第18話 バスト×ダンス=バトル(上)
『さあさ、ここまではただの前座に悪しからず!』
『ここまで、選手の皆様の『一端』は垣間見えた事でしょう!』
「試合開始まで長ぇよ…」
『これよりもうまもなく『掛け金』受け付けの締め切りです!その後、そのレートを元に、対戦者を組みますので、アイヤー暫く!』
「アナウンサーちゃん口調どうした?」
長きに渡る『御前パフォーマンス』とも言うべき自己PR、何の意味があるのか?と疑問だったが、今に思い返せば、これはあくまでも『賭場』…『レート』に合わせた試合を組む為に必要なモノなのかと納得しつつ、蛇足では?と思わずにいられない。
—実際、こんな試合開始まで長いのは、観覧者が飽きてしまうと思うのだが…必要なモノだとは分かっているが、うーむ。
「あら、そんな眉間に皺を寄せなかったって、貴女、シードなのだから、試合はまだまだよ?」
「ああ?私はするのも好きだが見るのも好きなんだよ」
「あらあらあら、それはそれは…」
…だが、これはあくまでも『賭け事』…。闘技場はそもそも法律的に『ギリギリアウト』なモノなのだ。こんな無駄に長いパフォーマンスも、賭場としての体裁を保つ為には必要だ。…私は要らんと思うがな。などと素朴な疑問を頭に浮かべていたら、スタッフらしき男が、選手たちの観戦室に現れ、案内を始めた。
「第一試合は『ファソウラ・シドー』選手VS『ロエチャメ・タイポグラセシア』選手の闘いです、お二人は、正面門を通って、それぞれ南と北のスタート位置へ…」
「あらぁ…私が1戦目みたい、行ってくるわね」
「ふん、ほどほどに楽しめ…。ってか私とお前、出会って10分足らずだよな?」
「ほどほどに…ね。そういう事だから、ファソアラくん。ほどほどによろしくね」
「こちらこそ☆シューセー!」
あまりの距離感の近さに、まるで長い友人の様に接してしまったが、この距離の詰め方もアイツ…ロエチャメの元来の持ち技なのだろうと、1人納得しつつ、ロエチャメの相手…あの軽やかなダンスを披露した男を流し目で見つつ、2人が横並びになって、場内へ上がっていくのを眺めた。同時に、入場と共に再び響き渡るアナウンサーの選手紹介に耳を傾けた。
『さぁ!南に立つはこの男!万来8000の年月を掛けて練り上げた、この世で最も難しい格闘技の一つ…『
「本気を試させてもらうぜ♪アイヨーっ!」
『対する北の巨にゅ…ああいや巨峰はこの女!6000年生きた現エルフ『ナイト族長老』に師事を仰ぎ、唯一免許皆伝となった天才レディ…。ロエチャメーッ…タイポグラセシアァァア〜!!』
「巨乳って…100のFくらいなのだけど…」
—私はその言葉を聴いて「F100か…」とおうむ返ししてしまい、隣に居たシードの男が思いっきり水を鼻から吹いていたが、少々申し訳なく思いながらも、サイズ自体はそんなに変わらないのかと、更に呟くと、たまたま近くに腰掛けた素朴な顔の剣士が椅子からズリ落ちた。…そ、そんな腕をプルプルさせながら、椅子に体勢戻さなくても…。
「だ、大丈夫か?あ、ああ始まるぞ?」
「大…丈夫だ。(100…!?あの子の身長が170弱くらいで…バスト100…100…)」
「(コイツ…胸の大きさにやられて、何処か空の上だな…)」
明らかに強者の佇まいだった、この男が、ここまで腑抜けてしまうとは…恐ろしき、ロエチャメバストパワー…。
『それでは、『
