第12話 危険な訓練(上)


「ヴァラックさん、行き…ます!」


 ——早朝の草原、ヴァラックとデルタたちが初めてあった街道にて、デルタは一本の棍棒を大きく振りかぶっていた。

 服装は先日の「都の暗殺者」にしか見えないコートやハットを脱いだ、いつもの服装になっていた、暑そうな毛皮もアクセサリーの効果でへっちゃらそうだ。

 デルタの視線の先には、一つの巨岩…ああいや巨女が、その場に鎮座している…言わずもがなヴァラックだ。


「ああ来い、まるで長距離恋愛の男女が奇跡の出会いを遂げた時に、飛び込んで抱き付くが如く〜…勢いよくな!」

「ヴァラックさんハイになってません?」


 —なってないさ、だがいくら訓練といえど…お前と戦えることに…


「興奮しないわけがないだろう?」


「だからってまず、ヴァラックさんをボコボコにする必要があるんですか!?!?」


 アハートはヴァラックを挟んだ反対側で、4本の腕にそれぞれ木刀を持って、デルタと同じく鎮座するヴァラックに武器を向けていた。


 …だが、その表情は決してよくない…それは…


 ——憧れの人を囲って獲物持って…更には無抵抗にしてやるから半殺しにしろって!?



 …この出来事の数時間前の出来事であった——。


○涼風機付き飲食店


「ああ〜…素晴らしい…」


 私は以前訪れた魔法道具の冷風機がある飲食店で、椅子の背もたれに体を預けて、天井に設置されている魔法道具からの風を享受する。

 ——いくら冷感のアクセサリー付けてたとて…やはりこの涼しさは心躍る…そういや貴族の家にはこの風を冷やして送る魔法道具が設置されているとか…羨ましい限りだ。


「3日連続奢ってもらってすいません…」

「気にすんなデルタよ、毎回夜遅くにコイツらを家に送ってくれてるお礼…だ、お前らも連れ回して悪いな、お詫びとお礼だから気にせず食えよ」

「はい!ご馳走様ですー!!」

「ちょアハート!少しは遠慮しなよ!それに食べ過ぎて太っても知らないわよ!?」


 ヴァラックは相変わらず無邪気なアハートとしっかり者のイマチュイア、それを優しく笑うホリーナに俯瞰して見つめるデルタ…、ヴァラックは言い難い可愛さに襲われていた。


 —ああ可愛いな、本当に妹が居たらこんな感じなのか…な、親心というか…何というか。


「?ヴァラックさん、どうしました?」

「うん?何でもないぞホリーナよ、ああ…ホリーナも一緒に選びな」

「?、はい…!じゃ、じゃあ豚の唐揚げを…っ!」

「もちろんいいさ……えっ豚の唐揚げ?珍し」


 聞いた事ないけどな豚の唐揚げ…、というかルアンの街はもっぱら猪肉だったからなぁ…豚肉って言ったらベーコンとか……


「…私もそれ頼むわ」


 まぁ何だかんだ理由を捏ねようとも、1番楽しんでいるのは私なんだがな…、あ、このワインは知らん銘柄だ…とりあえず2本ずつ貰おう…。


——


 食事を楽しむデルタたちは、相変わらず酒を浴びるように飲むヴァラックに苦笑しながらも、ナイフを進めた…しかし、やはり気になってしまうのは、先日言っていた『コロシアム』の事ばかりだ。


「すー…、樽臭いな…、スモーキーな香り……良い酒だ。」

「あ、あのヴァラックさん!」

「おお、どうしたイマチュイアよ」


 —あ、相変わらずジョッキは離さないんですね…、まぁいいですけども…


「今日は、その…コロシアムの事ですか?」

「正解、ちょっとお前らに私の…『強化訓練』に付き合って貰おうとな」


——


「「「「強化訓練???」」」」

「そうそう、それ用の『道具』を持って来たからよ、向こうで渡す」

「足元にあるそれが…ですか?」


 そういうとヴァラックさんは椅子の下にある荷物を踵で軽く足蹴にしてアピールした、恐らく椅子の下にある荷物…それに道具とやらが入っているのかな?


「私ら姉御ほど強くありませんよ…?」

「問題ないぞアハート」


 何故ワザワザ道具なんて使うんだ…?それに姉御となら分かるが、私らじゃあお役になんてとてもとても…無理じゃないかなぁ…


「今はとりあえず食え!運動するんだ、エネルギー作れい」

「"ハフハフっ"ウマッ…」ぺろっ

「ホリーナ、脂で口が輝いて…


鎧に脂がッ!!」


 豚の唐揚げは……おっと脂が溢れる溢れる…やはり脂身は捨てちゃダメね、赤身だけよりアタイは断然脂身が好き、ヴァラックさんは…姉貴に酌してる!?姉貴別にお酒強くないのに…ああ!飲んだ!


