
「ハァーーーーーッ!!」
『ギャラン!!』
「…」
『グググ…!』
剣が空気をズタズタに引き裂く音が耳に「キーン」と射すが構わない。相手も筋肉を膨張させて、金属を無理やり圧縮した様な音を全身からあげている、さっきと同等…いや、二、三回りの威力増は視野に入れて尚の攻撃を——放った。
「『
「———。」
「カセトー」おじさんの大技。『大震剣撃』…武器と自身のポテンシャルを最大限に高め活かすのに最適な技だ。流石にこの攻撃には反応できないのか、相手は未だ微動だにしない。そう視認した瞬間に振られた刀身は最高速度へ達した。
「(アナタには色々聞きたいことがある…!勝って、聴く!だから!)」
「…」
『ギリリ…!!』
「——プラス!『
『ボッ!』
「!」
—おじさんならここまでだった。この時点でも私は「カセトー」おじさんより速く、鋭く、力強い一撃だ。けれどこの相手には『私の鼻がツン…と「危険」だとずっと警戒している』のだ、過剰とも言える一撃に加えて、更に発動後の行動を一回のみ加速させる『基盤加速』の上位版の『基盤加速・2』を発動して切り掛かる。
「…!」
—これが功を奏したのか、相手は今までの謎めいた不気味な雰囲気を崩して驚愕を浮かべていた。そして私の剣が——相手の身体を通った。
『ズチャァンッ!』
「…っ〜」
『シュタっ』『ビュン…シャキン…』
「…よし、切れた。」
…まさか力比べもなく、相手と切り結ぶ事もなく、一方的に攻撃出来た事に若干の驚きを感じたが、人間である以上私も、ヴァラックさんも、相手だって大ダメージなのは間違いないだろうが、内臓や重要な神経は避けたつもりだが…
「…何か、何かおかしい…(何だ?私は間違いなく切った!相手だって実際に切られている…けど…)」
『ボダッ!ボタタッ…!』
「…〜〜。」
「…とりあえず、まだ立っている以上…相手は戦闘不能判定にはならない…(…追、撃…するべき?)」
—悩む。下手に追撃して反撃でもされたら「巻き返される」かも知れない…けど、待ち過ぎて回復されたら次の攻撃は見切られてしまうかも…。
—ノーストラダムは『選択』を迫られていた。『追撃』か『待つ』か…、メリットデメリットが両方とも明確に分かるからこそ選ぶのに時間が要る、が…。
——時間を掛ける…それはつまり『待つ』と言う選択を意識せず選んでいるのだ。
「…(『待つ』…と何か時間を仕掛けている可能性がある、早く攻めた方がいい…けど…うぅ!どうすれば…っ)」
『ドロ…ブシャッ!』
「……」
「『ちらっ』(攻める…べきか!)」
私の思考は漸く『追撃』するべきだと『選択』しようとしていた。剣を顔の横に構え、そのまま90度剣先を相手に向けて、突撃する。
『タタッ!』
「フッ!」
「!〜〜」
『ググッ…!』
「!(動いた!?)」
「…っ『ガクッ!』」
相手も流石にマズイと思ったのか半身を切り、重心を落として構えを取…ろうとするも、傷口から血が噴き出し膝を突いた。ここだ。今こそ攻めるべきだと、若干迷いがちだった足取りを攻撃に転じる『選択』をした。
「『
—刺突特化のスキルによる攻撃だ。元々は斬撃を飛ばす技だが、敢えて飛ばさずに『保持』し続け、エネルギーを分散させずに与える。これなら無難に確実だと判断した。
『つ…ぷ…』
—肌を歪め、切先が肌を裂き刺す感覚。
『ブシッ!』
—肌を貫通し、筋肉に…到達する感覚。
『カリ…』
—筋肉を裂き、骨を剣が切り削る感覚。
「(いけ——「ここだ。」え。」
——剣が腕を貫通した。けど、変わりに『私の胸部に涼しい穴が開いた』。
『プチッ』
「ギァ…ッ!?」
「隙を…見せる隙を見せて良かった。」
「ガブッ!?コポポッ…『ビチャビチャ』ハァッ…ああ…っ…。」
——こ、この人…!い、いやドゥ!『そ、即死しないギリギリの攻撃をしたの』!?マズい!本当に死ぬッ!アナウンサーの女の子も、胸部に腕を貫通された状態で生きている私を見て、どう判断すべきか悩んでいる様だ。外部からの白旗は期待出来ない…流石にここから勝てるビジョンが浮かばない。
「〜〜ッ!ぎ、ギブアっ「『ゴリっ!』」ああぐっ!?」
「——黙れ」ぼそっ