—などと、下らない事を考えていたが、遂にスタートのアナウンスが、闘技場内に響き渡る。2人が『ザッ』と分かりやすく戦闘体勢に入ると、私含めた参加者が、その所作一つ一つをじっくりと観察していた。
——
「(何に置いても、まず身の安全。)『狙われる命、けれどその矢は届かない…『
「む(先ず回避性能を上げてから、他のバフを盛るつもりだな)」
——
「…(ふむ、魔法使いの嬢ちゃんは、速攻警戒で初手から回避魔法たぁ…。あの年じゃぁ中々選べんけん、手堅いのぅ…。)」
白髪の老人は、短い髪の毛をわしゃわしゃと、鳴らしながら頭を掻き。思慮を深めた。
「まぁ、そうだよな(シドーの奴は、無詠唱を警戒してるな…巫山戯た雰囲気だけど、やっぱり目敏いな…。)」
素朴で影の薄い剣士の男は、何一つ以外ではないと言わんばかりに、腕を組んで、自分の中で評論していた。
「あ!ヴァラックさん!ロエチャメって人から攻めましたよ!(魔法使いが詰めるなんて…トリッキーな事をするな…)」
無邪気に憧れの人に詰め寄る赤いマントの女の子も、明るい雰囲気とは裏腹に、自分ならどう対処するかなどを考察しているのだ。
——
「ふん!」
『タンッ!』
「!(速い…)『
僅かな膠着のち動いたのはシドーは、たんっ!と軽快な音を立てて、低めの長距離飛翔を行い、急速にロエチャメへ近づいた。詠唱略の魔法『
「凄いネ!ならこれはっー!」
「ふっ…!」
「オハ♪お腹で防ぐとはね!それも何かの能力カナ?」
放たれた正拳を、腹部で受け止めたロエチャメであったが、シドーの褒め言葉とか逆に、あまり余裕が無さそうであったが、即座に拳を払い、逆襲と言わんばかりに、今度はロエチャメが、シドーの腹部に魔法を放った。
「『
『ごりゅぅッ!』
「ブゥぐ…!ワオ!?こ、これは痛い…ネ!」
「ん…ッ。私もですが、貴方も、そこまで余裕がある訳じゃなさそう…!」『齧歯の力』——解放。
「ハォム…?」
放たれた魔法の剣を、固めた腹筋で何とか耐え、まるでダンスをする様に放つ連撃にロエチャメは、肉体能力だけで何とか防ぎつつ、気を満ちたと心の中で唱え、『蓄積』していた能力を発動する。
「『
「ホァっ!?——ぐぶっ…!(ち、蓄積タイプか…!)」
「よ、漸く隙を作ってくれた、わ!」
「『荒れる海域、狂える人魚、冷やかな鉄の檻、辺りに人の影はない…。』『
「な…!」
大きく怯んだシドーは、巫山戯た雰囲気を崩して、上体を逸らして痛みに顔を歪める、しかし、シドーに『止めとなるほどの威力はなく』、これはブラフだと思い、急いで晒した隙を埋めようと、攻撃に転じようとするが…ロエチャメの放った『本命』を正面から喰らい、シドーは大きく後退させられる。
「ぐぉぉおお!?(ノ、ノックバック特化だと!?)」
「気付いた頃にはもう遅い、わ。(—ま、マズイわ…)」
「ぬ、ぅおおお!!」
「盛り返される…ッ!!」
——
「…うむ、流れを持ってくつもりだったろうが…焦ったな?(…やはり、ここにいる奴らは全員強ぇじゃあねぇか…)しかし、どうも…ククク…滾る漲る…」
指名権を得た異例の女は、試合も当然として、周囲にいる自分と同じ出場者たちから感じる、『闘志』に身を昂らせていたが…
「…『ポリポリ』」
——それと、そもそも見てすら居らず、覆われたフルフェイスマスクの隙間から、肌を掻く男が若干1名。
『おーっと!ロエチャメ選手の放った水魔法により、押し出されそうになるファソウラ選手…しかーし!な、な、なんと!土俵際ギリギリで耐えるーーーっ!!観客席も、大盛り上がりだぁーーっ!!』
オオオオオオオ!!
