第14話 出場
訓練も終わり、草原で汗を流しながら息を切らすヴァラックたちは、気持ちよさそうに風に体をくすぐられていた。
「ふぅ〜…、いやぁ運動は素晴らしいな」
「ゔぇぇッ…!『過剰』ですよ!」
文句を垂れるイマチュイアは慟哭するようにそう言った、けどこんなんでくたばってるようじゃあ…まだまだ『二流』だぜぃ?
垂らすのは汗と涙と、クソだけってな…!
…つまんねぇな、1人で何考えてるんだか…。
「さぁて、何食べようか…当然、今日も奢るぜ?」
「話を!話を聞いて下さいッッーー!!」
くくく、可愛いやつめ…。
—これも一つの「未知」であるなと思いながら、笑みをマスクの下に溢しながら、キラキラ汗を流した。
—
○闘技大会 当日
そして迎えた『
「はぁ…ッ!はぁ…ッ!」
「待て待て待て、お前が出るわけでもないのにそんな緊張するな、過呼吸なってるから…」
未だコロシアムに訪れておらず、全然道中ではあるのだが…流石にアハートたちは緊張している、いくら自身が参加しないとはいえ、憧れの人が参加するのだ、緊張するのも無理はない…。
しかし、デルタはあまり緊張していない様子だ。
「…ほう、お前は緊張してくれないのか?」
「…揶揄わんといて下さい…、緊張は…してますが、貴女ならまぁ大丈夫でしょう?」
「私なら余裕と?」
「勝てるかどうかは、結局『
「これはこれは…」
ククク…なんと素晴らしい返しなんだ…、相変わらずこの女は私の欲しい言葉をくれる…、ったく異性ならキスの一つでも落としてやりたいネ…。
—
まぁキスした所で、マスクに口先付くだけなんだがな。
—
「あー…やばいな、完璧に大会の熱に『アガってる』…」
手のひらで額をペチペチと叩いて、『熱』を追い出す様に髪を手櫛で梳かしながら闘技国の中心へ向かう…が、やはりというか何と言うか…
「混ん…でるよな?」
「え、ええ?」
—何故か疑問符で答えるヴァラックさんに、ウチらはようやく気付いた。
ヴァラックさんは山間部よりずーーっと奥にあるルアンの街から来たんだと、ルアンは特に観光名所でもないので人は住民しか居ない…まぁ強いて言えば、少し豪華で大きな塔があるくらいか?
まぁヴァラックさん曰く、わざわざ観に行くような立派なモノではねぇ…と。
——つまりヴァラックさんは、人がこんなに集まっている感覚に馴れていない。この疑問符は…
「…世間知らずって思われたくないからか」
「おま…マジでやめろや…」
——若干俯く顔と『はらり』と解けて垂れる前髪に、デルタたちが少しキュンとしたのは内緒である。
—
○コロシアム門前
「…いや、闘技国に入国する前から見えてたが…」
——王城よりでかくねぇか…?
かく言うも、少し前に観光名所巡りみたいなヤツで、デルタたちに教えて貰って、一度見に行った。
いやぁ…、あんまり建築物に興味ないけど、素晴らしかったな…闘技って言うだけあって、無骨でいて一目で王城と分かるあの石レンガの城は流石に目を張った。
だが、チラチラと視界の端に映るのだ、バカデケェ建築物が———。
「こりゃあ…何と言うか…情報量の多い建物だな…」
なん…だろう、なんだろう…、強いて言うなら滅茶苦茶豪華な金細工みたいな…?