「何を——ごぁ…ッ「うるさい。『ボソボソ』」あぁ…ッ!?」
降参しようとした私の口を「ソッ」と塞ぎ、腕の筋肉を膨張させ肺を筋肉で押し潰された。そしてドゥの放った「黙れ」と言う言葉が私の頭の中で、ドロドロに溶けた『恐怖』と言う液体が胃から口まで反芻した。
—そこで初めて気付いた。コイツは闘いに来たんじゃない。
「やっぱり死に掛けの吐息っていいな…」ぼそ
「——ひっ。」
——私を痛め付け、愉悦に浸る為なんだと。
「3年着けて漸くこの3分を手に入れた。」ボソボソ…
「な…なん…で…」
「何で、わざ…わ、ざ…こん…な、人目に、つ『ブニッ』ギ…ッ〜…!」
「あの時他の連れが居て、一対一で戦えなかったからだ」ぼそ…
ドゥは、本当に最初から私を痛め付ける為に、私を尾行していたのだと再確認して更に恐怖する。けれど尚更分からない。
「あ、アナタ…な、ら!チーム全員を相手にしても勝てるでしょ!何故、今「はぁ」『ブチブチ!』うがぁっ!?」
「…男とガキとブスの悲鳴は——聞いたくせに気絶するなよ。」ボソ…
「あ…が…」
『ドガッ!』『メギィ!』
ドゥは、完全に意識を失ったノーストラダムを数度殴ったが意識は戻らず、酷くつまらなそうにノーストラダムを見詰め、周囲の観客を見て、更に溜め息を吐いて腕を地面に向かって振るった。
『ドチャァッ!!』
「——さっさと次行くか…。」
——『胚警』
「『
「『ヴラック・スクイット』!!」
地面に打ち付けられるノーストラダムを、まるで道の先にあるただの地面の様に自然に踏み付けようとする——が二つの影がドゥの全身に拳を打ち付ける。
—『胚警』の使い手「ファソウラ・シドー」と、『黒隼』「ヴァラック」である。
「…『ぽりぽり』」
「今チラッと聴こえたゾ、アタオカ」
「おいおい。闘技場のルール忘れたか?『1.自己申告か場外、明らかな場合は負け。2.殺したら無条件負け』これだけしかねぇのによ。」
—様子がおかしいと思って飛び出して良かった。シドーの野郎に合わせて『ヴラック・スクイット』——12箇所同時攻撃。『
「…」
「何か言えよ。無駄にデケェノッポの癖して頭ぁ詰まってないのか?えぇゴラ!」
「ワオッ!ヴァラックサーン!もうヤンキーねーソレ!…けど、やり過ぎネ。アナタ。」
無言で空間を見つめるドゥ…私たちは謂れのない気持ち悪さを覚えて、攻めずに牽制に集力するべきだとシドーと視線で交わして、私は
『
「『はぁい、ヴァラックちゃん。回収させて貰うわね。』」
「!助かるぜロエチャメ!」
「いいわよ。スタッフさん、早く治療を。私はそんなに回復得意じゃ無いから、治療室に運ぶまで付き添うけど、期待しないで。」
「助かります!おい!早く運ぶぞ!」
「「はいッ」」
—向こうは、何とかなりそうだ。
「…『…ぽり』」
「シャー!やったるデ!」
「対人戦はそこまで経験がない…。メイン頼む、私はお前をサポートする。」
「ニャオ☆任せてくれヨ!」
さて、どう…するか。不気味な仮面の大男に対して、私たち2人は付かず離れずの距離で構え、始まるであろう戦いに備えた。
——
○上座…『王者室』
「…トラブルの様だな。」
「…」
『ギュム…ぎゅむ』(※独特の足音)『シャラっ』(※カーテンを少し開く音)
「…ふむ」
—魔法のディスプレイで試合を観ながら寛ぐ2人…その内のマントで全身を隠した『王者』が、締め切られたカーテンを開き、試合場を覗き見る。
「…。師よ。話は少し待て。」
「手を貸すのか?私も…」
「いや、貸すのでは無い。運営側だからな、俺が本来当たるべき『業務』なのだ。」
「そう。…ああ、私もついでに窓越しにあの子を見るか…。」
——「行ってくる」と、言葉を残し豪華絢爛な大扉を1人で開き、グリップの効いた靴底を鳴らしながら隠された廊下を駆ける王者…基、弟子の男を横目に、私は先程まで弟子が除いていたカーテンを捲り、眼下に広がる場内に感嘆の息を漏らしつつ、『1人ずつ人々を見る』。そして見つけた。
「あれが妹弟子か…」
—
「—師匠から鍛えられてる…はずだが…随分『ちゃっちぃ』な…」
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