コロシアムに響く歓声に負けじと声を張り上げるアナウンサー…しかし、それを更に上回る歓声に包まれながらも、一生懸命状況解説するアナウンサーには…中々どうして好感を覚える。しかし、そんな中「ぼそっ」と呟いた独り言に、幸薄の剣士がその独り言に否を返す。
「…ふむ、勝ち目はほぼないな。」
「あはは…いやいやヴァラックさん、シドーさんだって、まだまだここから盛り返しますよ!」
「だろうな。」
「え?」
「勝ち目はほぼないだろう、ロエチャメの」
—その呟きと同時に、ロエチャメの放った魔法による水弾が、一回り大きくなったと思ったら、その水弾を裂いて、1人の男が疾走した——言うまでもなく、ファソアラ・シドーである。
「ォヤ、流石魔法使いサンネ!俺ビックリしちゃったヨ!」——『胚警』
「!?(まずっ)」
「アイヤー、喰らうで…『
『ドォンッ!!』
轟音、正しく轟音——。まるで滝壺に大瓶を落とした様な音が、放たれたロエチャメから響き渡る…。
「…ん?」
『シュバッバッ…タ…。』
——しかし、放ったシドーの顔色は芳しくない、むしろ「何だこれ?」と言わんばかりの表情を浮かべ、サッ…と数歩バックステップで下がり、残心の型を取りつつ再び、軽快なステップと共に、構え直した。放った大技…【胚警『剛猿僂』】により巻き上がった砂埃が鎮まる様に、ただ静かに構えを維持した。——ここで下手に砂埃を拳圧ででも払おうモノなら「手痛い反撃を喰らうだろう」と、判断する所を考えるに、やはりかなりの使い手なのだと再確認する。
「ホゥム…(『気』…ああいや、『魔力』は感じられないナ。しかし、あの感触は…)」
歓声と落胆の声が響く観覧席…恐らく落胆の声は、ロエチャメに賭けていた人達のモノだろう。そして歓声は、シドーに賭けていた方と、純粋に戦いを楽しんでいるものの声だろう。だが当の本人は、未だジッ…と砂埃を睨んでいる——その時であった。
『ボッ!!!』
「ハォ!やっぱり来たネ!」
『ひゅーー…ッッ!!』
—シドーの視線に沿う様に見つめた先から、一気に砂埃が伸びてきたのだ、徐々に霧散する砂埃の中から突っ切ってきたのは1人の女…ロエチャメであった。
まるで意趣返しの様な現れ方に、今までのチャラチャラした雰囲気は何処へやら、いきなり獰猛な笑みを浮かべ、シドーは、『タンッ!』と地面を蹴り、超低空飛翔をし、ロエチャメと正面衝突した。
『ギチチチチッ…!』
「あら…まだ同程度のパワーなのかしら…ここまで消耗させたのに…」
『がッ!』
「!ハォ☆まさかと思ったら、そう言う事ネ!(こ、こいつ…パワーが上がっている…し、信じられない膂力ネッ!?)」
シドーは何かに気付いた様に、より一層笑みを深めて拳を放つ…だが、ロエチャメはその拳に、付かず離れずの威力を出して、対抗していた。そんなロエチャメに焦ったのか、シドーは『胚警』の技を再び繰り出すのであった。
「初めて見る技ならどう…かナ!」
——【胚警】
「試して見れば、どう?」
——【胚警】
「「『
再び『同じ威力』の正拳の正面衝突に、ショックウェーブが起こり、飛来した空圧が私の直ぐ真横を通って、選手観覧席の通路側の壁を破壊した。
『ひょいっ…』
「む…危ないな」
『キンッ!』
「っと、全くだなぁ…ったく、あいつらぁ…しょんべん(※方言、漏らす事)しやがって」
…一般の観覧席とは違って、低めに建てられている為か、かなりの被弾が席に飛んだが、幸いここには狙われた訳でもない飛来物に当たる様な人物は存在しなかった。白の短髪の爺さんは、観覧席に飾られていた適当な剣を、指で弾いて抜刀し、空圧を二股に咲き、逸らしていた。
——逸らした空圧は当然、飛んでいくのだが…
『バシッ!!』
「とぉ…お爺ちゃん危ない!」
「良く素手で行ったなお前」
「!へへ…鍛えてるで、これくらい朝飯前ですよ!」
いくら距離減衰を考えたって、多少なりとも痛いだろうに、相も変わらずパワフルな青髪の女の子は、空圧を叩いた手を後ろで隠しながらパタパタと振り、私に強がって見せた。
—ジンジンして痛そうな手がチラチラと、細い腰の後ろから見え隠れしていたが…。と、そう言えば、『二股に分かれた衝撃波』の
『ぷしゅ〜…』
「… 」『ぽりぽり』
…あの不思議な大男の仮面に直撃したが、対して痛がる様子もなく、こちらも相変わらず『ぽりぽり』と、剃られた頭頂部を人差し指で掻いていた。あの程度とは言え、良く直撃して不動だなと不思議に思っていると、一瞬違和感を感じた———。
「——(コイツ)」
「(——今、赤マントのこいつの事、
——いまだそこ知れぬ、この選手に、一抹の怖さを覚えつつも、私は無意識的に赤いマントの女の子の肩に腕を回して、牽制を掛ける。
「ほぁあ!?ヴァ…ヴァラックしゃん…!」
「ああ、気にするな…(コイツは…コイツは嫌な予感がする…。)」
まだ見ぬ強者への切望と、未知への恐怖の狭間で、私はこのコロシアムを優勝出来るのだろうか…そんな思考と共に、謂れのない怖さを払拭するために、試合はのめり込む。
—
「…」『ぽりぽり』
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