「おいおいデルタ…別に私に合わせなくていいんだぞ?」

「い、いえ…注がれた杯くらい開けられなくてどうしますか…!」

「まぁいいが…」グビビ…!


 ふぅ…ふぅ…、ひ、昼からこの人は飛ばしますねホント……まだ日が真上に昇っていない時間に、こんな飲んだ事なくて…うっ…ゲップでそ……危なかった…


「げふーー」

「出てる出てる…」


 …無理せず飲んでくれ。


○街道傍の草原へ…


 ヴァラックに連れられて来たのは…初めて会った街道から少し外れた草原だった、4人はこんな所で修行するのか?と疑問に思いつつも、ヴァラックに着いてきた。


「こ、ここでするんですか?」

「おう、何せ今から…『コイツ』を…」


ゴドッ…

 ——あまりにも重そうで、それでいて空気を含んだ軽い音が僅かになる…木製のバットであった。


「えっ」


 木の短刀に手斧に…メイスに…それはグラディウス!?

 えっちょっ…何処からそんなに武器が!?あれはモーニングスターまで…、というか…

「…まるでこの武器は…」

「「「私達の!」」」

「その通りだ、お前ら」


 そう、ヴァラックが用意したこれら全て木製の武器、その中にはアハートのファルシオンにホリーナのグラディウスなどがあった。


 —まぁ流石に青龍刀は耐久性的になかったが…、アレは切れ味があってこその剣だからな、木製だと薄い木の壁よりも脆い、文字通りの木偶の棒になっちまう。

 そんな事を思いながら、軽く木剣を指で回すヴァラックは、まるでペンでも回すかの如く華麗な指捌きを魅せ…

 デルタに投げ飛ばした。


「っと危ない…ですよ」

「ああ、すまんすまん」

 ——ククク…!やっぱり軽々止めるか、やはりコイツは……、まぁ今はいい…訓練を始めるとするか。


 アハートたちには普通に手渡して武器を配る、イマチュイアは何を使うか分からなかったから取り敢えず、無難な両手剣タイプの木剣を手渡す。


「さて、武器は行き渡ったな?」

「はい!」

「はい!」

「いつでも!」

「ウチも大丈夫…です」


 ——ククク…いーい女どもだ…、姦しかったのに武器持った途端、しっかり戦う者の目付きになったな…。

 こりゃあ、大会前に鈍った体が仕上がっちまうなぁ…!

「よぅし、これからするのは単純明快」

「"ゴクリ…"」


 3人の喉が鳴る…しかしデルタは動じず木剣を聴き手で握りながら、片手で重心や刃渡りを確認していた…最早一種の『信頼とも取れる行動』にヴァラックは満足げに鼻を鳴らした。


 ——アイツはもう戦う気マンマンか…素晴らしい女だ…、言わずもがな分かる!って言いたげな表情しやがって、愛やつだ。

 だが、3人娘は分かってなさそうたがら言うか…

「私を半殺しにしろ」


「…えぇぅ!?」

 ——デルタは大いに動揺した。


 何故コイツが1番動揺してるんだ…、3人娘は放心状態…いやまぁ無理もないか、憧れの人間ボコせって言われて動揺しないはずがない…だろう?


 ヴァラックはどう説明するか頭を掻いて、首を捻った…その間にワナワナと正気に戻った3人娘が頭に「?」を浮かべて質問を投げかけてくる。


「あー、

「ちょ!?ヴァラックさん!どう言うことです!?」

まず、な?

「そーですよ!私たちにリンチされたいって!?」

落ち着いて、

「わ、私が…!あ、アナタをッ!?」

聞いてくれ、

「はぁ…ッはぁ…ッ!」

なぁおい」


 ——なんとか事態が収束した草原で、半泣きで息を切らせる3人娘と未だ頭を捻り続けるデルタ、かなりの混沌具合でヴァラックまで泣きそうになる。


 ぜぇぃ…ぜぇぃ……!や、やっと落ち着きやがったか…!てかデルタ、何も分かってなかったなぁ…?

 い、1から説明してやる必要があるな…こりゃあ…


——


「ま、まずな?」

「私は、強い」

「ヒッグ…や、役不足だからハンデですか…?」

「ああ違う違う…」


 もう何発しても泣くんじゃあないかなと、結論を急ぎ過ぎたと反省しつつ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「私は強い、その所為で」

 ——ピンチになった事がほぼ無いんだ。


「…なる…ほど」


 今までずっと顎に手を置いて黙っていたデルタがようやく言葉を発する、よくよく考えて更に、ヴァラックの言葉で少しだが納得出来たのだ。


 …なるほど、ははは…力技だなぁ…

「擬似的にピンチになる・・・・・・…ですか」

「正解」


 —そう、私は強い……強いせいで・・・『弱い』のだ、だが正確には『逆転力』が殆ど皆無だ。

 格上に勝つ能力はある、山王の翁竜子などいい例だ…アイツは私より「数桁格上だった」、ただ知能と泥臭さが上だっただけ、正直アレは決まりてこそ不意打ちで『必殺技・・・』の構えを取ったから勝てただけだ。