とにかく凄いコロシアムだ、歴史を感じるというのは、こう言う時に使うのであろう。
ヴァラックは目に刺さる太陽に目を細めながら、コロシアムの外壁を存分に見渡した、ルアンの街もかなり綺麗な建物は多いが、気候上の問題でこんな高い建物を作れないのだ、それも含めてヴァラックは目を見開き、建造物を瞳に収めた。
「ふぅむ…コレを眺めるだけで一日使ってもいいな…」
「「「参加はしましょう!?」」」
「いやするよ、するよ…、見るのは大会後にだな」
いや本当だって…戦うの楽しみだし…ああ、ああ、そんな目で見るなって、あいあい…分かったって…
ただ言っただけなのにここまで反応されちゃあ、冗談も言えたもんじゃないよなぁ…
○受付
一悶着…とも言えない一悶着はあったが、ヴァラックたちは『
「ここ…か」
「お客様、こちら大会受付となっております、参加券のご提示をお願いいたしております。」
「はいはい…ええと…はいコレね、お願いするよ」
「承りました」と丁寧な声で対応してくれる受付のお兄さんは、男性特有の綺麗な声で私に話しかける。
「ほう!これはこれは…、まさか『指名権』でしたか、エントリーでよろしいですね?』」
「おう、エントリー…(ん…)?」
「『どうかなされましたか?』」
綺麗な…声が…あ?
——その時、ようやくヴァラックは気付いた。自身が『試されている』ということに、そして少しボヤける視界の中でようやく…ようやく、自覚したのだ。
「『『お客様』?体調が優れないのでしょうか?』」
ふにゃぁ…
「あう…ぐ…ッ…」
——途轍もなく、『慢心』していた事に。
意識を急激に高めて、ヴァラックは即座に自身の顔面に巨大なパワーを秘めた『張り手』を繰り出した。
「「ふにゃ…あ? えっ!?ヴァラックさん!?」」
自身の顔面に放たれた張り手の音で、巻き込まれて意識が微睡んでしまったアハートとイマチュイアは、目を覚ました。
——そんな様子を流し目で把握するヴァラックは…、その2人とは別の『2人』を見た。
「ど、どうしました…?」
「あああ…アハートちゃん、系、系出てるよ…」
「…いや、何でもないさ。」
——情けねぇな私…、憧れて『くれている』2人は「一切効いてねぇ」のに、私がモロに喰らってどうするよ…!
あんなにあのドラゴンと殺し合って、ようやく消えたと思ったのによ…『油断』と『慢心』…!
「ったく…怠惰だなこりゃ…」
「…」
自身の情けなさに苦笑をもらしながら、額をトントンと強く小突き自身を諌める…、師匠もこの情けなさには唾吐くだろうぜ…?ヴァラック…。
——目の前の巨女の瞳がギラリと光るのを見て、私は再び質問を投げ掛けた。
それが私の仕事であるから——。
それは、弱者の選別——この女性は弱者に値するのだろうか?判断するために…再び問う。
「『アナタは、この大会に出場致しますが?致しませんか?』」
ギラリ…
「出場する——…」
——どうやら、彼女は弱者ではない様だ。
そう確認した受け付けの『
—
○コロシアム控室
「1.2!」
「…っ」
「1.2.1.2ー!」
「ふっー…」
アップ…と言っても、それは私たちがしているお手伝いはただ「『1.2』と数字を言うだけ」…。
—ヴァラックさんはその数字に合わせて、攻撃を空中に繰り出す、ただ…。
「12121212」
「わん!つーー!わんつーわんつー!」
「1.2.1.2.1.2.1.2」
「1212121212ー!」
「ふーーー…ッ」
——4人同時に言っているのだ、しかも完全ランダム。
ヴァラックさんを囲っているアタイらの隙間を縫う様に繰り出される拳や蹴りの風圧を肌身に感じながら言葉を続ける。
デルタの姉さんは平坦に、アハートは無邪気に、ホリーナは変則的に、私は息切れしながらもなるべく高速で言い続けた。
「1…21212.121.2.1.21」
「よし、ホリーナ…いい、緩急だ」
いいんだけど、いいんだけどさ…、なんか…凄い気持ち悪いリズムなのなんなんだ…?