 アレは『師匠の構え』だ、別にだから使わないとは言わないが…、それに頼って戦い続けられるほどプライドは捨てちゃいない。


「だが、ヴァラックさん…アナタの実力なら必要ないのでは?」

「逆転力を見くびっちゃあダメだ。」


 私はついついデルタの発言に食い気味に食いついた、その声は少し語気が強く、大人気ないな…と自嘲しつつも言葉を続ける。


「断言しよう、このままでは優勝は不可能だ。」

「…そりゃ覇者は強いですが…私から見て、そこまで『力量に差はない』ように…思えますが」

「ああ無いだろう」

 ——それはほぼ間違いない、私とあの覇…『マントの魔法使い』は能力的には互角だろう…だが…。と、自分の弱点とも言えるこの不甲斐なさに、コメカミに青筋が浮かぶのを感じながら理由を語る。


「あんまり弱み人前に出したくないんだが…私は一度勢いを失うと『加速度的に弱くなる』。それは戦ってて思っただろ」

「……」

 ——納得…出来てしまった。

 ヴァラックさんと闘ったあの時、途中から暑さにやられて弱くなっていた…しかしそれ以上に、私が先鋭に攻め始めてから明らかに……

 ——攻め手が酷く弱く…「下手」になっていた。


「そういう事だ…」

「それが逆転力…、私は常に優勢にしか戦った事がない」

「だから一度でも失速すると、どうも私には巻き返し方が分からんのだ」

 ——師匠にも口酸っぱく言われた私の明確な弱点だ…、師匠との修行で何度も負けて来たが、師匠は決して大怪我や傷が残るような攻撃はして来なかった。

 …してくれなかった。


 色んな事をしてくれた師匠も、これだけは絶対にしてくれなかったのだ、あるとしても脱臼がせいぜいだ…しかも癖が付かないように配慮までされて、だ。


「そ、それで私たちにボコれと…?」

「ぼ、木剣と言えど、大怪我に繋がりますよ!」

「…これでもアタイら、銅等級なみに剣術は修めてます。」

「安心しろ」

 ——絶対反対されると思ったからな…わざわざ高っかい『コイツ・・・』を買って来たんだ…。


 ヴァラックさんは、うちらが必死で説得している間にポケットを漁り、一本の美しい液体を取り出した——。

 それはあまりにもキラキラと美しい液体に豪華な装飾が施された…瓶であった。


「「そ」」

「それって!!??」


「『完全なる回復液エリクサー』」

「白金貨20枚」(※円換算→200万)


「バカ高いコイツがありゃあ心配ないだろ?」


 んな…あ、アホな…。


 いくら大好きなヴァラックだとしても、3人娘はそうとしか思えなかった…『完全なる回復液エリクサー』など、訓練で使う物じゃない…。

 そんなポンポン使えるのは精々【最上金等級上位10席ワールドウェポン*】か勇者一行【天布連ジャスティフィア*】くらいだ。


——


 ——【最上金等級上位10席ワールドウェポン】と【天布連ジャスティフィア】は、それぞれ『国』を守る存在と、『魔族』に対するカウンター的存在だ。

 世界中から支援を受けている、だからこそいくつも使えるのだ、いくら『黒隼』とて一般人だ…訓練で使っていいような物ではない。


——


「か、勘弁して下さい!私たちがボコって、そんなモノ使われるなんて…!」

「「無駄過ぎる!!」」

「——と言うのは冗談で、ほい『赤色のポーションハイ・ポーション』コイツを使う」


……

………


 ——よ、よかったぁぁぁ…!!!


 アハートら3人組は冷や汗ダラダラで汗を拭って、顔を合わせた…

 流石に最高級レベルのポーションを、自身たちが与えたダメージを回復させるために使わせるなんて…とてもとても…ッ!!

 —冗談だ冗談〜…なんてヴァラックさんは言っていたが……あの目は…


「—いやぁ!いつか死にかけた時用に持ってるだけだぜ?」

「…そう…すか」

 —…嘘ついてる目だなぁ……。


「なぁデルタよ?お前なら気付いただろう?」

「ハハハ…ソウ…デスネ」

 ——どっちの事…???


「勿論だ」

 ——ボコるのが「恐れ多い」という感情を、最初に値段がデカいもん見せて、「勿体無い」という感情に上書きする…後からランクを落とせば「これならまぁ」と…なる訳だ。

「さて、晩飯前には帰してやりたいからよ、さっさと始めるぞ」

 …——ハイになってる間にやらせないと、違和感に気付かれるからな…。


「「「はい!頑張ります!」」」


「ああ頑張ってくれ!」

 …若干、若干痛む良心に目を逸らしながら、ドカリ!と地面に尻を付けて胡座をかく——。


「これくらいの嘘は可愛い嘘だろ…?」ボソ…

「(あ、やっぱり嘘なんだ)」

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