どうして裏拍に裏拍を重ねたんだ?まるで木が軋む様な気持ちの悪いリズムなんだが…いやいいんだぜホリーナ?でも、その…どうしたらそんな気持ち悪いリズムが生まれる…?
「わんつーわんつー!わん!つーーー!!」
「大きな声で元気いっぱいだなアハートよ」
アハート…元気なのはいいが、言葉を長く言っても放てる攻撃は1回なんだ、流石に言葉の秒数まで残心してたら間に合わんよ…?
ああでも、四腕をぎゅうって力を込めて頑張ってくれて嬉しいぞ。
「121212121212」
「うむ、やはり平坦ながらもこう言うのは必要だぜ、デルタ」
コイツは本当…言うことないな…速くもなく遅くもなく、平坦。
まぁベースになるから、こういうのも必要なのは確かだが…。
「1212121212ーー!すっーー…121212121212!!」
「随分早口じゃないか!いいランダムペースだ!」
イマチュイアは何だかんだ1番こう言うのに付き合いが良くていいな…、やはりランダム性とスピードがあったほうが、インパクトの瞬間を瞬時に予測する訓練「を」するのに最適だ。
10人10色ならぬ、4種4色…、今に考えれば、水牛獣人のデルタは、話し言葉を変調するのに向いた「口内」じゃないのか。
ホリーナは流石に只人だからか、上手いな。
—
「よし、終わりにする、後は新装備を『着付け』て休憩するか」
「「「「!!!!」」」」
「新衣装」その言葉にデルタ含む3人娘は目をキュルンと変えて、ワクワクし出した。
無理もない、忘れがちだと思うが…このデルタと3人組は、ヴァラックの熱心なファンだ、新衣装など興奮しない理由があるはずがないだろう。
…なんて視線を感じて振り返れば、デルタまで何処かソワソワしてやがる…そんなにこの巨女のコロシアム用の装備が気になるのか…?
「…初披露は、コロシアム内でするか?」
「「「「はい!!」」」」
…じゃあ着付けは1人で頑張るか…。
—ヴァラックは持って来ていた魔法のバッグを開いて、装備を取り出した。
もちろん、楽しみにしている4人には見えないように、すでに退出を促したあとだ。
—バッグを漁って、出てきた「フード」を掴みながら、羽織った。
—
○コロシアム入場
「ヴァラック様、登場のご準備を」
——静寂だった控室、しかし恐らく開会したのだろう、酷く煩い喧騒に包まれながら私は、誘導に来たスタッフに連れられ「階段を登る」。
「ふむ…なぜ階段?それにかなり高いな」
「ふふふ…それはアナウンスが掛かればすぐに分かりますよ、その場に合わせてポーズを決めて下さい。」
「おう うぉ!?ポーズ?」
「はい」と情緒なく言い放ったスタッフさんを横目に、手で支持された出口へ向かう、と言うかかなり高く登った…15〜20…?いや恐らくもっとだろう。
いままで外光の入らなかった階段を抜けると、白い太陽の光と、一段と煩い喧騒が耳をツン刺す。
—
——そして聴こえてくるアナウンスと、後ろで指示された言葉に驚いた。
—
「飛んで下さい!!」
『『塔』の上をご覧下さい!参加者の方々のご登場です———!!!』
…これを飛べと。
明らかに4〜50mある高さから観客席を「見下ろす」、そう言えば忘れていたがあくまでも『闘いを愉しむ娯楽』だと言っていたな…。
そりゃあ登場にも…
『———続きまして!第8塔『オリオン』!ここに居る者ならば、その名は知らぬ者は居ないだろう!』
『破壊、殺戮、まさに無双!最強寒波も「冷や汗を掻く」!最強の女!』
—
「エンタメは必要…か…」
『至高!『黒隼』ーーー…ヴァラーーーーーー…ック!!』
——私はその合図と共に、盛大に塔から隕石の様に飛び込んだ。
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